近付きたいよ、もっと、、、。

夏目萌(月嶋ゆのん)

文字の大きさ
上 下
6 / 34
出逢い

6

しおりを挟む
「はぁ……私、もう一生恋愛なんて無理かも……」

 翌日の放課後、優茉とカフェにやって来た咲結はミルクティーを飲んで一息吐くや否やポツリと呟いた。

「何よ、いきなり。昨日の出来事、まだ引きずってるの?」

 そんな咲結を不思議そうに見つめながら優茉が問い掛けた。

「だって、ナンパしてくるのは変な人ばっかりだし、良いなと思ってた人は性格最悪だし、ナンパからも昨日も助けてくれたヒーローみたいな人はデリカシーない最低男だし……何か全然良い人に出会えないんだもん」
「いやいや、確かに今はちょっと続いてるけど、うちらまだ高校生じゃん?  そこまで悲観的になる事はないでしょ?」
「いいよね、優茉は彼氏いるからさ」
「彼氏って言っても幼なじみだし、そんな新鮮な感じでもないけどね」
「いいじゃん幼なじみ。私だって幼なじみでもいいから彼氏欲しいよ。いないけどさ、幼なじみなんて」

 優茉と言い合い、頬を膨らませた咲結は再びミルクティーを一口飲んだ。

「ってかさ、咲結はちょっと理想高すぎるのが駄目なのよ」
「えー?  そうかな?  別に普通だよ」
「そう?  だってイケメンで男らしくて、ちょっとクールで時々優しくしてくれて、女の子の気持ちが分かってさりげない気遣いしてくれて、記念日とかはサプライズしてくれる男が理想でしょ?」
「うん」
「……この際はっきり言うけど、そんな完璧な男、いないと思うよ」
「そりゃ、全て当てはまる人はいないかもしれないけど、それに近い人はいるでしょ?」
「どうかな?  まぁ、イケメンで男らしいってのはいると思うけど……そもそもクールで時々優しいってのは何?  人前ではつんけんしてて自分の前でだけ優しくしてくれる的な?」
「うーん、まぁ、そんな感じ?  優しすぎちゃ駄目なの。ちょっと冷たいくらいが格好良いの!」
「ごめん、よく分からないわ。とにかく、出逢い云々よりもまずは理想と違うとすぐ冷めちゃうところをどうにかしなきゃ。時には妥協も必要だと思うよ?」
「妥協ね……分かってはいるけど、冷めちゃうのはどうにもならないよ……」

 咲結自身も自分の面倒臭い性格は理解しているのだけど、直そうと思って直るものではないのでどうにも出来ないと嘆いて肩を落とす。

「ね、ねぇ咲結、あの人、咲結の知り合い?」
「え?」

 そこへ、急に優茉が店の外を小さく指差しながら咲結に問いかける。

 声を掛けられた咲結が優茉の指差す方へ視線を向けるとそこには、

「海堂……さん」

 朔太郎が立っていて、咲結が気付くと笑顔を向けて店の中へ入って来た。

「咲結」

 周りの視線を全く気にしない朔太郎は店に入るとそのまま咲結と優茉が座る席までやって来た。

「な、何ですか?」

 いきなりの事に驚き、たじろぐ咲結が警戒心剥き出しで問い掛けると、

「昨日は悪かった!」

 そう一言口にしながら勢いよく頭を下げた朔太郎に咲結は勿論周りも呆気に取られていた。

「ちょ、ちょっと、何なんですか……」
「昨日はお前の気持ちも考えないで酷い事言っちまった!  ごめんな、配慮が足りなかった!」

 優茉や周りの人たちは何の事だか分からず、ただ二人のやり取りに視線を向け続ける中、注目を浴びている事に耐えられない咲結は、

「も、もういいです!  怒ってないから謝らないで!  頭を上げて下さい!」

 周りの視線から逃れたい一心で朔太郎に頭を上げるようお願いすると、

「本当か?  許してくれるんだな?  良かった」

 顔を上げた朔太郎は許して貰えたのが嬉しいのか、満面の笑みで咲結を見た。

 そんな無邪鬼な表情を浮かべた朔太郎を前にした咲結の鼓動はトクンと跳ねる。

(な、何?  この胸の高鳴りは……)

 思いがけない胸の高鳴りに戸惑う咲結をよそに朔太郎は、

「それじゃ、これからは気をつけろよな。咲結」

 ポンと手を頭に乗せて一言言うと、相変わらず周りを気にする様子もなく意気揚々と店を出て行った。

「咲結、もしかして彼が例のナンパから助けてくれたっていう?  ……って、咲結、アンタ顔赤いわよ?」
「……優茉、私、変かも」
「え?」
「胸の奥がもの凄く、キュンってなった……」
「それって……」
「いやいや、でも有り得ないよ、そりゃ助けてくれたし良い人だけど、昨日の発言はムカついた……今は謝ってくれたけど……。それに、なんて言うか……私のタイプとは違うもん……」

 優茉の言いたい事が分かった咲結は勢いよく否定するも、頭の片隅では感じていた。

 自分が理想とはちょっと違う朔太郎に惹かれている事に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌(月嶋ゆのん)
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

ただ、愛してると囁いて

螢日ユタ
恋愛
「俺に干渉はするな。それと、俺の言うことは絶対に聞け。それが条件だ」 行き場の無い私を拾ってくれた彼は決して優しく無くて、 基本放置だし、 気まぐれで私を抱くけど、 それでもいい。 私はただ、 温もりと、居場所が欲しいだけだから――

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...