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脅かされた日常
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「あ……、いや……」
逃げなきゃいけないと分かっているのに身体は思うように動かず、何歩か後ろに後退るのが精一杯。
更には馬宮が手にしている銃を見て、先程の音が何だったのかが分かる。
そして、馬宮が自分の目の前に居る事で、朔太郎が撃たれたのだと確信した咲結が絶望した、その時、
「伏せろ、咲結!!」
「!?」
突如聞こえてきた声に反応した咲結は瞬間的にその場にしゃがみ込むと、
「そいつに、近付くんじゃねぇよ!!」
「クソッ、お前、まだ動けんのかよ――」
朔太郎が鉄パイプを手に近付いて来て、驚く馬宮目掛けて振りかぶった。
馬宮は咄嗟に避けたものの鉄パイプが腕に当たり、弾みで拳銃は地面に落ちた。
「やりやがったな……」
だらんとした右腕が相当痛むのか、顔を顰めながら何とか落ちた拳銃を拾おうとする馬宮だったけれど、
「やらせねぇーよ!」
馬宮が拾うより先に拳銃を蹴り飛ばした朔太郎は、咲結を背に庇うように立ちはだかった。
「さっくん……」
「大丈夫だから、泣くな」
「うん……」
そして、咲結を安心させる為に「大丈夫」と口にした朔太郎だったけれど、よく見てみると、脇腹辺りに銃弾を受けたのか紫色のトレーナーに血が染み渡り、地面に垂れていた。
「さっくん、血が……」
「平気だって、こんなの、掠り傷……」
「嘘……だって、こんなに……」
「いいから、ここを離れるぞ」
戸惑う咲結の手を掴んだ朔太郎は落ちていた銃を拾い上げて倉庫から離れようと歩く。
けれど、
「逃げられると思うなよ、馬鹿が!」
後ろから馬宮の声が聞こえてきた瞬間、彼がもう一つの銃を隠し持っていた事を悟った朔太郎。
「危ねぇ!」
「きゃあ!?」
パンッと発砲音が聞こえたと同時に朔太郎が咲結に覆いかぶさる形で庇い、まともに銃弾を受ける事は免れたものの、
「くっ……」
肩に銃弾が掠った朔太郎は苦痛に顔を歪めていた。
「死ねよ、クソどもが!」
とにかく、咲結を守ろうと力の限りで彼女を抱き締め、銃弾を受ける覚悟で自身の身を犠牲にしようと構えていると、パンッパンッと別の方向から発砲音が聞こえてきた刹那、「うあっ」と声にならない声を上げた馬宮が倒れていく。
そして、
「朔! 無事か!?」
「朔太郎!」
焦りの表情を浮かべた理仁や朔太郎の兄である海堂 翔太郎が地面に倒れ込んでいる咲結と朔太郎の元へ駆け寄った。
「……理仁さん、……兄貴……」
「よく頑張ったな。翔、馬宮たちの方を頼む」
「はい」
ひとまず朔太郎が無事だと分かり、ホッと胸を撫で下ろした理仁は翔太郎に指示を送る。
「……っ、さっくん……」
「咲結、泣くなよ……」
理仁の手を借りて身体を起こした朔太郎を改めて見た咲結は、血だらけの彼の姿に涙を流した。
「だって、……血が……っ」
「平気だって、……掠っただけだから……」
「……っひっく……うう……っ」
朔太郎は平気だと言うものの、このまま血を流し続ければ危険な事は誰が見ても分かる事。
「朔、お前はすぐに病院だ。真琴、手を貸してくれ! それと……咲結、だったな、お前も一緒に来てくれ」
理仁は近くに居た組員の金井 真琴に朔太郎の介助を頼むと、泣きじゃくる咲結に付いてくるよう声を掛ける。
「……っ、はい……」
こうしてこの場を翔太郎や他の組員たちに任せた理仁は自身が運転する車で病院へと向かって行った。
逃げなきゃいけないと分かっているのに身体は思うように動かず、何歩か後ろに後退るのが精一杯。
更には馬宮が手にしている銃を見て、先程の音が何だったのかが分かる。
そして、馬宮が自分の目の前に居る事で、朔太郎が撃たれたのだと確信した咲結が絶望した、その時、
「伏せろ、咲結!!」
「!?」
突如聞こえてきた声に反応した咲結は瞬間的にその場にしゃがみ込むと、
「そいつに、近付くんじゃねぇよ!!」
「クソッ、お前、まだ動けんのかよ――」
朔太郎が鉄パイプを手に近付いて来て、驚く馬宮目掛けて振りかぶった。
馬宮は咄嗟に避けたものの鉄パイプが腕に当たり、弾みで拳銃は地面に落ちた。
「やりやがったな……」
だらんとした右腕が相当痛むのか、顔を顰めながら何とか落ちた拳銃を拾おうとする馬宮だったけれど、
「やらせねぇーよ!」
馬宮が拾うより先に拳銃を蹴り飛ばした朔太郎は、咲結を背に庇うように立ちはだかった。
「さっくん……」
「大丈夫だから、泣くな」
「うん……」
そして、咲結を安心させる為に「大丈夫」と口にした朔太郎だったけれど、よく見てみると、脇腹辺りに銃弾を受けたのか紫色のトレーナーに血が染み渡り、地面に垂れていた。
「さっくん、血が……」
「平気だって、こんなの、掠り傷……」
「嘘……だって、こんなに……」
「いいから、ここを離れるぞ」
戸惑う咲結の手を掴んだ朔太郎は落ちていた銃を拾い上げて倉庫から離れようと歩く。
けれど、
「逃げられると思うなよ、馬鹿が!」
後ろから馬宮の声が聞こえてきた瞬間、彼がもう一つの銃を隠し持っていた事を悟った朔太郎。
「危ねぇ!」
「きゃあ!?」
パンッと発砲音が聞こえたと同時に朔太郎が咲結に覆いかぶさる形で庇い、まともに銃弾を受ける事は免れたものの、
「くっ……」
肩に銃弾が掠った朔太郎は苦痛に顔を歪めていた。
「死ねよ、クソどもが!」
とにかく、咲結を守ろうと力の限りで彼女を抱き締め、銃弾を受ける覚悟で自身の身を犠牲にしようと構えていると、パンッパンッと別の方向から発砲音が聞こえてきた刹那、「うあっ」と声にならない声を上げた馬宮が倒れていく。
そして、
「朔! 無事か!?」
「朔太郎!」
焦りの表情を浮かべた理仁や朔太郎の兄である海堂 翔太郎が地面に倒れ込んでいる咲結と朔太郎の元へ駆け寄った。
「……理仁さん、……兄貴……」
「よく頑張ったな。翔、馬宮たちの方を頼む」
「はい」
ひとまず朔太郎が無事だと分かり、ホッと胸を撫で下ろした理仁は翔太郎に指示を送る。
「……っ、さっくん……」
「咲結、泣くなよ……」
理仁の手を借りて身体を起こした朔太郎を改めて見た咲結は、血だらけの彼の姿に涙を流した。
「だって、……血が……っ」
「平気だって、……掠っただけだから……」
「……っひっく……うう……っ」
朔太郎は平気だと言うものの、このまま血を流し続ければ危険な事は誰が見ても分かる事。
「朔、お前はすぐに病院だ。真琴、手を貸してくれ! それと……咲結、だったな、お前も一緒に来てくれ」
理仁は近くに居た組員の金井 真琴に朔太郎の介助を頼むと、泣きじゃくる咲結に付いてくるよう声を掛ける。
「……っ、はい……」
こうしてこの場を翔太郎や他の組員たちに任せた理仁は自身が運転する車で病院へと向かって行った。
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