近くて遠いキミとの距離

夏目萌

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 私たちが今座っているのは四人がけのテーブル席。杏子と由奈さんが横に並んで座り、杏子の正面に私が座っていてその隣の席が空いているのだ。

「え……あ、うん……」

 私にだけ聞いて、杏子や由奈さんには聞かずに席に着く小谷くん。杏子はあからさまに嫌な顔をしているのが分かる。

「ちょっと葉月、何でオッケーしちゃうのよ……」

 そう小声で私の名前を呼び、抗議する杏子だけど距離的にそれは全く意味をなさず、絶対小谷くんに聞こえているだろうけど気にも留めていない。代わりに由奈さんが困ったような表情を浮かべ、

「あ、じゃあ私はそろそろ行くわ。杏子、葉月ちゃん、またね」

 そそくさと去って行った。

「あーあ、由奈さん行っちゃったよ」
「あ、はははは……」

 嘆く杏子に、苦笑いを浮かべる私。そんな私たちのやり取りに興味がないのだろう。小谷くんは黙々と定食の鯖の味噌煮を口に運んでいた。

(でも、どうしてわざわざこの席に来たのかな……他にも空いてるのに)

 食堂は混んでいたけど、ひと席空いてる所ならこの席以外にもあるから何故ここを選んだのか疑問に思う。

(同じ学部で同じ学科だったからかな?  杏子とは高校同じだったし……)

 そう思いながらも、もしかしたら別の理由があるのではという心当たりがあった。

(……もしかして、私が困ってたから、助けてくれた……とかだったりして……)

 そうだったらちょっとだけ嬉しいかもと思ったけど、

(ま、無いよね。気のせいか)

 そんな事はある訳ないと考えるのを止めにした。


「あちゃー降ってきちゃったよ……」

 杏子とファミレスで長々とおしゃべりをした帰り道、土砂降りに近い雨が降ってきた。

 仕方ないので途中にあるコンビニで雨宿りをする為、店の前で濡れた髪や服をハンカチで拭い空を見上げた。

「……すぐ止むかな……」

 ここからアパートまでは約十分。走ればもう少し早く着くだろうけど、この雨脚ではずぶ濡れは確定だ。

 かと言って、コンビニで傘を買うのは勿体ないので、ひとまず店内で時間を潰す事にした私は雑誌コーナーへ向かった。

(……うーん、やっぱり止まないなぁ)

 雑誌を読み始めてから十五分くらいは経っただろうか。外に視線を向けるも、いっこうに止む気配はない。

 私と同じように雨宿りをしていた人も何人かいたけど、諦めて傘を買って店を出て行ってしまう。

(……やっぱ駄目か。仕方ない、私も夕飯と傘買って帰ろう)

 溜め息を吐きながら雑誌を棚に戻し、お弁当が並ぶ棚へと移動した。

 買い物カゴにお弁当や飲み物を入れ、最後に傘を手にした私がレジへ並ぼうとした、その時、

「おい」
「は、はい!?」

 突然後ろから声を掛けられたので、誰だろうと思い後ろを振り返ると、

「あ、小谷くん」

 そこにはいつもと変わらず無愛想な小谷くんが立っていた。
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