お前の全てを奪いたい【完】

夏目萌

文字の大きさ
18 / 43
FOURTH

1

しおりを挟む
 環奈と結ばれ深い仲にはなったものの、俺らはまだ、恋仲になった訳じゃなかった。

 あれから環奈が喜多見に『別れたい』と電話で話したものの、アイツは『そんなつもりはない』の一点張りで聞く耳を持たない。

 未だ環奈があの男の女という事が酷くもどかしい。

 けど、そんなのあくまでもアイツが言ってるだけの事。

 環奈の心はもう、俺にあるんだから。

 しかし、それ以外にもまだ、問題は山積みだった。


「ねぇ芹、どうして最近アフター行ってくれないの?」

 いつも通り接客をしていると、真美が頬を膨らませながら迫ってくる。

「だって真美は、アフター=ホテルだろ?  この前話したと思うけど、俺もう、今後客とは寝ないって決めたんだ」
「どうしていきなりそんな事言うの?  私は他の客とは違って特別って言ってくれたのに!」
「……悪いな、それが嫌なら俺の事はもう指名してくれなくていいよ。誰が何と言おうと考えを曲げる気はねぇから」
「……本命が出来たって、事?」
「――そう取ってもらっても構わねぇよ。ここはホストだ。ここに居る間は尽くすよ。けど、店から出たら俺は、別の人間なんだよ。ごめんな」
「…………」
「今日は別の奴、席に付けようか?」
「やだぁ!  私は芹がいいの!  芹じゃなきゃ嫌なの!  分かった、それならアフターは普通に食事に行こ?  それなら行ってくれるんでしょ?」
「そうだな、ホテルには絶対行かないって言うなら、アフターは良いよ」
「約束するから!  私、お店以外でも芹と一緒に居たいの!」

 これまで寝て来た大抵の客は俺の意思を尊重して、今後一切身体の関係は持たない事を受け入れてくれたのものの、真美だけはなかなか納得してくれなかった。

 一番の太客だから特別扱いしていたのがいけなかったと分かってはいるが、正直面倒臭い。

 けど、店にいる間は『芹』として振る舞い、客に夢を見せないとならない。

 それが俺の仕事だから。


 一方の環奈はというと、未だキャバ嬢を続けていた。

 俺としては辞めて欲しかったが、お金も無いし、せっかく慣れて来たからもう少し続けてみたいという彼女たっての希望で働いている。

 まあ本人が楽しんでいるなら仕方が無いと、明石さんには厳しく監視を頼み、絶対に危険が無いようにしてもらっているから、まだ安心だった。

 暫くは穏やかな日常を過ごしていた俺たちだったけど、ある日を境にそれは一変する事になる。

 その日は珍しく開店と同時に客たちがやって来る。

「ちょっと!  これ、どういうこと?」
「キャバ嬢に惚れ込んでるとか、本当なの!?」
「信じられない!  私だけって言ってくれてたのに!」
「はあ?  アンタ何様よ?  彼は私の事が好きなのよ!」
「馬鹿じゃないの?  あんたみたいなババアに本気な訳ないでしょ?」
「何ですって!?」
「お、お客様!  少し落ち着いてください!」

 突然押し掛けた客が何やら口々に言うと、今度は客同士が喧嘩を始める始末。

 これには黒服たちも驚き、数人で止めに入ったようだ。

「何だ?  どうした?」
「今日は客入り早くねぇか?」

 入り口が騒がしい事で俺と礼さんが姿を現すと、

「芹!  ちょっと、これどういう事!?」
「説明してよ!!」

 真美をはじめ、俺の指名客たちが黒服を押し退けて詰め寄って来た。

「な、何だよ?」

 いきなりの事で何だかよく分からない俺に真美が一枚の紙を押し付けてくる。

 それを手にして見てみると、そこには俺と環奈の事が書かれた書き込みの一部が載っていた。

 恐らく、ネットで見付けたものをプリントアウトして来たのだろう。

「何よ、この環奈ってキャバ嬢!  芹、この女に惚れ込んだから私と寝るの止めたのね?  信じられない、こんな田舎臭い女!」
「芹、キャバ嬢なんて止めた方がいいわ!  金目当てよ」
「私、今まで以上に芹に尽すわ!  だから、目を覚まして」
「ちょっと、アンタは黙っててよ」
「はあ?  アンタこそ黙りなさいよ!」

 女たちは次々に自分の言い分を口にしては、ライバルたちを罵り合う。

 この光景を見て、心底醜いと思ってしまう。

(何なんだよ、何でこんな書き込みが……)

 そこで、俺は気付く。これは恐らく喜多見の仕業では無いかと。

「礼さん、悪いけど俺、今日は帰るわ」
「ああ、そうだな。これじゃ営業にならねぇし、後はこっちで何とかする。この分だと恐らく、HEAVENの方にも皺寄せが行ってるかもしれねぇから頼む」
「分かった」

 小声で礼さんと話を付けた俺が裏に引き返そうとすると、

「芹!  待ってよ!  お金ならいくらでも出すわ!  だから、私だけを見てよ!」

 真美がそう叫ぶ。

 そんな彼女の言葉に俺は足を止め、冷めた瞳を向けて女たちに言い放った。

「あのな、俺はホストだぜ?  初めから客の誰にも本気になんてなってねぇんだよ。それに俺は、そこに書かれてる通り、『芹』じゃなくて、『万里』だ。俺は万里として、環奈に惚れてんだ。他人にとやかく言われる筋合いねぇんだよ」と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

処理中です...