上 下
72 / 90
STORY7

7

しおりを挟む
「黛、彼女は銃を置いた。それは俺に向け直してくれ。頼む。詩歌は恐怖で気が動転してるだけなんだ」
「ったく、油断も隙もねぇ女だな。夜永、女の傍にある銃を遠ざけろ。そうすればこれはお前に向け直してやる。銃を握ろうとすれば、女を撃つ」
「分かった」

 詩歌に銃口を向け続ける黛の指示通り、郁斗は彼女の傍に向かうと置いてあった銃を黛の方へ寄せた。

「これでいいだろ?  これで俺らの周りには何も無い。窓はあってもここは十階。飛び降りたところで助からねぇ。お前が入り口側に居るから、この部屋からも出れねぇ。完全に逃げる事は不可能だ」
「そうだな、その通りだ。お前、やっぱり何も考えてねぇじゃねぇか!  はは、笑えるぜ」

 それでも何故か落ち着いている郁斗を不思議に思った詩歌が彼の服を掴んだその時、再び部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

「何なんだ?  今日はやけに来客があるなぁ……」

 そうブツブツ口にしながらカメラで確認すると、黛の表情は一気に青ざめた。

 尋ねてきたのは多々良会の会長、蒼龍そうりゅう  行成ゆきなり

 まさか会長直々に出向いて来るとは予想外だったのか黛の動きは止まってしまい、その光景を見ていた郁斗の口角は微かに上がっていた。

 そこで何かに気付いた黛が郁斗へ視線を向ける。

「夜永、テメェまさか……」
「ようやく気付いたか?  俺は言ったはずだぜ? 策も無しに乗り込んできたりしねぇって。お前はもう、詰んでんだよ。黛」
「なっ――」

 郁斗がそう言い放ち、黛が何が言いかけたのとほぼ同時に、鍵の開いている玄関から人がなだれ込んで来る。

「黛、お前の処分が決まった。これまでの行いの数々、きっちり落とし前つけてもらうからな。覚悟しておけ」

 その先頭には蒼龍と恭輔が居て黛を取り抑えようとするも、

「……クソっ……クソがぁ!!」

 自暴自棄になった黛は銃を構えていない方の手でナイフを取り出すと、近付こうとする組員たちに振り回して威嚇する。

「近付くんじゃねぇ!  それ以上近付いてみろよ?  この銃で、夜永たちを撃つ」

 この騒ぎの中でも黛の構えた銃の銃口は郁斗たちに向いていて、誰かが近付こうものならすぐに引き金を引くと言う。

「郁斗さん……っ」
「大丈夫だよ、絶対、守るから」

 郁斗は怯える詩歌を背に庇うと、窓から見えない位置に詩歌を立たせ、黛に声を掛ける。

「黛、もう諦めろよ。お前に逃げ場はねぇんだから」
「うるせぇんだよ!  それならお前らも道ずれに死んでやる!!」

 逃げ場も無いならいっそ、郁斗たちを道ずれに死ぬと彼らに近付いた、その時、

「うっ…………」

 外から窓ガラスを突き破った弾が黛の右腕に命中して、彼は呻き声を上げながらその場に倒れ込む。

「今だ!」

 そして、恭輔のその声と共に人々が黛を押さえつけ、彼は確保された。

「…………助かった……の?」

 その光景を呆然と見つめていた詩歌がポツリと呟くと、

「ああ、助かった。もう大丈夫だよ。ごめんね、詩歌ちゃん。沢山辛い目に遭わせて」

 そんな彼女の身体を抱き締めながら、郁斗は言った。

「……っ、そんなこと、ない……元はと言えば、私が……悪いの……っ、ごめん、なさいっ」

 そんな郁斗の優しさに触れた詩歌は安堵した事から大粒の涙を瞳に溜めて、首を横に振りながら自分が悪かったと謝った。

「詩歌ちゃんのせいじゃないよ。だから、泣かないでよ」
「……だって、私のせいで、郁斗さん、撃たれて……私、死んじゃったかと思って……っ、美澄さんや、小竹さんにも、迷惑かけて……っ」
「俺も、美澄も小竹も無事だったんだから、心配無いよ。さ、もう帰ろう」
「うっ、ひっく……」

 泣きじゃくる詩歌を郁斗が宥めていると、恭輔と共に美澄と小竹がやって来た。

「郁斗、無事だったか」
「はい、お陰様で」
「郁斗さん、詩歌さん!」
「無事で良かったです!」
「……っ、皆さん、ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、寧ろ俺たちこそすんません、詩歌さんを守りきれなくて」
「不甲斐ないです、すみませんでした」

 お互いに悪かったと言い合っている中、

「ひとまずここから出るぞ。話は戻ってからにしろ」

 恭輔の一声で部屋を出る事になった一同。

 恭輔、美澄、小竹に続いて詩歌と共に出ようとした郁斗だったが突然苦痛に顔を歪めると、

「郁斗さん?」

 その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした

夏目萌
恋愛
《『俺の元へ来い』――その一言で、私は救われた》 不幸の連続で行き場すら無い雛瀬 心は全てに絶望し、自ら命を絶とうとした。 そんな矢先に出逢ったのは、強くて優しい、だけど心に闇を抱えていた、極道の世界を生きる相嶋 八雲だった。 この出逢いは二人の運命を大きく変えていく――。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 相嶋 八雲(あいじま やくも)32歳      × 雛瀬 心(ひなせ こころ)20歳 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※この小説はあくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定など合わない場合はごめんなさい。 また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※他サイトにも掲載中。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

逃げても絶対に連れ戻すから

鳴宮鶉子
恋愛
逃げても絶対に連れ戻すから

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...