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番外編

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「――とまあ、半ば勢いで身体の関係を持った……っていうのが始まりだったかな」
「そうだったんですね」
「お互い同じ気持ちだったって分かった時は嬉しかったから、勢いでも私は後悔してないの」
「だけど、恭輔さんって勢いとかそういう感じで恋愛を始める印象が無かったので、少し意外です」
「そうだね、それは本人も後から言ってた。周りからのイメージがあるから、それもあって話したがらないっていうのも大きいかな」
「きっとそうですね。だけど私は樹奈さんの事が大好きで、心配性な恭輔さんの方がいいと思いますけどね」
「あはは、確かにね。私もそうだよ。だけどそんな姿組員には絶対見せないだろうなぁ。せいぜい郁斗さんくらいだよ」
「郁斗さんですら、素の恭輔さんの姿はなかなか見られないみたいですよ」
「そうなんだ?  本当、徹底してるなぁ」

 恭輔との馴れ初めを話す樹奈はどこか嬉しそうで、気分が優れないと嘆いていた彼女に元気が戻っている事を詩歌は嬉しく思っていた。

「そういえば、その……恭輔さんと御付き合いする事になった後、ホテルからは無事に帰れたんですか?」
「ああ、うん。ホテルからは無事に帰れたよ。ただ、予定よりも大幅に部屋を出るのが遅くなっちゃったから心配した組員の人が確認しに来ちゃって、ちょっと気まずかったけどね」
「そうなんですね。まあ確かに当初は少し休むだけ、だったんですものね」
「そうそう。それが寝てただけじゃなくて、その後でセックスしてたんだもんね。周りが知ったら何してんのって話しよ、本当に」

 そして再びそれからの事を掻い摘んで話した樹奈。

 結局ホテルを出てから樹奈の自宅まで送ってくれたものの、相手に樹奈の顔を見られているかもしれない事を懸念した恭輔は自分の元へ置く方が安全だと考え、とりあえず必要な荷物を纏めさせてそのまま恭輔の自宅に住む事になり、周りには樹奈の安全の為だと言い聞かせ、交際を始めた事を内緒にしたままで同棲生活を始めたのだという。

 一通りの話を終えたタイミングで恭輔と郁斗が仕事を終えて帰宅して来た。

「ただいま」
「お邪魔します」
「お帰りなさい」

 何やらいつになく上機嫌な樹奈を前にした恭輔が「何だ?  何か良いことでもあったのか?」なんて呑気に尋ねるも、周りに言いたがらない交際のきっかけを勝手に話したとは言えず、「何でもないですよ。多分詩歌ちゃんと色々お話出来たから、かな?」と誤魔化しながら樹奈は可笑しそうに笑っていた。


 皆で夕飯を食べ終えた後で郁斗と詩歌が帰っていき、お風呂を済ませて寝る支度を整えた恭輔と樹奈は、いつもより少し遅めにベッドへ入る。

「今日は一体どんな話をしていたんだ?」
「知りたいですか?」
「ああ」
「でも、言っちゃうと恭輔さん、次に詩歌ちゃんと顔を合わせるの気まずくなっちゃうかも……」
「……まさか、話したのか? 俺らの馴れ初めを」
「……はい。恭輔さんには悪いなと思ったんですけど、でも、私は誰かに話したかったから。大好きな恭輔さんとの、始まりを」

 馴れ初めの経緯を人に知られたくなかった恭輔は複雑な感情を抱くも、樹奈がそれをして満足ならばそれでも良いかと思っていたりする。

「まあ、詩歌なら人に言って回ったりはしねぇだろうから構わねぇが、郁斗に知られるのはなぁ……」
「詩歌ちゃんならきっと、郁斗さんにも話さないかもしれないですよ?」
「そうだといいがな」
「……恭輔さん」
「ん? どうした?」
「私、恭輔さんと付き合えて、一緒になれて、本当に幸せです」
「何だよ急に」
「詩歌ちゃんに話をしている時に色々と思い出していて、もし、あの日一緒に星を見に行って無かったら今頃どうなってたのかなって」
「そうだな、あの一件が無けりゃ、今こうして一緒に居る事は無かったのかもしれねぇな」

 恭輔の腕に樹奈が頭を乗せて腕枕の体勢を取ると、空いている片方の手で樹奈の頬に触れる。

「本当、あの日お前を誘って良かったよ。でなけりゃ、今頃お前は他の男のモノになってたかもしれねぇんだ。そんなの、耐えられねぇ」
「……恭輔さ――ッん、」

 樹奈を愛おしそうに見つめた恭輔は、そのまま彼女の口を塞ぐ。

 恭輔は自分にかなりの嫉妬心がある事に驚いていたが、それは相手が樹奈だからこそなのだと思った。

「樹奈、これからは子供も生まれて、今以上に幸せが増える。俺はお前と子供を全力で守り、幸せにする」
「恭輔さん……」
「これからも傍に居て、お前のその笑顔で俺を癒やしてくれ」
「はい、ずっと、ずっと傍に居ます。だって、私の幸せは恭輔さんの隣にあるから」

 二人は見つめ合い、もう一度キスをする。

 何度も何度も互いの唇を、温もりを求めていく。


 生涯恋をする事も、結婚をする事も無いと思っていた恭輔が見つけた、命よりも大切な存在の樹奈。

 これから生まれてくる子供共々今以上に愛を注ぎ、誰よりも幸せにしようと心に誓いを立てながら、熱く甘い一夜を過ごすのだった。


 ―END―
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