上 下
33 / 34
愛おしい存在

1

しおりを挟む
「朔太郎は本当、頑丈な身体に出来てるね。こんなに傷を負ってるのに動けるんだから、大したものだよ」

 着いた先は町外れにある小さな病院で、お世辞にも綺麗とは程遠い外観だった。

 理仁が予め連絡を入れていたおかげで着いてすぐに処置を施してもらった朔太郎。

 止血もしていた事や本人の言う通り銃弾は掠っただけだった事もあって命の危機に繋がる怪我では無かったものの、それなりに痛みもあった中で相手に鉄パイプで一撃を食らわせたり咲結を庇ったりと動けた彼に、理仁を始め四十代くらいの銀髪で長髪に眼鏡を掛けて白衣を着た医者の坂木さかき 結弦ゆずるは朔太郎の頑丈さに驚いていた。

 朔太郎も初めこそケラケラと笑っていたのだけど、命に別状が無いと分かった途端に真顔になり、

「まあ、でも……ぶっちゃけると、初めに撃たれた時、避けるのに必死だったし、やべぇ、死ぬかもって思ったし、脇腹に弾が当たった時は死ぬ程痛かったけど……外には逃した咲結が居たから、ここで俺が倒れる訳にはいかねーって思ったら自然と身体が動いてた……けど、馬宮が隠し持ってた銃を俺らに向けて来たのが分かった時は、マジでヤバいって思った……辛うじて咲結の事は守れたけど、肩に弾が当たった時は……本気で無理かと思った……俺……甘かったなって……思って……」

 撃たれた時の状況をポツリポツリと話ながら、自分の不甲斐なさを悔いて、薄っすらと涙を滲ませていた。

 そんな朔太郎に理仁は、

「確かに、お前の判断は甘かった。組長として言わせてもらうと、お前のした事は見過ごす訳にはいかねぇ。今回は馬宮一人が起こした事だったから、この程度で済んでたんだからな」
「すいません……」
「――けど、俺個人の意見を言うなら……お前は良くやったよ。大切な者を守る為に必死に身体を張ったお前は立派だし、お前にも、命を懸けて守りたいモノが見つかった事が、俺は嬉しいよ」
「……理仁さん」
「けどな、お前は鬼龍組にとって、無くてはならねぇ存在だ、あんな事で死なれちゃ困る。咲結が攫われて正常な判断が難しかったのは分かるが、もし万が一こういう危機に直面した時は、俺を信じてきちんと話してくれ。な?」
「……はい、すいませんでした、それと……ありがとう、ございました」

 俯く朔太郎の頭を撫でた理仁は坂木に目配せをすると、そのまま二人で病室を出て行った。

「あの、……理仁……さん」

 二人が病室から出て来ると、待合室で真琴と待っていた咲結が遠慮がちに理仁に声を掛ける。

「何だ?」
「あの、中に入っても……大丈夫でしょうか?」
「……ああ、問題無い」
「ありがとうございます」

 朔太郎の元へ行きたかった咲結は病室へ入る許可を貰うや否や、早々に中へと入って行く。

「さっくん」
「……咲結」

 俯いていた朔太郎は咲結の声が聞こえると急いで目元を拭って顔を上げた。

「……さっくん……」

 ドアを閉めた咲結はその場に立ったまま名前を呼ぶだけで、何故か動こうとしない。

「どうした? こっちに来いよ」

 そんな咲結を不思議に思った朔太郎がいつも通りの笑顔を向けながら手招きをすると、

「……っ、さっくん!!」

 瞳に涙を溜めた咲結は勢い良く駆け出し、朔太郎の元で泣き出してしまった。

「咲結……泣くなよ」
「……っ、だって……だって……ッ」
「ごめんな、怖かったよな。巻き込んで……本当にごめん」

 咲結が泣いているのは馬宮に連れ去られた事や銃で撃たれそうになった事が怖かったからだと思った朔太郎。

 だけど咲結の胸の内は違うものだった。

「……っひっく……、違う……の。私が怖かったのは、……さっくんが、……っ、死んじゃったらって……思って……っ」
「……咲結」
「いなくなったら、やだから……っ、だからっ」

 咲結が怖かった事――それは自分が危険に晒されるよりも、朔太郎が怪我を負って動けなくなる事や、この世から居なくなってしまう事だったのだ。

 それを知った朔太郎は胸の奥がキュッと締め付けられるのと同時に、痛みはあるものの今すぐに咲結を自身の腕の中に抱き締めたくて、泣きじゃくる咲結の腕を引くと、自身の胸に引き寄せた。

「……っ、さっくん、怪我……」
「いい! 大丈夫だから、黙って。今はとにかく、こうしてたいんだ」
「さっくん……っ、」

 傷口は痛むはずなのに、今はそんな事はどうでもよくて、朔太郎は戸惑う咲結に言い聞かせると、咲結を抱き締める腕に力を込めた。

 そして、抱き締められた咲結は、なるべく朔太郎の傷に障らないよう気遣いつつも、彼の温もりを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

ドSな上司は私の本命

水天使かくと
恋愛
ある会社の面接に遅刻しそうな時1人の男性が助けてくれた!面接に受かりやっと探しあてた男性は…ドSな部長でした! 叱られても怒鳴られても彼が好き…そんな女子社員にピンチが…! ドS上司と天然一途女子のちょっと不器用だけど思いやりハートフルオフィスラブ!ちょっとHな社長の動向にもご注目!外部サイトでは見れないここだけのドS上司とのHシーンが含まれるのでR-15作品です!

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

処理中です...