近付きたいよ、もっと、、、。

夏目萌

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愛おしい存在

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「朔太郎は本当、頑丈な身体に出来てるね。こんなに傷を負ってるのに動けるんだから、大したものだよ」

 着いた先は町外れにある小さな病院で、お世辞にも綺麗とは程遠い外観だった。

 理仁が予め連絡を入れていたおかげで着いてすぐに処置を施してもらった朔太郎。

 止血もしていた事や本人の言う通り銃弾は掠っただけだった事もあって命の危機に繋がる怪我では無かったものの、それなりに痛みもあった中で相手に鉄パイプで一撃を食らわせたり咲結を庇ったりと動けた彼に、理仁を始め四十代くらいの銀髪で長髪に眼鏡を掛けて白衣を着た医者の坂木さかき 結弦ゆずるは朔太郎の頑丈さに驚いていた。

 朔太郎も初めこそケラケラと笑っていたのだけど、命に別状が無いと分かった途端に真顔になり、

「まあ、でも……ぶっちゃけると、初めに撃たれた時、避けるのに必死だったし、やべぇ、死ぬかもって思ったし、脇腹に弾が当たった時は死ぬ程痛かったけど……外には逃した咲結が居たから、ここで俺が倒れる訳にはいかねーって思ったら自然と身体が動いてた……けど、馬宮が隠し持ってた銃を俺らに向けて来たのが分かった時は、マジでヤバいって思った……辛うじて咲結の事は守れたけど、肩に弾が当たった時は……本気で無理かと思った……俺……甘かったなって……思って……」

 撃たれた時の状況をポツリポツリと話ながら、自分の不甲斐なさを悔いて、薄っすらと涙を滲ませていた。

 そんな朔太郎に理仁は、

「確かに、お前の判断は甘かった。組長として言わせてもらうと、お前のした事は見過ごす訳にはいかねぇ。今回は馬宮一人が起こした事だったから、この程度で済んでたんだからな」
「すいません……」
「――けど、俺個人の意見を言うなら……お前は良くやったよ。大切な者を守る為に必死に身体を張ったお前は立派だし、お前にも、命を懸けて守りたいモノが見つかった事が、俺は嬉しいよ」
「……理仁さん」
「けどな、お前は鬼龍組にとって、無くてはならねぇ存在だ、あんな事で死なれちゃ困る。咲結が攫われて正常な判断が難しかったのは分かるが、もし万が一こういう危機に直面した時は、俺を信じてきちんと話してくれ。な?」
「……はい、すいませんでした、それと……ありがとう、ございました」

 俯く朔太郎の頭を撫でた理仁は坂木に目配せをすると、そのまま二人で病室を出て行った。

「あの、……理仁……さん」

 二人が病室から出て来ると、待合室で真琴と待っていた咲結が遠慮がちに理仁に声を掛ける。

「何だ?」
「あの、中に入っても……大丈夫でしょうか?」
「……ああ、問題無い」
「ありがとうございます」

 朔太郎の元へ行きたかった咲結は病室へ入る許可を貰うや否や、早々に中へと入って行く。

「さっくん」
「……咲結」

 俯いていた朔太郎は咲結の声が聞こえると急いで目元を拭って顔を上げた。

「……さっくん……」

 ドアを閉めた咲結はその場に立ったまま名前を呼ぶだけで、何故か動こうとしない。

「どうした? こっちに来いよ」

 そんな咲結を不思議に思った朔太郎がいつも通りの笑顔を向けながら手招きをすると、

「……っ、さっくん!!」

 瞳に涙を溜めた咲結は勢い良く駆け出し、朔太郎の元で泣き出してしまった。

「咲結……泣くなよ」
「……っ、だって……だって……ッ」
「ごめんな、怖かったよな。巻き込んで……本当にごめん」

 咲結が泣いているのは馬宮に連れ去られた事や銃で撃たれそうになった事が怖かったからだと思った朔太郎。

 だけど咲結の胸の内は違うものだった。

「……っひっく……、違う……の。私が怖かったのは、……さっくんが、……っ、死んじゃったらって……思って……っ」
「……咲結」
「いなくなったら、やだから……っ、だからっ」

 咲結が怖かった事――それは自分が危険に晒されるよりも、朔太郎が怪我を負って動けなくなる事や、この世から居なくなってしまう事だったのだ。

 それを知った朔太郎は胸の奥がキュッと締め付けられるのと同時に、痛みはあるものの今すぐに咲結を自身の腕の中に抱き締めたくて、泣きじゃくる咲結の腕を引くと、自身の胸に引き寄せた。

「……っ、さっくん、怪我……」
「いい! 大丈夫だから、黙って。今はとにかく、こうしてたいんだ」
「さっくん……っ、」

 傷口は痛むはずなのに、今はそんな事はどうでもよくて、朔太郎は戸惑う咲結に言い聞かせると、咲結を抱き締める腕に力を込めた。

 そして、抱き締められた咲結は、なるべく朔太郎の傷に障らないよう気遣いつつも、彼の温もりを感じていた。
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