お前の全てを奪いたい【完】

夏目萌

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「お前っ!  何でここに!」
「残念だったな。つーか、こんなとこに環奈一人を来させる訳ねぇだろうが。阿呆か」
「……っ、何だよテメェ、本当うぜぇ奴だなっ!  コイツは俺の女だ!」
「はあ?  俺の女?  環奈は何度もハッキリお前とは別れたいと話をしてたはずだ。いつまでも納得してねぇのはテメェだけだろうが」
「納得なんて出来る訳ねぇっての!  なあ環奈、もう一度考え直せよ。俺、お前の事好きなんだ。お前だって本当は俺の事好きだろ?  手を出した事は謝る!  もうしない!  だから、な?  戻って来いよ……俺、環奈が居ないと、駄目なんだよ……分かるだろ?」

 喜多見のその言葉に小さく反応する環奈。

 俺はそんな彼女の身体を更に強く抱き締めながら、

「本当に大切なら、暴力なんて振るったりしない。傷付けたりしない。お前はそうやって都合の良い言葉を並べて、環奈を縛り付けてるだけだ。環奈も、それを愛だと勘違いするな。もう一度、この場でハッキリ言ってやれ」

 喜多見と環奈に言い放つ。

 それを聞いた環奈は喜多見を見据え、

「……お願いします、一聖くん。別れてください。私はもう、貴方に何の未練もありません。今私が大切だと思う人は、貴方じゃない。だから、迷惑行為も、止めてください」

 思っていた事を全て、彼に吐き出していた。

 流石にそこまでハッキリ言われるとは思っていなかったのか、喜多見はその場に崩れ落ちていく。

 そして、

「……もういい。お前の事なんて、何とも思ってねぇよ。さよならだ。さっさと帰れよ……」

 項垂れたままそう口にした。

 俺は去り際、

「次ああいう書き込みをしたり俺や環奈に危害を加えようとしたら、店のバックに付いてる組織が黙ってねぇから、その辺、肝に銘じておけよ」

 それだけ言うと環奈の手を引いてその場を後にした。

 帰り道、車内には気まずい空気が流れていた。

 環奈もああは言ったけど、優しい奴だから色々と気にしてるんだろう。俯いたまま、何も話はし無かった。

「環奈、少し寄り道してもいいか?」
「え?  あ、はい……」

 そんな彼女の気分転換になるような事をしようと俺は環奈にそう問い掛けて了承を得ると、市外へ向かって車を走らせた。


 車を走らせる事、約三十分。辿り着いた先は海岸だ。

 秋も終わりに近付いている事もあって外に出るとかなり寒いが、潮風を浴びれば気分転換にはなるだろうとやって来た。

「少し、外に出ようぜ」
「はい」
「寒いから、これ、羽織っとけよ」
「でも、それじゃあ万里さんが寒いですよ?」
「俺は平気だから、気にすんな。行くぞ」

 俺は自分が着るはずのジャケットを環奈に手渡すと、車を降りて砂浜へと向かい、二人しかいない海岸で夜の海を眺めた。

「綺麗……」

 そう呟く環奈の横顔を間近で見た俺は、水面に映し出される星空よりも、ずっと環奈の方が綺麗だと思った。

 上着を羽織っていても寒いのか、環奈は少し身体を震わせる。

「寒いか?」
「……少し、だけ」
「それじゃあ、こうしたら暖かいだろ?」

 薄着の俺も少し寒いし、環奈も寒い。

 それならばと俺は彼女を後ろから包み込むように抱き締めた。

「……暖かいな」
「……本当に、暖かいです」
「……なあ、環奈」
「はい?」
「……あの時、喜多見に言ったことは、本当に、本心だったのか?」
「……………………」

 これは聞くべきか迷ったけど、やっぱり、知りたかった。

 俺が思うに、半分は本心だったかもしれないが、まだ心の片隅でアイツを想ってるのではないかという事を。

 どんなに酷い目に遭わされても好きだった相手だ。心優しい環奈が、完全に嫌いになんてなれないに決まってる。

「……確かに、未練が全くないって言うのは、ごめんなさい、嘘です。あんな人でも、好きだった人だから、すぐに全てを忘れる事が……できません」
「そうか……」
「…………だけど」
「ん?」
「今私が大切だと思う人は…………一人だけです」
「……なぁ、それって、俺の事?」
「そうです。私が今、一番大切だと思っているのは、万里さん、貴方だけ――」

 環奈が言い終えるのを待ち切れなかった俺は、彼女を俺の方へ向け直すとすぐに顎を掬い上げて、冷えた唇を重ね合わせた。
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