愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌(月嶋ゆのん)

文字の大きさ
上 下
59 / 69
番外編

5

しおりを挟む
 理仁に不安を打ち明けてからというもの、すっかり元気になった真彩はいつも通り変わらぬ毎日を過ごしていた。

 けれど、それから二週間程が経った辺りから、本格的に悪阻が悪化し始めて家事もろくに出来ない程の倦怠感に悩まされていた。

 まだ真彩が妊娠した事を知らない一部の組の人間や悠真は日々彼女を心配していた。

「……やっぱり、もう、話してしまった方が、いいですよね。悠真もかなり心配してるみたいだし」
「そうだな。安定期に入ってからの方がいいというお前の気持ちも分かるが、今後の為にも話した方がいいだろう」

 悠真については、何度か話そうとはしたものの、どう打ち明けるべきか迷い続けていた真彩はなかなか話す決断がくだせずにここまできてしまい、その結果余計に心配させて辛くなった事もあり、それならばいっそ皆にも話すべきだと理仁が助言した。

「……今日は、比較的体調が良いので、私の口から皆さんに話そうと思います」
「分かった。早速皆を集めて来る」

 真彩としては、安定期に入ってからの方が良いかと思って隠していたのだけど、こうも寝たきりが続くと何か悪い病気ではないかという憶測も生まれるだろうし、これ以上悠真に心配をさせない為にもきちんと話をする事に決めた。

 理仁の声掛けで共に寝起きをしている組員全員が大広間へ集められたところで、理仁に支えられながら相変わらず具合の悪そうな真彩も顔を出した。

「ママ、だいじょうぶ?」
「うん、今日は比較的良い方だよ」 

 朔太郎と翔太郎の間に座っている悠真は真彩を心配して元気が無さそうだ。

「悪いな、わざわざ集まってもらって。ここ最近、真彩の具合が良くない事で、皆には負担を掛け済まない」
「本当にごめんなさい、皆さんもお仕事で忙しいのに、家の事までやらせてしまって……」

 突然の謝罪に組員たちは焦りの色を浮かべ、

「いえ、そんな事ないです!」
「気にしないでください!」

 と口々に組員たちは気にしていない事を告げると、そんな彼らに理仁は、

「……実はな、真彩には今、新しい命が宿ってる」

 そう皆に向かって話しをした。

「え?」
「新しい、命?」
「それって!」

 真彩がお腹を擦りながら頷いて見せると、組員たちは顔を見合せながら確認し合い、

『おめでとうございます、真彩さん!!』

 組員たち一同は笑顔を浮かべながらそう口にして、皆自分の事のように喜び始めた。

 そんな状況でも未だよく理解し切れていない悠真は、

「新しい、いのち?」

 と不思議そうに真彩に尋ねたので、真彩が分かりやすいようもう一度説明する。

「そう、ママのお腹の中にはね、今、赤ちゃんがいるのよ、悠真」
「悠真に弟か妹が出来るんだぞ?」
「悠真は、お兄ちゃんになるんだ」

 そんな真彩の言葉に朔太郎と翔太郎が更に分かりやすく補足をすると、

「おとうとか、いもうと……。ゆうまが、お兄ちゃん?」

 話を聞いた悠真は聞いた言葉を繰り返しながら、悠真なりに状況を整理しているようだった。

「皆には心配かけたな。安定期に入るまでは黙っておこうかとも思ったんだが、これ以上心配させてもという真彩の一声で伝える事に決めたんだ。皆、今後も真彩のサポートを頼むよ」
「任せてください!」
「真彩さんは家の事なんて気にせず、ゆっくりしてください!」
「そうですよ、負担になるといけないですから、無理しないでください」
「皆さん、本当にありがとうございます。体調が戻ったら無理のない程度に生活していくので、よろしくお願いします」

 理仁と真彩は再び組員たちに思いを伝え、皆が喜びとお祝いムードの中、一人だけ浮かない表情をしている者がいた。

 それは――

「……ママのおなかの中に、赤ちゃん……。ゆうま、おとうともいもうとも、いらない!!」
「悠真?」

 今しがた詳しく説明を受けて一人状況を整理していた悠真で、皆が呆気に取られる中、そう叫んだと思ったら立ち上がると一人部屋を飛び出してしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きだった元彼と結婚させられました

鳴宮鶉子
恋愛
大好きだった元彼と結婚させられました

授かり婚〜スパダリ社長が旦那様になりました!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
授かり婚〜スパダリ社長が旦那様になりました!!〜

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

恋は秘密のその先に

葉月 まい
恋愛
秘書課の皆が逃げ出すほど冷血な副社長 仕方なく穴埋めを命じられ 副社長の秘書につくことになった 入社3年目の人事部のOL やがて互いの秘密を知り ますます相手と距離を置く 果たして秘密の真相は? 互いのピンチを救えるのか? そして行き着く二人の関係は…?

処理中です...