近付きたいよ、もっと、、、。

夏目萌(月嶋ゆのん)

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愛おしい存在

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 暫く抱き合っていた二人。

 互いの温もりを肌で感じられた事でようやく落ち着いたのか、一旦身体を離す。

「さっくん、痛くない?」
「……まあ、本音を言えば、痛ぇよ。けど、俺の身体は他人ひとより頑丈な作りみたいだから平気。つーか、咲結の方こそ、痛むか?」

 咲結が朔太郎の身体を心配すると、朔太郎もまた、赤くなっている咲結の頬が痛むかと尋ねた。

「大丈夫、冷やしたらだいぶ良くなったから」
「そっか」
「それはそうと……もうすぐ、今日が終わっちゃう……」
「ん? 何かあるのか?」
「さっくん、分かってなかったんだ?」
「うん?」
「今日はバレンタインだよ」
「バレンタイン……ああ、言われてみれば、今日って二月十四日か」
「……私、さっくんにあげようと思ってマフィン作ったんだけど……スーパーの駐車場にマフィンの入った袋、落として来ちゃったんだ……」

 馬宮に連れ去られる際、マフィンの入った袋が地面に落ちてしまった事を悔やみ、一生懸命作ったからこそ食べて貰いたかったと項垂れる咲結。

 話を聞いた朔太郎は、

「食えなかったのは残念だけど、俺としては、作ってくれたその気持ちの方が嬉しいよ。ありがとな」

 何とか咲結に元気を出してもらおうと慰めてみるけれど、付き合って初めてのバレンタインという事で特に気合いが入っていた咲結はなかなか気持ちが切り替えられなかった。

 そんな咲結に朔太郎は、

「それじゃあさ、一つ俺のお願い、聞いてくれるか?」

 何やら願いがあるようで、咲結に問い掛けた。

「お願い?」
「ああ。マフィンも勿論嬉しいけど、俺的には貰えたらもっと嬉しいモノがあるんだ」
「何!? 私であげられる物もなら、何でも言って!」

 朔太郎が貰えたら嬉しいモノ、それが何なのか知りたい咲結は話に食いつき、その答えが何かを尋ねると、答える代わりに朔太郎の手が彼女の頬に触れ、そのまま顎を軽く持ち上げると――

「――咲結、好きだよ」

 囁くように『好き』と口にした朔太郎は、驚く咲結の唇を自身の唇で塞いでいった。

「…………」

 突然の事に固まってしまった咲結に気付いた朔太郎はすぐに唇を離した。

「……悪い、いきなり過ぎたよな。それに、咲結は初めてだから、もっとムードのある場所でする方が……良かったよな……ごめん。けどさ、俺……我慢出来なかったんだ。咲結の事が好き過ぎて……」
「……えっと、……あの、私……」

 キスだけでも驚き戸惑う咲結に好き過ぎて我慢出来なかったと告白する朔太郎。

 確かに、咲結にとって初めてのキスになる訳で、本人としても、ムードやシチュエーションがこうだったらいいなという憧れも密かにあった。

 けれど、今の朔太郎の言葉はそんな憧れが全て吹き飛ぶくらいに嬉しいと咲結は感じていた。

「……嬉しい……、私も、さっくんとキス、したかったから……」
「咲結……」
「……さっくん……もう一度……して?」
「なっ…………お前さ、こういう時にそういう台詞言うの、反則だろ」
「え? あ、ごめん……。だって、嬉しかったから……」
「――ったくもう、だからそういう事言うなっての!」

 すっかり咲結のペースに持っていかれた朔太郎は頭をガシガシ掻き毟ると、再び咲結を自分の方へ引き寄せ、今度は強引に唇を塞いでいく。

「――ッんん、」

 先程のキスはあくまでも唇が塞がれ、触れ合う程度の軽いものだったのだけど、今は息継ぎすらままならないくらいに強く激しい口付けに咲結は戸惑いつつも、朔太郎に身を委ねた。

 角度を変え、何度となく塞がれる唇。

 吐息の熱を感じ、互いの息も上がっていく中、咲結が息継ぎをしようと唇を開いた刹那、朔太郎の舌が彼女の口内へゆっくり侵入していく。

「――んんっ!?」

 これには咲結もびっくりして、反射的に朔太郎から離れようとしたのだけど、そんな咲結を落ち着かせるように優しく頭を撫でる。

 すると、逃げる事を止めて再び朔太郎に全てを委ねた咲結は彼の服をキュッと掴んだ。

 そんな咲結を愛おしく思いながらゆっくり少しずつ咲結の舌を絡め取った朔太郎は、深く熱いキスを何度も繰り返していった。
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