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番外編
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恭輔は何度か車を撒こうとしたものの樹奈が乗っている事もあって無理は出来ず、適度な距離を保ち続けていたのだが、その状況に痺れを切らせた相手は横付けして来ると、車を止めようとしているのか、どんどん右に寄って来る。
「アイツら、ぶつける気か? 樹奈、顔を上げてどこかにしっかり掴まってろ」
「は、はい!」
相手の車が不審な動きをして来た事でぶつけられる事を想定した恭輔は樹奈にしっかり掴まるよう指示すると、助手席側にぶつかって来そうになった瞬間、どうにかそれを回避する事には成功したものの、後部座席のドアに相手の車が当たってしまう。
「きゃあ!!」
そこそこスピードが出ていた事で、擦った程度ではあるもののそれなりの衝撃だったせいか樹奈は驚き、悲鳴に近い叫び声を上げた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「とりあえず今はしっかり掴まってろ。もう少しで応援が来るはずだから、それまでの辛抱だ」
これ以上は危険だと判断した恭輔は今一度相手から逃れる為にスピードを上げた。
それから暫くカーチェイスのような状態が続いていると、後方からバイクの集団が近付いてきて、相手の車を囲むように陣取っていく。
(な、何? もしかして、あれも相手の仲間?)
何が何だか分からない樹奈が再び恐怖を感じていると、一台の大型バイクが恭輔たちの車に近付いて来る。
それを確認した恭輔は左車線に移り、運転席側の窓を開けた。
「お待たせしてすみません」
「それで、例のモノは?」
「『椿』の地下駐車場に用意してあります」
「そうか、分かった。後の事は頼む、槇」
「はい」
互いに少しスピードを落として走りながら、短く会話を交わした二人。
用が済むと、恭輔は再びスピードを上げてそのまま高速を降りて行く。
追ってきていた相手の車はバイクの集団に阻まれたままだった事もあって、恭輔たちの後を追っては来れず、何とか逃れる事が出来たのだった。
高速を降りても暫く車を走らせる恭輔に樹奈は何度か話し掛けようとしては、やっぱり黙っていようと口を噤んでしまう。
そんな彼女の挙動に気付いていた恭輔は険しい表情を緩めると、
「どうした? 言いたい事があるなら遠慮しなくていいから言ってみろ」
前を向いたまま、樹奈に問い掛けた。
「あ、いえ……その……さっきの人たちは、もう、追い掛けては来ないんでしょうか?」
「そうだな、槇たちがマークしてる間は問題無い。ただ、念には念を、カモフラージュの為に車を変える」
「車を?」
「ああ、今は乗り換える車を取りに向かってるんだ」
恭輔のその言葉と、先程バイクに乗っていた槇との会話の中に『例のモノ』『椿の地下駐車場』というフレーズが出ていた事を思い出した樹奈は納得する。
そして、それから二十分程で、ある街の高級住宅街へ入ると、『椿』と書いてある建物の前に辿り着いた。
「疲れただろ? ここなら安全だし、俺も少し疲れたから、暫く休んで行こう」
建物の地下駐車場へ車を停めた恭輔は深く溜め息を吐いた後、樹奈にそう告げるも彼女はこの状況に少しだけ戸惑っていた。
(ここ、どう見てもラブホテル……だよね?)
何故この様な場所の地下駐車場に乗り換える車が停めてあるのか、何となく気になってしまったせいで色々と考え始めた樹奈に恭輔は、
「ここは俺たち市来組が管理を任されてるホテルなんだ。だから、何かあれば身を隠す場としても使える。車を乗り換えるにも人目が無くてやり易い。それに、疲れたから部屋には入るが、勿論何もしねぇから、安心しろ」
笑みを浮かべながら安心させるように言い聞かせると、先に車を降りて行く。
そして、全てを見透かされていると気付いた樹奈はすぐに車を降りると、
「あの、すみません! 別に疑ってるとか、警戒してる訳じゃ……」
戸惑ったのは警戒している訳じゃ無かった樹奈は勘違いされたら嫌だと弁解する。
「分かってる。別に気にしちゃいねぇさ。樹奈も疲れたろ? とりあえず少し休もう」
「……はい」
焦る樹奈に手を差し伸べた恭輔は、これ以上彼女が気を揉まないよう『気にしていない』事を伝え、共に建物の中へ入って行った。
建物に入り、カウンターで一言二言責任者らしき人物と会話を交わした恭輔は部屋の鍵を受け取ると、樹奈の手を引いたままエレベーターへと乗り込み、最上階に辿り着くと二部屋しか無い右側のドアの鍵を開ける。
「俺は少し電話してくるから、先に入って休んでてくれ」
そして樹奈だけを部屋の中へ入れてドアを閉めた恭輔は、廊下で電話をし始めた。
部屋に一人残された樹奈は、ひとまず奥へ進んでいきソファーに腰を降ろす。
(流石に、眠くなってきちゃった……)
車に乗っていた時は気を張っていたせいか眠気を全く感じなかったのだけれど、安全な場所に着いたからか、急な睡魔に襲われた樹奈の瞼は徐々に下がっていく。
(……もう無理……少しだけ、寝たい……)
せめて恭輔が部屋に来るまでは起きていようと目を擦って必死に重い瞼をこじ開けようと試みたもののやはり無理だと判断した樹奈は、そのまま眠りの世界へと誘われていった。
「アイツら、ぶつける気か? 樹奈、顔を上げてどこかにしっかり掴まってろ」
「は、はい!」
相手の車が不審な動きをして来た事でぶつけられる事を想定した恭輔は樹奈にしっかり掴まるよう指示すると、助手席側にぶつかって来そうになった瞬間、どうにかそれを回避する事には成功したものの、後部座席のドアに相手の車が当たってしまう。
「きゃあ!!」
そこそこスピードが出ていた事で、擦った程度ではあるもののそれなりの衝撃だったせいか樹奈は驚き、悲鳴に近い叫び声を上げた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「とりあえず今はしっかり掴まってろ。もう少しで応援が来るはずだから、それまでの辛抱だ」
これ以上は危険だと判断した恭輔は今一度相手から逃れる為にスピードを上げた。
それから暫くカーチェイスのような状態が続いていると、後方からバイクの集団が近付いてきて、相手の車を囲むように陣取っていく。
(な、何? もしかして、あれも相手の仲間?)
何が何だか分からない樹奈が再び恐怖を感じていると、一台の大型バイクが恭輔たちの車に近付いて来る。
それを確認した恭輔は左車線に移り、運転席側の窓を開けた。
「お待たせしてすみません」
「それで、例のモノは?」
「『椿』の地下駐車場に用意してあります」
「そうか、分かった。後の事は頼む、槇」
「はい」
互いに少しスピードを落として走りながら、短く会話を交わした二人。
用が済むと、恭輔は再びスピードを上げてそのまま高速を降りて行く。
追ってきていた相手の車はバイクの集団に阻まれたままだった事もあって、恭輔たちの後を追っては来れず、何とか逃れる事が出来たのだった。
高速を降りても暫く車を走らせる恭輔に樹奈は何度か話し掛けようとしては、やっぱり黙っていようと口を噤んでしまう。
そんな彼女の挙動に気付いていた恭輔は険しい表情を緩めると、
「どうした? 言いたい事があるなら遠慮しなくていいから言ってみろ」
前を向いたまま、樹奈に問い掛けた。
「あ、いえ……その……さっきの人たちは、もう、追い掛けては来ないんでしょうか?」
「そうだな、槇たちがマークしてる間は問題無い。ただ、念には念を、カモフラージュの為に車を変える」
「車を?」
「ああ、今は乗り換える車を取りに向かってるんだ」
恭輔のその言葉と、先程バイクに乗っていた槇との会話の中に『例のモノ』『椿の地下駐車場』というフレーズが出ていた事を思い出した樹奈は納得する。
そして、それから二十分程で、ある街の高級住宅街へ入ると、『椿』と書いてある建物の前に辿り着いた。
「疲れただろ? ここなら安全だし、俺も少し疲れたから、暫く休んで行こう」
建物の地下駐車場へ車を停めた恭輔は深く溜め息を吐いた後、樹奈にそう告げるも彼女はこの状況に少しだけ戸惑っていた。
(ここ、どう見てもラブホテル……だよね?)
何故この様な場所の地下駐車場に乗り換える車が停めてあるのか、何となく気になってしまったせいで色々と考え始めた樹奈に恭輔は、
「ここは俺たち市来組が管理を任されてるホテルなんだ。だから、何かあれば身を隠す場としても使える。車を乗り換えるにも人目が無くてやり易い。それに、疲れたから部屋には入るが、勿論何もしねぇから、安心しろ」
笑みを浮かべながら安心させるように言い聞かせると、先に車を降りて行く。
そして、全てを見透かされていると気付いた樹奈はすぐに車を降りると、
「あの、すみません! 別に疑ってるとか、警戒してる訳じゃ……」
戸惑ったのは警戒している訳じゃ無かった樹奈は勘違いされたら嫌だと弁解する。
「分かってる。別に気にしちゃいねぇさ。樹奈も疲れたろ? とりあえず少し休もう」
「……はい」
焦る樹奈に手を差し伸べた恭輔は、これ以上彼女が気を揉まないよう『気にしていない』事を伝え、共に建物の中へ入って行った。
建物に入り、カウンターで一言二言責任者らしき人物と会話を交わした恭輔は部屋の鍵を受け取ると、樹奈の手を引いたままエレベーターへと乗り込み、最上階に辿り着くと二部屋しか無い右側のドアの鍵を開ける。
「俺は少し電話してくるから、先に入って休んでてくれ」
そして樹奈だけを部屋の中へ入れてドアを閉めた恭輔は、廊下で電話をし始めた。
部屋に一人残された樹奈は、ひとまず奥へ進んでいきソファーに腰を降ろす。
(流石に、眠くなってきちゃった……)
車に乗っていた時は気を張っていたせいか眠気を全く感じなかったのだけれど、安全な場所に着いたからか、急な睡魔に襲われた樹奈の瞼は徐々に下がっていく。
(……もう無理……少しだけ、寝たい……)
せめて恭輔が部屋に来るまでは起きていようと目を擦って必死に重い瞼をこじ開けようと試みたもののやはり無理だと判断した樹奈は、そのまま眠りの世界へと誘われていった。
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