優しい彼の裏の顔は、、、。

夏目萌

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STORY1

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「でもね、うちの組は基本堅気の人間に迷惑をかけるような事はしないし、無闇に人を傷付けない、至極真っ当な組織なんだよ」
「そ、そうなんですか?」

 そう説明を受けるも、そもそもヤクザというものがどんな組織なのかイマイチ良く分からない詩歌は何が普通なのか分からずに戸惑っている。

(郁斗さんは、あまり関わり合いにならない方がいい人……だったんだ)

 しかし、それはもう手遅れというもので、知らなかったとはいえ郁斗の元で世話になると決めてしまった以上、今更やっぱり帰ります、などと言っても止められるだろうし、それではヤクザだと知ったから離れると分かってしまう。

(……真っ当な組織だって言ってるし、郁斗さんも優しい人だから、このままここに居ても、大丈夫だよね……?)

 不安は残るものの、ここを出たところで行き場が無い以上どうしようもない詩歌は不安がるより彼の人となりや彼の仕事の事をもっと理解しようと前向きに考える。

「あの、それじゃあ見回りをしているお店というのは……?」
「ああ、キャバクラとホストクラブの事だよ」
「郁斗さんも、お客様のお相手をしたりするんですか?」
「いや、俺はあくまでも店の状況を見て回るだけだよ」
「そうですか……」

 話を聞いた詩歌は突然、何かを考え込んで黙ってしまい、

「詩歌ちゃん、どうかした?」

 そんな彼女を不思議に思った郁斗が声を掛けると、

「あの、そのキャバクラ店で、私を雇ってもらう事って出来ますか?」

 予想もしていない質問が返ってきた事で郁斗は驚き、一瞬反応する事を忘れてしまった。

「……え?  詩歌ちゃん、キャバクラだよ?  そりゃ風俗と違って比較的安全ではあるけど……正直キミには向いてないと思うよ?」
「でも、やってみないと分かりません!  私、一生懸命やりますから、どうかお願いします。自分でお金を稼ぎたいんです。いくら郁斗さんがここに居て良いと言って下さっても、ずっとお世話になる訳にはいきませんから」

 確かに、詩歌の言う事は最もだ。家族でも恋人でも無い二人がいつまでも一緒に住む訳にはいかないのだから。

 詩歌の覚悟を聞いた郁斗は、『PURE  PLACE』で太陽が言っていた人手不足の事を思い出す。

(そう言えば太陽の奴、リミの代わりを探してるって言ってたよな。彼女ならリミに負けず劣らずの美人だから戦力になりそうだけど……でもなぁ……)

 詩歌の容姿は、店で働くのに何ら問題は無い。ただ不安があるとすれば、酒を飲み客の相手をする事だ。

 詩歌は明らかに男慣れしていない事は一目瞭然なので、きちんと相手が出来るかという事や、タチの悪い客に絡まれた時に対処出来るか、郁斗はそれが気掛かりだった。
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