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「うわーん、おにーちゃーんっ!!」

 助けに現れた鮫島さんに凜も駆け寄って来て、私たちは彼に庇われる形になる。

「またお前かよ?」
「それはこっちの台詞だ。お前、いい加減にしろよ?」
「あ?  テメェこそ関係ねぇくせに、いちいち首突っ込んでくんじゃねぇよ!」
「お前こそ、今は何の関係も無いだろ?」
「俺と亜子はこのガキの親だ。関係あんだよ」

 売り言葉に買い言葉、二人の間に険悪な空気が漂っている中、座り込む私は凜をギュッと抱き締めながらその行方を静かに見守っている。

「笑わせるなよ。女に手を上げて子供まで泣かせて、何が親だよ?  別れてるくせに、父親面してんじゃねぇよ」
「はあ?  つーかお前は何なんだよ!?  あれか?  お前、亜子に惚れてんのか?  だから良いとこ見せたくてこうして邪魔してくんだろ?」

 正人のその言葉に鮫島さんは、

「そうだよ、俺は彼女に惚れてる。彼女を大切に想ってる。凜も含めてな。だから、お前みたいなクズにうろつかれると鬱陶しいし、腹立たしい。別れた元旦那のくせに、いつまでもしつこく付き纏ってんじゃねぇよ。今後一切八吹さんと凜の前に現れるな。次見つけたら即通報するからな」

 当たり前のように正人の言葉に頷き、今後付き纏わないよう忠告してくれると、

「…………覚えてろよ!」

 流石にこの状況では不利だと感じたらしい正人は捨て台詞を吐いて公園から出て行った。

「大丈夫?」
「……はい、ありがとう、ございます」
「うわーん、おにーちゃん!」

 鮫島さんがしゃがみ込んで心配そうな顔で覗き込んでくると、凜は私の腕から離れて彼の胸に飛び込んだ。

「凜、もう平気だからな」
「うんっ」

 子供は不安な時、安心出来る人に身を寄せる事があるとか聞いた事があったけど、凜は今、私よりも鮫島さんを選んだ。

 この事は私を悲しくさせるのではなくて、今この状況下で一番頼れるのは鮫島さんだという事を改めて思い知らせてくれた。

 正人に殴られて、もの凄く怖かった。

 毎日のように暴力に怯えていた時の事を思い出して、身体の震えが止まらなかった。

 凜を守らなきゃいけないのに、守る事すら出来なかった。

 気付くと、色々な感情が一気に押し寄せて来た私の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。

「八吹さん?」
「ママ?」

 凜を抱き抱えた鮫島さんは私の頬に手を伸ばすと、零れ落ちていく涙を掬ってくれる。

「もう平気だから、大丈夫だから」
「ママ、ほっぺいたいの?」
「少し腫れてるから、冷やした方がいいな。凜、このハンカチ水道で濡らして来れるか?」
「うん、できる!」

 鮫島さんからハンカチを受け取った凜はすぐ側にある水道で言われた通りハンカチを濡らして戻って来る。

「はい、おにーちゃん」
「偉いな、凜」
「えへへ」

 凜から濡れたハンカチを受け取った鮫島さんはその場で水を絞ると、正人に平手打ちをされて赤く腫れている私の頬に充ててくれた。

「本当に、酷い事するよなアイツ……。痛む?」
「ううん、大丈夫、です」
「八吹さん、ああいう時はすぐに電話してよ。俺が偶然通りがかったから助けられたけど、そうじゃ無かったら殴られてた上に、凜だってどうなってたか分からない」
「……そう、ですけど……」
「遠慮しないでって言ったじゃん?  こういう時は、一人で頑張る事、無いんだ。俺に守らせてよ、八吹さん」
「…………!」

 そして、心配してくれている鮫島さんが少しだけ悲しそうな表情を浮かべると、『守らせて』と言いながら私の事を胸に引き寄せて、抱き締めてくれた。

 その瞬間、彼の優しさが温か過ぎて余計に涙が零れていった。
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