近付きたいよ、もっと、、、。

夏目萌

文字の大きさ
上 下
2 / 34
出逢い

2

しおりを挟む
「やっと諦めたぜ。良かったな」
「あ、は、はい……」

 チャラ男たちが立ち去り残された咲結は赤髪男に声を掛けられると、先程の言動を思い出したせいか少しだけ萎縮してしまう。

 赤髪男は咲結が怯えていることに気づくと、

「怖がらせて悪かった!  お前には何もしねぇから、そう怯えるなよ」

 申し訳なさそうに頭を下げて謝った。

「い、いえ……そんな……。寧ろ、助けてくれてありがとうございました、本当に助かりました」

 これには咲結も予想外だったのか謝られた事に驚くばかり。まだお礼を言っていないと気付いて慌てて感謝の思いを口にした。

「良いって。困ってる奴を放っておけなかっだけだし、それに、ああいう奴らはいけ好かねぇからさ」

 一見ナンパ男たちと変わりのないチャラい男なのかと思っていた咲結は彼の言葉に胸を打たれた。周りは皆、関わりたくなくて見て見ぬふりだったのに困っている人を放っておけなくて助けよう思うなんてなかなか出来る事じゃないと。

「ま、こういう所はああいう奴らが多いから気を付けろよ、それじゃあな」
「あ、あの……お名前、聞いてもいいですか?」
「え?  俺?」
「はい。あ、私は橘  咲結って言います!」
「あー、俺は海堂かいどう  朔太郎さくたろうだ」
「海堂さん、本当にありがとうございました」
「良いって。それじゃあな」
「はい、さよなら」

 別れ際、再度お礼を口にした咲結に笑いかけた朔太郎はひらひらと手を振ると、人混みの中に消えていく。

「……海堂さん、か」

 ただナンパから助けてもらっただけの関係。恐らくもう会う事はないだろう。

「見かけによらず、良い人だったなぁ」

 けれど、どこかでまた会えたらいいなと思いながら咲結は家路を急ぐ為、朔太郎とは反対方向に歩いて行き人混みへと消えていった。


「へぇ~、そんな事があったんだ?」

 翌日、学校へ着いた咲結は同じクラスで親友の寿ことぶき  優茉ゆまに昨日の夕方、朔太郎に助けられた出来事を話していた。

「で、その人格好良かったの?」
「うん、そうだね。見た目ちょっとチャラそうでナンパして来た人たちと大差ないなぁって思ったけど、結構格好良かった」
「そっかぁ、イケメンかぁ~羨ましいなぁ、私も助けてもらいたーい」
「えぇ?  優茉は彼氏いるから彼氏に助けて貰えばいいじゃん」
「いやまぁそうだけど、イケメンに助けて貰えるのはやっぱり嬉しいじゃん。何か漫画みたいでさぁ」
「うん、まぁ確かにね。そうだよね、よく考えてみれば漫画とかに良くある展開だったよね」
「そうだよ、咲結そういうの好きじゃん。で、勿論名前聞いたり連絡先交換したんでしょ?」
「え?  いや、名前は聞いたけど、連絡先は――」

『交換してない』と言葉を続けようとした咲結だったのだけど、

「ねぇねぇ咲結!!」

 息を切らしてやって来た隣のクラスの友人、皆瀬みなせ  杏珠あんずの声によって掻き消されてしまう。

「杏珠、何なのよ朝っぱらから騒がしいなぁ」
「騒がしいとは何よ、せっかく咲結が喜ぶとっておきの話を持って来たのにぃ」
「とっておきの話?」

 咲結の問い掛けにウェーブがかった栗色の長い髪を軽く整え頬を膨らませた杏珠は抗議しつつも『とっておきの話』とやらを話し出した。

「実はね、K高との合コンが決まりましたー!」
「え?  マジか!  杏珠大好きー!」

 杏珠の話を聞いた咲結は勢い良く杏珠に抱きつくと、その表情には笑顔が溢れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

処理中です...