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Ⅱ
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「んッ……は、あ……ッ、あの、いおり……さん」
「何だよ?」
「誰か……来た、みたいですけど……」
「ほっとけよ。どうせ勧誘だろ」
「で、でも……」
時刻は十九時半、来客予定は無いので、どうせ勧誘か何かだと言って対応する気が無い伊織。
そんな事よりも、彼にとって今は相手が誰かよりも行為を中断させられた事に納得がいかず、
「円香――」
名前を呼び、もう一度円香に触れようと手を伸ばしたものの、再びピンポーンと二度目のインターホンが鳴り響いた事に苛立った伊織は不機嫌そうな表情を浮かべて玄関へと向かって行く。
そして、
「しつけーんだよ!」
そう声を上げながら勢いよくドアを開けた先には、
「何だよ、そんなに怒る事ないじゃんかよ」
伊織の勢いに圧倒された雷斗の姿があった。
「雷……何で」
「電話の後で忠臣さんから頼まれた物があってさ、近くに用事もあったから、ついでに届けに来たんだよ」
「そりゃどーも」
「つーか、もしかして今、例の子来てんの?」
「……ああ、まあな」
「そうか、それは悪い時に来ちまったな」
「そう思うならさっさと帰れよ」
「まあ、そうしたいけど――やっぱどんな子が見ておかなきゃさぁ。って事でお邪魔します」
「あ、おい雷テメェ!」
玄関先で数分やり取りをした後、隙をついた雷斗は円香見たさから強引に中と入って行く。
「おい待てって!」
そんな彼の後を追い掛ける伊織だが間に合わず、
「初めまして~」
「えっと……はい、初めまして……」
突然上がってきた来訪者に戸惑う円香だったが相手につられて挨拶を口にした。
「あの、伊織さんのお友達……ですか?」
「ん~まあ、友達っていうか……なんて言うか……」
「コイツは早瀬 雷斗。便利屋のメンバーだ」
「ああ、便利屋さんなんですね! 私、雪城 円香と申します」
伊織に雷斗を紹介された円香は彼と同じ便利屋の人間と知って納得すると、深々と頭を下げながら自身の名前を名乗った。
「ご丁寧にどうも。よろしくね、円香ちゃん」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
雷斗が握手を求めて手を差し出してくると、それに圧倒されつつも応じた円香。
そんな二人のやり取りを黙って眺めている伊織の目付きは実に冷たいものだった。
「それで? 用件は忠臣さんからの預かり物だろ?」
「ああ、そうそう。これね」
問われて用事を思い出した雷斗は懐から小さい封筒を取り出すとそのまま伊織に手渡した。
「…………」
渡された封筒を開けるとすぐに中の紙に目を通す伊織。
そんな二人の光景を少し離れた場所で見ていた円香はひとまず雷斗に飲み物を出そうとキッチンへ向かう。
(もしかして、お仕事に関する事かな? それだったら、私は居ない方がいいのかも)
お湯が沸いてコーヒー淹れた円香はカップを二つトレーに乗せると、難しそうな表情を浮かべて何かを話し合う二人に声を掛ける。
「あの、コーヒーを淹れたので、良かったらこちらへどうぞ」
「ああ、悪いな」
「ありがとう、円香ちゃん」
円香の声掛けに反応した二人はそのままコーヒーカップが置かれたローテーブルの前へ移動する。
(聞いちゃったらいけない話かもしれない、やっぱり今日はもう帰ろうかな)
二人の邪魔にならないよう寝室に移動していた円香だったけれど、手持ち無沙汰なのと自分はここに居ない方が良いのではないかという考えを纏め、
「――あの、伊織さん。お仕事のお話のようですし、今日は私、帰りますね」
荷物を手にした円香が再び声を掛けると、
「はあ? 何言ってんだよ。お前はここに居て良いんだよ。つーか寧ろ帰るのはコイツ。雷、お前早く帰れよ」
驚きと不機嫌さが滲み出ている伊織は雷斗に帰るよう促した。
「何だよ?」
「誰か……来た、みたいですけど……」
「ほっとけよ。どうせ勧誘だろ」
「で、でも……」
時刻は十九時半、来客予定は無いので、どうせ勧誘か何かだと言って対応する気が無い伊織。
そんな事よりも、彼にとって今は相手が誰かよりも行為を中断させられた事に納得がいかず、
「円香――」
名前を呼び、もう一度円香に触れようと手を伸ばしたものの、再びピンポーンと二度目のインターホンが鳴り響いた事に苛立った伊織は不機嫌そうな表情を浮かべて玄関へと向かって行く。
そして、
「しつけーんだよ!」
そう声を上げながら勢いよくドアを開けた先には、
「何だよ、そんなに怒る事ないじゃんかよ」
伊織の勢いに圧倒された雷斗の姿があった。
「雷……何で」
「電話の後で忠臣さんから頼まれた物があってさ、近くに用事もあったから、ついでに届けに来たんだよ」
「そりゃどーも」
「つーか、もしかして今、例の子来てんの?」
「……ああ、まあな」
「そうか、それは悪い時に来ちまったな」
「そう思うならさっさと帰れよ」
「まあ、そうしたいけど――やっぱどんな子が見ておかなきゃさぁ。って事でお邪魔します」
「あ、おい雷テメェ!」
玄関先で数分やり取りをした後、隙をついた雷斗は円香見たさから強引に中と入って行く。
「おい待てって!」
そんな彼の後を追い掛ける伊織だが間に合わず、
「初めまして~」
「えっと……はい、初めまして……」
突然上がってきた来訪者に戸惑う円香だったが相手につられて挨拶を口にした。
「あの、伊織さんのお友達……ですか?」
「ん~まあ、友達っていうか……なんて言うか……」
「コイツは早瀬 雷斗。便利屋のメンバーだ」
「ああ、便利屋さんなんですね! 私、雪城 円香と申します」
伊織に雷斗を紹介された円香は彼と同じ便利屋の人間と知って納得すると、深々と頭を下げながら自身の名前を名乗った。
「ご丁寧にどうも。よろしくね、円香ちゃん」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
雷斗が握手を求めて手を差し出してくると、それに圧倒されつつも応じた円香。
そんな二人のやり取りを黙って眺めている伊織の目付きは実に冷たいものだった。
「それで? 用件は忠臣さんからの預かり物だろ?」
「ああ、そうそう。これね」
問われて用事を思い出した雷斗は懐から小さい封筒を取り出すとそのまま伊織に手渡した。
「…………」
渡された封筒を開けるとすぐに中の紙に目を通す伊織。
そんな二人の光景を少し離れた場所で見ていた円香はひとまず雷斗に飲み物を出そうとキッチンへ向かう。
(もしかして、お仕事に関する事かな? それだったら、私は居ない方がいいのかも)
お湯が沸いてコーヒー淹れた円香はカップを二つトレーに乗せると、難しそうな表情を浮かべて何かを話し合う二人に声を掛ける。
「あの、コーヒーを淹れたので、良かったらこちらへどうぞ」
「ああ、悪いな」
「ありがとう、円香ちゃん」
円香の声掛けに反応した二人はそのままコーヒーカップが置かれたローテーブルの前へ移動する。
(聞いちゃったらいけない話かもしれない、やっぱり今日はもう帰ろうかな)
二人の邪魔にならないよう寝室に移動していた円香だったけれど、手持ち無沙汰なのと自分はここに居ない方が良いのではないかという考えを纏め、
「――あの、伊織さん。お仕事のお話のようですし、今日は私、帰りますね」
荷物を手にした円香が再び声を掛けると、
「はあ? 何言ってんだよ。お前はここに居て良いんだよ。つーか寧ろ帰るのはコイツ。雷、お前早く帰れよ」
驚きと不機嫌さが滲み出ている伊織は雷斗に帰るよう促した。
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