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STORY8
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美澄が部屋を出てから数分後、入れ違うように恭輔が郁斗の元へやって来ると、丁度いいタイミングで郁斗が目を覚ました。
「お、ようやく目覚ましたのか」
「……恭輔さん……? 俺……」
「黛のマンションで傷口開いて、そのまま病院で処置して貰ってから今までずっと眠ってたんだ」
「ああ、そっか……」
「美澄は……居ねぇのか。お、詩歌はようやく眠ったみてぇだな」
「詩歌?」
「ああ、そっちのベッドで眠ってるようだ。お前の事が心配であれから一睡もしないで付き添ってるから、倒れたら大変だって美澄と小竹が交代で部屋に居たんだ」
「……そうだったんですね……」
「身体は平気そうか?」
「まあ、多少痛むけど、問題はないです」
「そうか。それなら良かったな。ま、無理はするなよ。さっさと元気になって、安心させてやれ」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ俺は戻る。ついでに美澄も連れて帰る。二人きりの方が、色々と都合がいいだろうしな」
「何すか、その含みのある言い方」
恭輔が帰ろうとすると休憩を終えた美澄が戻って来る。
「あれ、恭輔さん来てたんですね。って! 郁斗さん目が覚めたんですね! 良かった!」
「おい美澄、あまり騒ぐと詩歌が起きるだろ。郁斗は平気そうだからお前は俺と事務所に戻るぞ」
「え? あ、分かりました。それじゃあ郁斗さん、また」
「ああ、色々世話掛けたな」
少し騒がしくなった室内も二人が帰って行った事で再び静寂に包まれる。
そして、
「……ん……」
それから少しして詩歌が目を覚ました。
「……あれ? 私、いつの間に……」
眠るつもりが無かった彼女は自分がベッドの上で眠っている事に気付いて勢い良く起き上がると、郁斗の姿を探す。
すると、
「おはよう、詩歌ちゃん」
「郁斗……さん」
ベッドの上で身体を起こしていた郁斗と目が合い、おはようと声を掛けられた事に驚き一瞬反応が遅れたものの、
「郁斗さん…………郁斗さん!」
彼が目を覚まして身体を起こしている、その事にハッキリと気付いた詩歌は急いでベッドから下りると、すぐさま郁斗の元へ駆け寄った。
「もう、大丈夫なんですか?」
「うん、まあまだ多少痛みはあるけど、これくらいなら大丈夫だよ」
「無理しちゃ駄目です! まだ寝ていた方が……」
「平気だよ。寝てばかりも身体が痛くてさ。こうしてる方がいくらか楽なんだよ」
「そうですか、それなら、分かりました」
身体を起こしている方が楽だという本人の意見を尊重して納得した詩歌に郁斗は、
「詩歌ちゃん、もう少しこっちに来て」
自分の方へ近付くよう呼び寄せる。
「はい?」
それに従い傍に寄った詩歌の身体を郁斗は自身の胸に引き寄せ、
「い、郁斗さん!?」
驚く詩歌をよそに、彼女の身体をギュッと抱き締めた。
「だ、駄目ですよ、こんな事したら、傷口が……」
「大丈夫だから、こうさせてよ……それとも、こういうのは嫌かな?」
「……そんな、嫌だなんて……」
「ごめんね、守るって言ったのに、沢山辛い目に遭わせて。不安だったよね?」
郁斗に抱きしめられて優しく言葉を掛けられると、それだけで涙腺が緩んでいく詩歌。
そんな彼女の頭をそっと撫でると、詩歌の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていく。
「詩歌ちゃん?」
「……っ、いくと、さん……っわたし、……わたしっ」
「うん、大丈夫だよ。もう何も怖い事はない。もう絶対、一人にはしないから」
「……っう、ぇ……っ、いくと、さん……っ」
きっと、囚われていた時の事や、彼が撃たれた事、離れていた時に起こった様々な出来事を思い出してしまったのだろう。
抱き締められたままの詩歌は堰を切ったように泣き出し、彼女が落ち着くまで郁斗は頭や背中を優しく撫で続けていた。
そして、ひとしきり泣いた詩歌は瞳に残る涙を拭おうとすると、その手を掴んだ郁斗。
もう片方の手を詩歌の頬に当てて、親指で残っている涙を掬う。
見つめ合う形になった二人。
そんな二人の間に、言葉は無かった。
涙を掬っていた郁斗の指が彼女の顎へ移動し、軽く持ち上げると――
「……っ」
どちらからともなく、唇を重ね合わせた。
「お、ようやく目覚ましたのか」
「……恭輔さん……? 俺……」
「黛のマンションで傷口開いて、そのまま病院で処置して貰ってから今までずっと眠ってたんだ」
「ああ、そっか……」
「美澄は……居ねぇのか。お、詩歌はようやく眠ったみてぇだな」
「詩歌?」
「ああ、そっちのベッドで眠ってるようだ。お前の事が心配であれから一睡もしないで付き添ってるから、倒れたら大変だって美澄と小竹が交代で部屋に居たんだ」
「……そうだったんですね……」
「身体は平気そうか?」
「まあ、多少痛むけど、問題はないです」
「そうか。それなら良かったな。ま、無理はするなよ。さっさと元気になって、安心させてやれ」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ俺は戻る。ついでに美澄も連れて帰る。二人きりの方が、色々と都合がいいだろうしな」
「何すか、その含みのある言い方」
恭輔が帰ろうとすると休憩を終えた美澄が戻って来る。
「あれ、恭輔さん来てたんですね。って! 郁斗さん目が覚めたんですね! 良かった!」
「おい美澄、あまり騒ぐと詩歌が起きるだろ。郁斗は平気そうだからお前は俺と事務所に戻るぞ」
「え? あ、分かりました。それじゃあ郁斗さん、また」
「ああ、色々世話掛けたな」
少し騒がしくなった室内も二人が帰って行った事で再び静寂に包まれる。
そして、
「……ん……」
それから少しして詩歌が目を覚ました。
「……あれ? 私、いつの間に……」
眠るつもりが無かった彼女は自分がベッドの上で眠っている事に気付いて勢い良く起き上がると、郁斗の姿を探す。
すると、
「おはよう、詩歌ちゃん」
「郁斗……さん」
ベッドの上で身体を起こしていた郁斗と目が合い、おはようと声を掛けられた事に驚き一瞬反応が遅れたものの、
「郁斗さん…………郁斗さん!」
彼が目を覚まして身体を起こしている、その事にハッキリと気付いた詩歌は急いでベッドから下りると、すぐさま郁斗の元へ駆け寄った。
「もう、大丈夫なんですか?」
「うん、まあまだ多少痛みはあるけど、これくらいなら大丈夫だよ」
「無理しちゃ駄目です! まだ寝ていた方が……」
「平気だよ。寝てばかりも身体が痛くてさ。こうしてる方がいくらか楽なんだよ」
「そうですか、それなら、分かりました」
身体を起こしている方が楽だという本人の意見を尊重して納得した詩歌に郁斗は、
「詩歌ちゃん、もう少しこっちに来て」
自分の方へ近付くよう呼び寄せる。
「はい?」
それに従い傍に寄った詩歌の身体を郁斗は自身の胸に引き寄せ、
「い、郁斗さん!?」
驚く詩歌をよそに、彼女の身体をギュッと抱き締めた。
「だ、駄目ですよ、こんな事したら、傷口が……」
「大丈夫だから、こうさせてよ……それとも、こういうのは嫌かな?」
「……そんな、嫌だなんて……」
「ごめんね、守るって言ったのに、沢山辛い目に遭わせて。不安だったよね?」
郁斗に抱きしめられて優しく言葉を掛けられると、それだけで涙腺が緩んでいく詩歌。
そんな彼女の頭をそっと撫でると、詩歌の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていく。
「詩歌ちゃん?」
「……っ、いくと、さん……っわたし、……わたしっ」
「うん、大丈夫だよ。もう何も怖い事はない。もう絶対、一人にはしないから」
「……っう、ぇ……っ、いくと、さん……っ」
きっと、囚われていた時の事や、彼が撃たれた事、離れていた時に起こった様々な出来事を思い出してしまったのだろう。
抱き締められたままの詩歌は堰を切ったように泣き出し、彼女が落ち着くまで郁斗は頭や背中を優しく撫で続けていた。
そして、ひとしきり泣いた詩歌は瞳に残る涙を拭おうとすると、その手を掴んだ郁斗。
もう片方の手を詩歌の頬に当てて、親指で残っている涙を掬う。
見つめ合う形になった二人。
そんな二人の間に、言葉は無かった。
涙を掬っていた郁斗の指が彼女の顎へ移動し、軽く持ち上げると――
「……っ」
どちらからともなく、唇を重ね合わせた。
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