愛を教えて、キミ色に染めて【完】

夏目萌

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 髪を乾かしスキンケアを入念にした後、ベロア素材の少し大きめでシンプルな白いルームウェアを着た円香は何とか心を落ち着け、ようやく脱衣場から出て行く。

「すみません、時間掛かってしまって……」

 そう一言声を掛け、その声に反応した伊織が顔を上げると、

「…………」

 何だか少し雰囲気の違う彼女に見蕩れ、一瞬言葉を失ってしまう。

 そんな伊織に円香は勘違いをする。

(や、やっぱり、何か変?  部屋着、これじゃあ駄目だったのかな?  セクシーな方が良かった?)

 下着は大人っぽい物を身に付けている事もあり、ルームウェアまでセクシー過ぎると狙ってる感が半端ない、引かれてしまうなどとネットには書いてあったようで、円香はその情報から部屋着はシンプルな物を選んだのだけど、伊織の反応からそれは間違いだったのでは無いかと焦り後悔する。

「あ、あの……何か変……でしょうか?」

 無言の空気に耐えきれない円香は勇気を出して伊織に問い掛けると、

「いや、別にそんな事ねぇよ。つーか俺もシャワー浴びてくるわ」

 ノートPCを閉じて頭を掻いた伊織は何だか少し焦り気味で円香の横をすり抜けてリビングから出て行ってしまった。

(やっぱり、何か違ってるんだ……)

 一人残された円香は途方に暮れていたのだけど、伊織は決して怒った訳でもガッカリした訳でも無くて――

(何だあれ、アイツ、黒い下着とか着るのかよ……何つーか、あれはギャップあり過ぎだろ……)

 実は、ルームウェアはボタンタイプで上のボタンが開いたままになっていたせいか胸元が強調され、そこから黒いブラジャーがちらりと見えていたのだ。

 この前彼女の下着姿を見た時はイメージ通り白い下着だった事から大して意識もしていなかった伊織だけに、今回は全く真逆とあってついつい意識してしまっていて、それを悟られない為に表情には出さず、慌てて部屋を出たのだった。

 伊織がシャワーを浴びてリビングに戻ると、ソファーに座り何やら真剣な表情でスマホを凝視する円香の姿があった。

 しかも、かなり夢中で見入っているようで伊織が戻って来た事にすら気付いていない。

(何を真剣に見てんだか)

 どこか面白く無さそうな伊織はそのまま円香の元まで歩いて行き声を掛けると、

「おい」
「ひゃあ!?」

 驚いた円香は弾みで持っていたスマホを手から離して落としてしまう。

「何だよ、その声。ったく、何を真剣に見てんだか――」

 円香の落としたスマホが伊織の足元に落ちたので彼がそれを拾いあげると偶然画面が目に入り、

「――何だこれ……」
「あぁぁ!!  み、見ないでください!  見ちゃ駄目です!!」

 円香が直前まで見入っていたものが分かってしまう。

 呆気に取られる伊織に見られた事に焦る円香が大きな声を上げて立ち上がり、スマホを取り返そうと手を伸ばすも、

「ふーん、こんなの見てどうするつもりなんだよ?」

 何かを思いついたらしい伊織は意地の悪い笑みを浮かべながら、円香をひょいっとかわしていく。

「そ、それは、あくまでも参考に!」
「へぇ?」
「い、意地悪しないでください……!」
「別にそんなつもりはねぇけどな?」
「嘘です!  とにかく、今見たものは忘れてください!」
「どーするかな」
「い、伊織さんの意地悪……」

 からかわれて恥ずかしさに耐え切れなくなった円香はどうする事も出来ずに俯いてしまう。

 少しやり過ぎたと反省した伊織はそんな円香の頭にポンと優しく手を置くと、

「分かったよ、悪かった。もうからかわねぇから拗ねるなよ」

 悪かったと謝りながら円香にスマホを返した。

 円香が見ていた記事には『異性に意識される方法やお家デートのノウハウ』などが書かれていた。

 未だ伊織はルームウェアがお気に召さなかったのだと勘違いしている円香は何とか挽回しようと必死だったのだ。
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