近くて遠いキミとの距離

夏目萌

文字の大きさ
上 下
13 / 32
2

4

しおりを挟む
「葉月~、こっちこっち~!」

 翌日、約束の時間十五分前に待ち合わせ場所に着いた私は一番乗りかと思っていたのだけど、杏子の方が早かった。

 男の人と二人きりで会うのはどうしても嫌だったから、杏子と紹介された男の人とその友達の四人で会う事になっている。

 私の姿を見つけた杏子は、いつもの様に明るい笑顔を向けながら手を振っていた。

「杏子、早いね」
「そうなの。ちょっと早く来すぎちゃってさぁ~ってか今日の葉月、いつもより可愛い!」
「え、そ、そうかな?」
「うん!  葉月ってば大学は大体ジーンズとかパンツ系が多いじゃん?  スカートとか滅多に見ないし、ワンピースとか初めて見た!  可愛いよ」
「あ、ありがとう」

 可愛いを連呼され何だか妙に照れ臭くなった私は、とりあえずお礼を口にした。

 杏子は相変わらずお洒落で私なんか到底適わないけど、可愛いと言われるのは素直に嬉しい。

 そうこうしているうちに、

「お待たせ」
「どーも」

 杏子の知り合いの男の人がやって来た。

 二人は杏子の中学時代の同級生で、どちらももの凄いイケメンだ。

 紹介してくれると言っていた男の人は、浦部うらべ  航太こうたくん。

 髪は明るめの茶髪で気さくというか少し女の子慣れしてそうで、軽いという印象を持った。

 もう一人は浦部くんの友人、楠木くすのき  瑛二えいじくん。

 楠木くんは浦部くんとは対照的で大人しめというか口数が少ないというか、一言で言うなら小谷くんに近い印象を持った。

「ってか、葉月ちゃん?  めっちゃ可愛いね」

 互いの自己紹介を軽く済ませた私たちは気兼ねなく話せる所という事ですぐ近くにあったカラオケ店に入り、席に着いたタイミングで浦部くんがそんな事を口にして来た。

「いや、そんな事ないです……」
「でしょ?  可愛いよね!」
「ちょ、ちょっと、杏子……」

 私が反論すると、言葉に被せるように浦部くんの言葉に同調する杏子。

 私の事はともかくとして、浦部くんと杏子は何だか凄く仲の良さそうな雰囲気だ。

「みんな、何頼む?」

 二人が盛り上がる中、マイペースにそう聞いてきたのは楠木くん。

「俺コーラ」
「あ、私も」
「この唐揚げポテトプレートってのも頼もうぜ」
「いいね!  あ、後これは?」
「由井さんは?」

 浦部くんと杏子が口々に注文する物を話し合っている中、気を利かせてくれたのか楠木くんが私にも聞いてくれた。

「あ、えっと……じゃあ、オレンジジュースで……」

 だけど、緊張していた私はそう答えるのが精一杯で、何だか素っ気なく見えているのではと気が気でなかった。

 暫くして、二人と話す事に徐々に慣れていき、カラオケ店で五時間程過ごした私たちが店を出ると、空は厚い雲に覆われて今にも雨が降り出しそうな天気に変わっていた。

「うわ、何か雨降りそう」
「今日雨予報だったっけ?」
「どうだろ?  ってか、この後どうする?」

 杏子たちが話し合っている中、私はボーッと真っ直ぐ前を見つめていると、バイトの帰りなのか駅の改札口に小谷くんの姿を捉えた。

 ただ、何気なく彼の姿を目で追っていた私。

 そんな私の視線に気付いたのか、それともただの偶然か小谷くんがこちらを向いて視線がぶつかった。

「どうかしたの、葉月?」
「え?  あ、ううん、何でもないよ」
「ふーん?  ま、いいや。これからご飯でも食べに行こうかって事で話纏まったんだけど、葉月は何食べたい?」

 天気も悪くなりそうだし、もうお開きかなとも思ったけれど、どうやら違うらしい。

「何でもいいよ、みんなに合わせるよ」

 食べたい物の候補も特にないのでそう答えた。

「じゃあファミレスでいいんじゃん?」
「そうだね」

 杏子たちの会話を聞きながらもう一度小谷くんが居た方に視線を向けたのだけど、いつの間にか彼はいなくなっていた。

 そして気づけば、私は流されるままにファミレスへ向かう事になった。

 ファミレスに着いて少し経った頃に土砂降りの雨が降り、雨宿りも兼ねて暫くファミレスで時間を潰した私たち。

 それから更に時は経って時刻は十九時過ぎ。

「俺、二十一時からバイトだからそろそろ帰る」

 という楠木くんの言葉で、ようやくお開きになった。

「葉月だけあっち方面かぁ……」
「あ、俺送って行こうか?」

 店を出て一人だけ帰る方角が違う私を心配した杏子の言葉に浦部くんが送ると言ってくれたのだけど、

「大丈夫です。人通りも結構ありますから」

 申し訳無い気持ちと、二人きりは不安な気持ちから断った。

 帰り際、連絡先を交換して欲しいという浦部くんにメッセージアプリのIDを教えた後、皆と別れて一人歩いて行く。

「……ふぅ……疲れた」

 自宅までは歩いて約三十分ちょっと。

 行きは電車で来たけど、雨も上がったし夜風が気持ち良かった事もあって徒歩で帰る事にした私は繁華街を抜け、出来るだけ明るい道を選びながら歩き進めて行く。

 浦部くんも楠木くんも良い人ではあったけれど、気を遣いすぎて疲れてしまった。

(やっぱり、男の人と話したりするのって、苦手だな)

 そう思いながらアパートへ向けて足を進めていくと、ふいに後ろから私のとは別の足音が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...