上 下
66 / 69
番外編

12

しおりを挟む
「勿論です。必ず、約束します」
「俺も、約束します!」
「……分かった。とにかく、鬼龍はまだ歩ける身体じゃねぇから車椅子だ。準備するからどっちか一人付いて来い」

 結局三人の熱意に根負けする形で一時的に出掛ける事を許可した中城。

 理仁と車椅子をワゴン車に積んだ翔太郎たちはこの場所から三十分程の場所にある産婦人科まで向かって行く。

 そして、

「真彩!」

 朔太郎に押されて車椅子で真彩の入院する病室までやって来た理仁は、ドアを開けるなり病院という事を忘れているのか大きな声で真彩の名前を口にした。

「理仁、さん……」

 その声とドアが開いた音に少し驚いた表情を浮かべる真彩だけど、理仁が会いに来てくれた事が嬉しかったのか瞳に涙を溜めながら理仁の名前を呼んだ。

「大丈夫なんですか、こんな所に来て……」
「問題無い。それよりも、お前こそ平気なのか!?」
「はい、処置も早かったおかげで危険な状態は脱したようで、後数日で退院して、かかりつけの病院で再度診察してもらうようにと言われました」
「……そうか」
「理仁さんこそ、本当に大丈夫なんですか? 助かったと聞いた時は本当に安心しましたけど、心臓が止まったと聞いた時は目の前が真っ暗になっしまって……私……私っ」

 気丈に振る舞っていた真彩だけど、本当はずっと不安で堪らなかった。

 理仁が助かった事は聞いていたものの、直接自分の目で確かめるまで気が気でなかった真彩は今ここに理仁が来てくれた事が嬉しくて、感極まって涙を零してしまう。

「真彩、泣くな。もう大丈夫だ。心配掛けて済まなかった」
「うっ、ひっく……理仁さん、私、私……っ、不安で、怖くて……っ、助かって、本当に良かった……っ」

 二人が抱き合う中、邪魔してはいけないと朔太郎は音を立てずにその場を離れ、病室を後にした。


 それから数日後、理仁も真彩も医者からの許可が出た事で自宅へ帰れる事になった。

 真彩はかかりつけ医に診てもらい、今度こそ絶対安静を条件に自宅で過ごす事を許可され、理仁は朔太郎や翔太郎が目付け役となって無理しない程度に日常生活を送る事を許されていた。


「ママ、だいじょーぶ?」
「うん、平気だよ。悠真にも心配掛けてごめんね」
「ううん、へーき。だけど、もうゆうまをおいて行かないでね」
「うん、ごめんね」

 真彩は絶対安静となり、ほぼ寝たきりの毎日を送る事になってしまったので、悠真は学校から帰ってくると、常に真彩の傍に付いていた。

 それからひと月後、理仁が撃たれた事によって西区域の上位組織も流石に黙っていられないと立ち上がり、東西の上位組織が協力関係となった事で、穂積会は一気に追い込まれていった。

 そして、話し合いの場が設けられ、穂積会は解散、属していた組員たちは各組織に身柄を預ける形でそれぞれ別れていった。

 これでこの一件は全て片付き、理仁も忙しく動き回らずに済む事に。

 臨月を迎えた真彩も安静を守り続けたおかげか、医者からは無理の無い程度に動いていいと言われ、鬼龍家にはいつもの平穏な日常風景が戻っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

授かり相手は鬼畜上司

鳴宮鶉子
恋愛
授かり相手は鬼畜上司

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

処理中です...