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STORY1

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「郁斗さんだぁ~!」
「久しぶりじゃない?」
「今日は誰指名なの~?」

 郁斗が『PURE  PLACE』に着くと、彼の姿を見るなり準備を終えたキャバ嬢たちが一斉に押し寄せて来る。

「悪ぃな、今日は客じゃなくて仕事として来てんだ。指名はまた今度って事で」
「え~?」
「何だぁ、がっかり……」

 彼の言葉にキャバ嬢たちの表情は一気に曇っていく。

「郁斗さん、お疲れ様です」
「よお太陽たいよう、順調か?」
「ええ、まあ。それよりもちょうど良かった。No.2のリミが辞めるって言ってて、急遽代わりの子が欲しいんですよ。郁斗さんの伝手で何とかなりませんかね?」

 太陽と呼ばれた青年はこの店の店長で郁斗や恭輔が信頼を置いている人物の一人だ。

「リミの代わりねぇ……。うーん、まあ探してはみるけど、すぐには無理だな。とりあえずモエとか希咲きさきが居るだろ?  その辺をもっと全面に押し出しておけば暫くは何とかなると思うぜ?」
「そうですか?  まあ、郁斗さんがそう言うなら……暫くはそれでやってみます」
「ああ、頼むよ」

 ホスト時代は『夜の帝王』と呼ばれ、界隈を騒がせていた郁斗はキャバクラやホストでも一目置かれている存在で、男女問わず彼の魅力に惹かれている者が沢山いる。

 キャバ嬢たちは皆、郁斗に指名されたいが為に競い合い、それが店への貢献にもなっているので経営側としては嬉しい限りなのだが、ホストをやっていたものの郁斗は異性がそれ程好きな訳でもなく、必要以上に踏み込まれる事を極端に嫌っているの事もあって押しの強い女には興味を示さない。

 しかし、そんな事とは知らない彼女たちは郁斗に選んでもらおうと自分の魅力を全面に押し出し、常にアピールをしているのだ。

(あー、やっぱキャバ嬢相手は疲れるなぁ。結局井筒は見つからねぇから明日は俺が探しに回らなきゃならねぇし……本当、今日はツイてねぇなぁ)

 店を回り終えて電話で恭輔に報告をした郁斗は直帰して良いと言われマンションへと帰る道すがら、車を走らせながらキャバ嬢たちからの“自分を選んでアピール”攻めにあった事を思い出して、思わず溜め息を吐く。

 それに加えて美澄たちが逃がしてしまった井筒という、市来組が管理している消費者金融会社から多額の借金をした挙句、返済を滞らせて行方を眩ませた男の捜索しなくてはならない事にウンザリしていた。

(美澄と小竹の野郎、会ったら一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇな)

 マンションに着くも苛立ちが収まらない郁斗はエレベーターに乗り込み鏡に映る自分の姿を目にする。

(部屋にはあの世間知らずのお嬢様が居るんだった。こんな表情かおしてたらまた怖がらせちまうからな……)

 両手で頬を軽く叩いて気持ちを切り替え、何とか怒りを鎮めた郁斗はエレベーターを降りて自身の部屋のドアを開けた。
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