7 / 90
プロローグ
7
しおりを挟む
「……出来ればこのまま東京で生活をしていきたいって思っています」
「うーん、まあ家に戻りたく無い気持ちは分かるけど、どうやって生活していくつもりなの?」
「……その、どこかで働き口を見つけて……」
「詩歌ちゃんはいくつなの?」
「十九です」
「これまで働いた経験は?」
「……恥ずかしながら、ありません。だけど、何でもやるつもりです」
「そうは言うけど、住む所だって決めなきゃならないでしょ? 厳しい事を言うようだけど、色々と難しいんじゃないかな?」
郁斗の言う事は最もだし、それは詩歌も重々承知している。けれど、彼女の中で京都の実家へ戻るという選択肢は存在しないので、何としてでも東京で生活の基盤を築きたいのだ。
「それにさ、キミの義理の父親や婚約者がこのまま黙って見過ごす訳も無いと思うよ? それなりに財力があるなら、探偵なりを雇って必ず詩歌ちゃんを探し出すと思う。その辺の対策とか、考えてる?」
「…………いえ、そこまでは……。やっぱり私、考えが甘過ぎますよね……」
郁斗に問われ、自身の考えの甘さに気付かされた詩歌は項垂れ、再び俯いてしまう。
そんな彼女を前にした郁斗は暫し何かを考えた後、項垂れたままの詩歌にある提案を投げ掛けた。
「まぁ、どんな仕事でも良いって言うなら、寮完備の仕事を紹介する……けど、これには相当の覚悟が必要になるよ」
郁斗の唐突な提案に詩歌は顔を上げると、戸惑いの色を浮かべながら彼に問い返す。
「紹介して貰える仕事っていうのは、どう言った内容のものでしょうか?」
「……まあ、簡単に言うと接客業だよ。但し、普通とはちょーっと違うけど。そうだね、キミの婚約者がキミにやらせたかった事に近いかもね」
「……それは、その……どんな要求にも、応えなければならないような?」
「そういう事」
「…………」
「無理でしょ? けど、住む場所も確保出来て足もつかなくて働ける所なんて、そういうとこしか無いと思うよ?」
現実を突き付けられた詩歌に最早選択の余地は無く、郁斗の言う仕事を紹介してもらうか家に戻るかの二択になってしまう。
だけど、どうしても選ぶ事の出来ない詩歌はふと、ある事を思いつくと駄目元で、
「郁斗さん、お願いします。私を匿って貰えませんか? ここへ置いてくれるなら、何でもしますから……どうか、お願いします」
彼に自分をここへ置いて欲しいと頼み込んだのだ。
それには流石の郁斗も驚き、思わず目を見開いて彼女を見る。
(……この子、自分が何を言ってるのか、分かってんのかな)
正直詩歌のその発言に郁斗は半ば呆れていた。ここまで付いてくる事さえ狼狽えていて、さっきも絆創膏を貼るのに指が触れただけで反応して顔を赤くするような女が何を言い出すのかと。
「あのさぁ、詩歌ちゃん。何でもの意味、分かってる?」
「――い、くと……さん?」
全く危機感が感じられない彼女に自身が口にした言葉の意味が分かっているのかを問いただす為、郁斗は詩歌に迫ると驚く詩歌をそのままソファーの上に押し倒し、脅えた瞳で見つめる彼女に跨ると、無言のまま見下ろしていた。
「うーん、まあ家に戻りたく無い気持ちは分かるけど、どうやって生活していくつもりなの?」
「……その、どこかで働き口を見つけて……」
「詩歌ちゃんはいくつなの?」
「十九です」
「これまで働いた経験は?」
「……恥ずかしながら、ありません。だけど、何でもやるつもりです」
「そうは言うけど、住む所だって決めなきゃならないでしょ? 厳しい事を言うようだけど、色々と難しいんじゃないかな?」
郁斗の言う事は最もだし、それは詩歌も重々承知している。けれど、彼女の中で京都の実家へ戻るという選択肢は存在しないので、何としてでも東京で生活の基盤を築きたいのだ。
「それにさ、キミの義理の父親や婚約者がこのまま黙って見過ごす訳も無いと思うよ? それなりに財力があるなら、探偵なりを雇って必ず詩歌ちゃんを探し出すと思う。その辺の対策とか、考えてる?」
「…………いえ、そこまでは……。やっぱり私、考えが甘過ぎますよね……」
郁斗に問われ、自身の考えの甘さに気付かされた詩歌は項垂れ、再び俯いてしまう。
そんな彼女を前にした郁斗は暫し何かを考えた後、項垂れたままの詩歌にある提案を投げ掛けた。
「まぁ、どんな仕事でも良いって言うなら、寮完備の仕事を紹介する……けど、これには相当の覚悟が必要になるよ」
郁斗の唐突な提案に詩歌は顔を上げると、戸惑いの色を浮かべながら彼に問い返す。
「紹介して貰える仕事っていうのは、どう言った内容のものでしょうか?」
「……まあ、簡単に言うと接客業だよ。但し、普通とはちょーっと違うけど。そうだね、キミの婚約者がキミにやらせたかった事に近いかもね」
「……それは、その……どんな要求にも、応えなければならないような?」
「そういう事」
「…………」
「無理でしょ? けど、住む場所も確保出来て足もつかなくて働ける所なんて、そういうとこしか無いと思うよ?」
現実を突き付けられた詩歌に最早選択の余地は無く、郁斗の言う仕事を紹介してもらうか家に戻るかの二択になってしまう。
だけど、どうしても選ぶ事の出来ない詩歌はふと、ある事を思いつくと駄目元で、
「郁斗さん、お願いします。私を匿って貰えませんか? ここへ置いてくれるなら、何でもしますから……どうか、お願いします」
彼に自分をここへ置いて欲しいと頼み込んだのだ。
それには流石の郁斗も驚き、思わず目を見開いて彼女を見る。
(……この子、自分が何を言ってるのか、分かってんのかな)
正直詩歌のその発言に郁斗は半ば呆れていた。ここまで付いてくる事さえ狼狽えていて、さっきも絆創膏を貼るのに指が触れただけで反応して顔を赤くするような女が何を言い出すのかと。
「あのさぁ、詩歌ちゃん。何でもの意味、分かってる?」
「――い、くと……さん?」
全く危機感が感じられない彼女に自身が口にした言葉の意味が分かっているのかを問いただす為、郁斗は詩歌に迫ると驚く詩歌をそのままソファーの上に押し倒し、脅えた瞳で見つめる彼女に跨ると、無言のまま見下ろしていた。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
夏目萌
恋愛
《『俺の元へ来い』――その一言で、私は救われた》
不幸の連続で行き場すら無い雛瀬 心は全てに絶望し、自ら命を絶とうとした。
そんな矢先に出逢ったのは、強くて優しい、だけど心に闇を抱えていた、極道の世界を生きる相嶋 八雲だった。
この出逢いは二人の運命を大きく変えていく――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
相嶋 八雲(あいじま やくも)32歳
×
雛瀬 心(ひなせ こころ)20歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※この小説はあくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定など合わない場合はごめんなさい。
また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※他サイトにも掲載中。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる