30 / 32
6
3
しおりを挟む
お祭り当日、特に問題無く業務を終えた私は小谷くんが迎えに来てくれるのを事務所で待っていた。
そこへ、
「葉月ちゃん、帰らないの?」
休憩に入った関根さんが仕事を終えてもまだ事務所内に留まっていた私に声を掛けてきた。
「あ、えっと……今日はこの後お祭りに行くので、友達を待っているんです」
「祭り……そう言えば今日だったね。そっかぁ、いいねぇ」
「関根さんはお祭り、行かないんですか?」
「一人で行ってもねぇ。一緒に行く人がいれば良いんだけど」
「す、すみません……変な事聞いてしまって……」
「あはは、気にしないで。それよりも祭り、楽しんで来てね」
「はい! ――あ、友達が着いたみたいなので、お先に失礼します!」
「お疲れ様」
ちょうど小谷くんから《着いた》というメッセージが届いた事もあり、私は話を終わらせて事務所を後にした。
「お待たせ! お疲れ様、小谷くん」
「由井もお疲れ」
「それじゃ、行こっか!」
「ああ」
店の外で合流した私たちは互いに「お疲れ様」を言い合うと、出店が出ているエリアに向かって歩き出した。
浴衣姿の女の子を見かける度、私も着たいななんて思うけれど、そもそも浴衣なんて持ってないし、一人じゃ着れないのであくまでも見てるだけ。
「女って浴衣着てる奴多いけど、あれ、着るの大変そうだし、暑そうだし、良いこと無さそう……」
そんな中でそうポツリと呟いた小谷くんの言葉に、思わず笑ってしまう。
「まあ、面倒だったとしても、お祭りだし、やっぱり着たいなって思うんだよ」
「ふーん。由井は?」
「え?」
「由井は浴衣、着ないの?」
「私は、着てみたいけど、持ってないし、一人じゃ着れないから……」
「まあ、普段祭り行かないのにわざわざ買わねぇよな。それに、バイトの後じゃ無理か」
「うん、そうそう」
「――じゃあ、来年は着れば?」
「え?」
「来年は休み取って浴衣着て、祭りに来ればいいんじゃん?」
「そ、そう……だね」
小谷くんの突然の言葉に、私は驚きを隠せず動揺してしまう。
“来年”それって、つまりは来年もまた一緒に来るという意味なのだろうか?
今の私たちはいつまでこの同居生活を続けるかというのを話し合った事はない。
だから、来年の事なんて考えもしなかったけど、小谷くんの中では、来年も私と一緒に居る未来が存在しているという事なのだろうか?
それとも、自分とじゃなくて、誰かとお祭りに行く時に浴衣を着て行けばという意味なのだろうか。
先程の言葉の意味を聞きたいなと思って口を開き掛けた、その時――
「葉月ちゃん?」
そう後ろから名前を呼ばれて振り返ると、
「浦部くん……」
そこには、友達数人とお祭りに来ていた浦部くんが立っていた。
「浦部、俺ら先にあっち行ってるぞ?」
「あ、ああ、分かった」
友達と言葉を交わした浦部くんは再び私に向き直る。
「葉月ちゃんも、来てたんだね」
「う、うん」
「えっと、友達……と一緒なのかな?」
そして、小谷くんをチラリと見つつ、「友達なのか」という問い掛けをする彼。
「あ、う、うん、そうなの。たまたまバイト帰りに会って……お祭りやってるの気付いてちょっと覗いて行こうかって……」
ひとまずこの場を切り抜けようと、小谷くんは「友達」、お祭りには「バイト帰りに偶然会って覗きにきた」というシナリオで浦部くんに説明した。
勿論、小谷くんは何も答えない。
ただ、私と浦部くんが話しているのを黙って見ているだけ。
「そっか。……まあ、バイトなら仕方ないけど、時間が出来たなら、俺を誘ってくれたら嬉しかったな。って、ごめん、こんな事言っても困らせるだけだね。連れが待ってるからもう行くよ。またね、葉月ちゃん」
「あ、う、うん……またね」
少し悲しげな表情を見せた浦部くんはすぐに笑顔を浮かべると、友達が待っている方へ歩いて行ってしまった。
「由井、何か食おうぜ。俺、腹減った」
「あ、うん、そうだね、ごめんね、待たせて」
「別に、構わねぇけど。アイツ、かなり俺の事敵視してたな。まあ、当然か。気になる奴が他の男と居るんだから」
「そ、そう……なのかな……」
「普通の反応だろ。つーか、その気が無いならハッキリ言った方がいいと俺は思う」
その言葉は最もだと思う。
この前それとなく伝えはしたけど、浦部くんに可能性が無いわけじゃないならって言われて、ハッキリと断りきれなかった。
浦部くんの事は決して嫌いじゃないけど、彼と一緒に居る未来が、私には見えない。
あくまでも友達止まり。
恋愛に発展する可能性は正直無い。
(……やっぱり、今度直接会って、ハッキリ伝えよう)
このまま期待を持たせるのは違うし、浦部くんにも申し訳ない。今度直接会ってもう一度きちんと自分の思いを伝えようと心に決めた私は、
「そうだよね、私、今度浦部くんに自分の気持ち、話そうと思う」
「ああ、その方がいい」
「うん……えっと、何食べよっか?」
「焼きそばとか?」
「たこ焼きもいいよね」
「ま、祭りに来てケチるのも違うだろうし、今日は食いたいもん片っ端から食うか」
「そうだね!」
せっかく楽しみにしていたお祭りを楽しもうと、気持ちを切り替えた。
そこへ、
「葉月ちゃん、帰らないの?」
休憩に入った関根さんが仕事を終えてもまだ事務所内に留まっていた私に声を掛けてきた。
「あ、えっと……今日はこの後お祭りに行くので、友達を待っているんです」
「祭り……そう言えば今日だったね。そっかぁ、いいねぇ」
「関根さんはお祭り、行かないんですか?」
「一人で行ってもねぇ。一緒に行く人がいれば良いんだけど」
「す、すみません……変な事聞いてしまって……」
「あはは、気にしないで。それよりも祭り、楽しんで来てね」
「はい! ――あ、友達が着いたみたいなので、お先に失礼します!」
「お疲れ様」
ちょうど小谷くんから《着いた》というメッセージが届いた事もあり、私は話を終わらせて事務所を後にした。
「お待たせ! お疲れ様、小谷くん」
「由井もお疲れ」
「それじゃ、行こっか!」
「ああ」
店の外で合流した私たちは互いに「お疲れ様」を言い合うと、出店が出ているエリアに向かって歩き出した。
浴衣姿の女の子を見かける度、私も着たいななんて思うけれど、そもそも浴衣なんて持ってないし、一人じゃ着れないのであくまでも見てるだけ。
「女って浴衣着てる奴多いけど、あれ、着るの大変そうだし、暑そうだし、良いこと無さそう……」
そんな中でそうポツリと呟いた小谷くんの言葉に、思わず笑ってしまう。
「まあ、面倒だったとしても、お祭りだし、やっぱり着たいなって思うんだよ」
「ふーん。由井は?」
「え?」
「由井は浴衣、着ないの?」
「私は、着てみたいけど、持ってないし、一人じゃ着れないから……」
「まあ、普段祭り行かないのにわざわざ買わねぇよな。それに、バイトの後じゃ無理か」
「うん、そうそう」
「――じゃあ、来年は着れば?」
「え?」
「来年は休み取って浴衣着て、祭りに来ればいいんじゃん?」
「そ、そう……だね」
小谷くんの突然の言葉に、私は驚きを隠せず動揺してしまう。
“来年”それって、つまりは来年もまた一緒に来るという意味なのだろうか?
今の私たちはいつまでこの同居生活を続けるかというのを話し合った事はない。
だから、来年の事なんて考えもしなかったけど、小谷くんの中では、来年も私と一緒に居る未来が存在しているという事なのだろうか?
それとも、自分とじゃなくて、誰かとお祭りに行く時に浴衣を着て行けばという意味なのだろうか。
先程の言葉の意味を聞きたいなと思って口を開き掛けた、その時――
「葉月ちゃん?」
そう後ろから名前を呼ばれて振り返ると、
「浦部くん……」
そこには、友達数人とお祭りに来ていた浦部くんが立っていた。
「浦部、俺ら先にあっち行ってるぞ?」
「あ、ああ、分かった」
友達と言葉を交わした浦部くんは再び私に向き直る。
「葉月ちゃんも、来てたんだね」
「う、うん」
「えっと、友達……と一緒なのかな?」
そして、小谷くんをチラリと見つつ、「友達なのか」という問い掛けをする彼。
「あ、う、うん、そうなの。たまたまバイト帰りに会って……お祭りやってるの気付いてちょっと覗いて行こうかって……」
ひとまずこの場を切り抜けようと、小谷くんは「友達」、お祭りには「バイト帰りに偶然会って覗きにきた」というシナリオで浦部くんに説明した。
勿論、小谷くんは何も答えない。
ただ、私と浦部くんが話しているのを黙って見ているだけ。
「そっか。……まあ、バイトなら仕方ないけど、時間が出来たなら、俺を誘ってくれたら嬉しかったな。って、ごめん、こんな事言っても困らせるだけだね。連れが待ってるからもう行くよ。またね、葉月ちゃん」
「あ、う、うん……またね」
少し悲しげな表情を見せた浦部くんはすぐに笑顔を浮かべると、友達が待っている方へ歩いて行ってしまった。
「由井、何か食おうぜ。俺、腹減った」
「あ、うん、そうだね、ごめんね、待たせて」
「別に、構わねぇけど。アイツ、かなり俺の事敵視してたな。まあ、当然か。気になる奴が他の男と居るんだから」
「そ、そう……なのかな……」
「普通の反応だろ。つーか、その気が無いならハッキリ言った方がいいと俺は思う」
その言葉は最もだと思う。
この前それとなく伝えはしたけど、浦部くんに可能性が無いわけじゃないならって言われて、ハッキリと断りきれなかった。
浦部くんの事は決して嫌いじゃないけど、彼と一緒に居る未来が、私には見えない。
あくまでも友達止まり。
恋愛に発展する可能性は正直無い。
(……やっぱり、今度直接会って、ハッキリ伝えよう)
このまま期待を持たせるのは違うし、浦部くんにも申し訳ない。今度直接会ってもう一度きちんと自分の思いを伝えようと心に決めた私は、
「そうだよね、私、今度浦部くんに自分の気持ち、話そうと思う」
「ああ、その方がいい」
「うん……えっと、何食べよっか?」
「焼きそばとか?」
「たこ焼きもいいよね」
「ま、祭りに来てケチるのも違うだろうし、今日は食いたいもん片っ端から食うか」
「そうだね!」
せっかく楽しみにしていたお祭りを楽しもうと、気持ちを切り替えた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる