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人生で数える程しか来た事が無かったお祭り。
幼い頃、叔父さんに連れられて何度か行った事はあったけれど、あの時は叔母さんに遠慮して殆ど何も買ってもらったりはしなかった。
従姉妹はお面とか、キラキラ光るアクセサリーとか、色々な物を買ってもらって喜んでいて、密かに羨ましく思っていた。
中学や高校生の頃にも友達と行ったけど、お金が勿体無いと思って最小限しか買わなかった。
だけど今日は違う。
普段はなるべくお金を使わないようにと節約しているけど、今日は食べたいと思う物を買って楽しんでいる。
しかも、家族のように安心出来る存在の小谷くんと共に。
「結構買ったけど、こんなに食えるか?」
「大丈夫! 私、お腹空いてるし」
「まあ、俺も。とりあえずそろそろ花火も始まるし、どこかに座って食おうぜ」
「そうだね」
いくつか食べ物を買い込んだ私たちは、そろそろ花火も始まる時刻とあって、座る場所を探す事にした。
小規模の割には人が沢山居てなかなか良い場所が見つからない。
「少し離れるか。あっちの方なら屋台もあんま無いから空いてそうだし」
「そうだね」
屋台が沢山出ているエリアはやっぱり人も多いので、少し離れた場所まで歩いて行く。
暫く歩くと屋台も殆ど無いので人も疎らになって、ちょうど近くにあった小さい公園に入ると、空いていたベンチを見つけた。前方に木があって少し見づらいけれど、少しずれれば問題無いと判断して、そこへ座って買ってきた物を食べ始めながら花火が上がるのを待っていた。
「小谷くんは、お祭りの思い出とか、あったりする?」
「別にねぇな。つーか誰かと行ったのなんて、昔過ぎてもう忘れた」
「そっか」
「由井は?」
「え?」
「由井は、思い出とかあんの?」
「……嬉しい思い出じゃなくて、切ない思い出ならあるかな」
「何だよ、それ」
「前に話したと思うけど、私、両親がいなかったから叔父さんの家でお世話になってたんだけど……何度か従姉妹と一緒にお祭りに連れて行ってもらった時にね、従姉妹は色々買って貰っていたんだけど、私は遠慮して欲しい物を欲しいって言えなかったの。子供の頃だと、やっぱりお面とか、光る玩具とか、そういうのを周りは買って貰ってて羨ましかった。でも一度だけ、どうしても欲しい物を見つけておねだりした事があったんだけど……それは従姉妹が欲しがらなかったから叔母さんに却下されちゃって、結局買えずじまいだった……」
「欲しい物って、何だったんだよ?」
「指輪」
「指輪?」
「うん。まあ、露天で売ってる指輪なんて、大した物でも無いんだけどね、ハートの形した綺麗な石が付いてて、凄く可愛かったんだ。あれだけはどうしても欲しかったんだけど、叶わなかった。それが一番切ない思い出」
そんな話をし終えた瞬間、目の前で大きな花火が上がり始めた。
「うわぁ! 綺麗!」
「ああ、本当だな」
テンポよく色とりどりの花火が空へ上がっていく。
昔も、お祭りで花火を見た時、綺麗だって思った。
だけど、もし両親が生きていて、私も家族でお祭りに来られていたら欲しい物を買ってと多少の我侭を言えたり、もっと素直にお祭りを楽しめたのかなって考えたら、涙が出る程悲しくなったっけ。
でも今日は、純粋にお祭りを楽しめてる自分が居る。
それはきっと、小谷くんと一緒だから。
最近私は、薄々気付き始めていた。
小谷くんに対する気持ちの意味を。
だけど、それにハッキリと気付いてはいけない気がして、その度に考えるのを止めてしまう。
ふと、空を見上げる彼の横顔が視界に入り、ドキッとする。
普段とは違う、どこか楽しそうで嬉しそうな表情。
きっと、本人も思っている以上に花火が好きなんだろう。
お祭りに一緒に来られて良かった。誘って良かったと心底思う。
そしてあわよくば、来年もまた、一緒に来たいなと思った。
一時間程で花火の打ち上げが終わり、屋台のエリアから人が流れるように公園の前を通過して駅の方へ向かって行く。
私たちも食べた物のゴミをゴミ箱に捨てて人の流れに乗るのかと思いきや、何故か小谷くんは人混みに逆らって逆方向へ歩こうとする。
「小谷くん?」
不思議に思った私が彼の名前を呼びながら声を掛けると、
「まだ買いたい物あるからもう一度あっちのエリアに行きたい」
そう口にした小谷くんは私の手を取ると、人混みに逆らいながら歩き出した。
突然手を繋がれてドキッとしたけど、そんな余韻に浸る間もなく、とにかく人混みが凄くてはぐれないよう必死になる。
(っていうか買いたい物って何だろ? まだ食べたりなかったのかな?)
まぁ、お祭りなんてそうそう頻繁にあるものじゃないから屋台の食べ物も滅多に買えないし、買いたい物があるなら買っておいた方がいいだろうと心の中で納得し、人混みに逆らいながら歩き続け、無事に屋台のエリアへと戻る事が出来た。
幼い頃、叔父さんに連れられて何度か行った事はあったけれど、あの時は叔母さんに遠慮して殆ど何も買ってもらったりはしなかった。
従姉妹はお面とか、キラキラ光るアクセサリーとか、色々な物を買ってもらって喜んでいて、密かに羨ましく思っていた。
中学や高校生の頃にも友達と行ったけど、お金が勿体無いと思って最小限しか買わなかった。
だけど今日は違う。
普段はなるべくお金を使わないようにと節約しているけど、今日は食べたいと思う物を買って楽しんでいる。
しかも、家族のように安心出来る存在の小谷くんと共に。
「結構買ったけど、こんなに食えるか?」
「大丈夫! 私、お腹空いてるし」
「まあ、俺も。とりあえずそろそろ花火も始まるし、どこかに座って食おうぜ」
「そうだね」
いくつか食べ物を買い込んだ私たちは、そろそろ花火も始まる時刻とあって、座る場所を探す事にした。
小規模の割には人が沢山居てなかなか良い場所が見つからない。
「少し離れるか。あっちの方なら屋台もあんま無いから空いてそうだし」
「そうだね」
屋台が沢山出ているエリアはやっぱり人も多いので、少し離れた場所まで歩いて行く。
暫く歩くと屋台も殆ど無いので人も疎らになって、ちょうど近くにあった小さい公園に入ると、空いていたベンチを見つけた。前方に木があって少し見づらいけれど、少しずれれば問題無いと判断して、そこへ座って買ってきた物を食べ始めながら花火が上がるのを待っていた。
「小谷くんは、お祭りの思い出とか、あったりする?」
「別にねぇな。つーか誰かと行ったのなんて、昔過ぎてもう忘れた」
「そっか」
「由井は?」
「え?」
「由井は、思い出とかあんの?」
「……嬉しい思い出じゃなくて、切ない思い出ならあるかな」
「何だよ、それ」
「前に話したと思うけど、私、両親がいなかったから叔父さんの家でお世話になってたんだけど……何度か従姉妹と一緒にお祭りに連れて行ってもらった時にね、従姉妹は色々買って貰っていたんだけど、私は遠慮して欲しい物を欲しいって言えなかったの。子供の頃だと、やっぱりお面とか、光る玩具とか、そういうのを周りは買って貰ってて羨ましかった。でも一度だけ、どうしても欲しい物を見つけておねだりした事があったんだけど……それは従姉妹が欲しがらなかったから叔母さんに却下されちゃって、結局買えずじまいだった……」
「欲しい物って、何だったんだよ?」
「指輪」
「指輪?」
「うん。まあ、露天で売ってる指輪なんて、大した物でも無いんだけどね、ハートの形した綺麗な石が付いてて、凄く可愛かったんだ。あれだけはどうしても欲しかったんだけど、叶わなかった。それが一番切ない思い出」
そんな話をし終えた瞬間、目の前で大きな花火が上がり始めた。
「うわぁ! 綺麗!」
「ああ、本当だな」
テンポよく色とりどりの花火が空へ上がっていく。
昔も、お祭りで花火を見た時、綺麗だって思った。
だけど、もし両親が生きていて、私も家族でお祭りに来られていたら欲しい物を買ってと多少の我侭を言えたり、もっと素直にお祭りを楽しめたのかなって考えたら、涙が出る程悲しくなったっけ。
でも今日は、純粋にお祭りを楽しめてる自分が居る。
それはきっと、小谷くんと一緒だから。
最近私は、薄々気付き始めていた。
小谷くんに対する気持ちの意味を。
だけど、それにハッキリと気付いてはいけない気がして、その度に考えるのを止めてしまう。
ふと、空を見上げる彼の横顔が視界に入り、ドキッとする。
普段とは違う、どこか楽しそうで嬉しそうな表情。
きっと、本人も思っている以上に花火が好きなんだろう。
お祭りに一緒に来られて良かった。誘って良かったと心底思う。
そしてあわよくば、来年もまた、一緒に来たいなと思った。
一時間程で花火の打ち上げが終わり、屋台のエリアから人が流れるように公園の前を通過して駅の方へ向かって行く。
私たちも食べた物のゴミをゴミ箱に捨てて人の流れに乗るのかと思いきや、何故か小谷くんは人混みに逆らって逆方向へ歩こうとする。
「小谷くん?」
不思議に思った私が彼の名前を呼びながら声を掛けると、
「まだ買いたい物あるからもう一度あっちのエリアに行きたい」
そう口にした小谷くんは私の手を取ると、人混みに逆らいながら歩き出した。
突然手を繋がれてドキッとしたけど、そんな余韻に浸る間もなく、とにかく人混みが凄くてはぐれないよう必死になる。
(っていうか買いたい物って何だろ? まだ食べたりなかったのかな?)
まぁ、お祭りなんてそうそう頻繁にあるものじゃないから屋台の食べ物も滅多に買えないし、買いたい物があるなら買っておいた方がいいだろうと心の中で納得し、人混みに逆らいながら歩き続け、無事に屋台のエリアへと戻る事が出来た。
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