58 / 69
番外編
4
しおりを挟む
「――やはりそうだったのか」
理仁が地方から戻って来た日の夜、悠真を寝かせた真彩は二人きりの部屋で子供が出来た事を告げると、理仁は「やはりそうか」と言った。
「理仁さん……気付いていたんですか?」
それには真彩も驚き、思わず聞き返してしまう。
「確信は持てなかったが、そうじゃないかとは思ってた。最近は忙しくてなかなかお前や悠真との時間を持ってはやれないが、俺なりに気を配ってるつもりだ。勿論、俺一人では無理だから朔や翔にも手伝ってもらっているがな」
「理仁さん……」
彼の言葉に真彩の心が熱を帯びていくのを感じた。
忙しい中でも自分や悠真の事を心配してくれている、その事がもの凄く嬉しかったのだ。
「……すみません……」
「何故謝る?」
自分たちの事を誰よりも思ってくれている理仁を前にしたら、一人で色々と悩んでいた事が申し訳なく思ってしまい気付けば謝罪の言葉を口にした真彩。
それを不思議に思った理仁はベッドに腰掛けると、
「真彩、こっちに来い」
手招きをしながら真彩を呼び寄せ、遠慮がちに横に座った彼女の身体を優しく抱きしめた。
「……理仁、さん」
「悪いな。お前には淋しい思いをさせて」
「いえ、いいんです。お仕事ですから、気にしないでください」
「真彩、俺はな、どんなに忙しくてもお前や悠真の我儘は極力優先したいと思ってる。何か不安に思う事やして欲しい事があれば……遠慮せずに言って欲しい」
「……その気持ちだけで、充分ですよ」
「いや、駄目だ。お前はすぐに我慢するから、俺は心配なんだよ。それに今は一人の身体じゃねぇんだぞ? 言いたい事は何でも言ってくれ。な?」
「……理仁さん……それじゃあ、私が今、不安に思ってる事を聞いてもらっても、いいですか?」
「ああ、聞くさ。何でも話せ」
理仁に抱きしめられたまま、真彩は先日朔太郎に打ち明けた悩みを話し出す。
そして、それを聞き終えた理仁は少し間を置いた後、こう口した。
「真彩の不安は最もだ。今の悠真には分からない事だが、いずれ必ず何か思う事はあるはずだ。ただ、俺はそうなった時にどう対処するかが重要だと思ってる。それは今じゃない。不安な気持ちは分かるが、今は新たな命を授かった事を、素直に喜ぼう」
「……そう、ですよね」
真彩にもそれは分かっていた。
悠真の事が気掛かりなように、自分の元へ来てくれた新たな生命を心の底から喜んであげられていなかった事もずっと気掛かりだった。
「……ごめんなさい、私……」
「真彩は悪くない。いや、誰も悪くはねぇよ。今はとにかく身体にも心にも負担を掛けないよう、ゆっくりしててくれ。暫くは家の事も全て組の奴らにやらせるか」
「ありがとうございます。でも、病気じゃありませんから、出来る範囲内で出来る事をやります。皆さんには今まで通りお手伝いをしてもらえたら助かります」
「そうか? まあ、お前がそう言うならそれでも良いが、とにかく、無理だけはするなよ?」
「はい、分かってます。理仁さんも、忙しいとは思いますけど……無理はしないでくださいね」
「ああ、分かってる」
久しぶりに触れ合った二人は見つめ合うと軽く唇を重ね合わせる。
「……っ、……ん、……はぁ……」
「……真彩」
本当なら、もっと激しく口付けを交わし、余すところなく愛し、深く繋がり合いたいという思いが頭の片隅にある理仁だけど、今は真彩の身体に負担を掛けない事が一番だと理解しているので自身の欲望には気づかないフリをする。
暫く口付けを交わし、真彩に負担をかけない程度に互いの温もりを確かめ合った二人は、幸せな気持ちのまま眠りについた。
理仁が地方から戻って来た日の夜、悠真を寝かせた真彩は二人きりの部屋で子供が出来た事を告げると、理仁は「やはりそうか」と言った。
「理仁さん……気付いていたんですか?」
それには真彩も驚き、思わず聞き返してしまう。
「確信は持てなかったが、そうじゃないかとは思ってた。最近は忙しくてなかなかお前や悠真との時間を持ってはやれないが、俺なりに気を配ってるつもりだ。勿論、俺一人では無理だから朔や翔にも手伝ってもらっているがな」
「理仁さん……」
彼の言葉に真彩の心が熱を帯びていくのを感じた。
忙しい中でも自分や悠真の事を心配してくれている、その事がもの凄く嬉しかったのだ。
「……すみません……」
「何故謝る?」
自分たちの事を誰よりも思ってくれている理仁を前にしたら、一人で色々と悩んでいた事が申し訳なく思ってしまい気付けば謝罪の言葉を口にした真彩。
それを不思議に思った理仁はベッドに腰掛けると、
「真彩、こっちに来い」
手招きをしながら真彩を呼び寄せ、遠慮がちに横に座った彼女の身体を優しく抱きしめた。
「……理仁、さん」
「悪いな。お前には淋しい思いをさせて」
「いえ、いいんです。お仕事ですから、気にしないでください」
「真彩、俺はな、どんなに忙しくてもお前や悠真の我儘は極力優先したいと思ってる。何か不安に思う事やして欲しい事があれば……遠慮せずに言って欲しい」
「……その気持ちだけで、充分ですよ」
「いや、駄目だ。お前はすぐに我慢するから、俺は心配なんだよ。それに今は一人の身体じゃねぇんだぞ? 言いたい事は何でも言ってくれ。な?」
「……理仁さん……それじゃあ、私が今、不安に思ってる事を聞いてもらっても、いいですか?」
「ああ、聞くさ。何でも話せ」
理仁に抱きしめられたまま、真彩は先日朔太郎に打ち明けた悩みを話し出す。
そして、それを聞き終えた理仁は少し間を置いた後、こう口した。
「真彩の不安は最もだ。今の悠真には分からない事だが、いずれ必ず何か思う事はあるはずだ。ただ、俺はそうなった時にどう対処するかが重要だと思ってる。それは今じゃない。不安な気持ちは分かるが、今は新たな命を授かった事を、素直に喜ぼう」
「……そう、ですよね」
真彩にもそれは分かっていた。
悠真の事が気掛かりなように、自分の元へ来てくれた新たな生命を心の底から喜んであげられていなかった事もずっと気掛かりだった。
「……ごめんなさい、私……」
「真彩は悪くない。いや、誰も悪くはねぇよ。今はとにかく身体にも心にも負担を掛けないよう、ゆっくりしててくれ。暫くは家の事も全て組の奴らにやらせるか」
「ありがとうございます。でも、病気じゃありませんから、出来る範囲内で出来る事をやります。皆さんには今まで通りお手伝いをしてもらえたら助かります」
「そうか? まあ、お前がそう言うならそれでも良いが、とにかく、無理だけはするなよ?」
「はい、分かってます。理仁さんも、忙しいとは思いますけど……無理はしないでくださいね」
「ああ、分かってる」
久しぶりに触れ合った二人は見つめ合うと軽く唇を重ね合わせる。
「……っ、……ん、……はぁ……」
「……真彩」
本当なら、もっと激しく口付けを交わし、余すところなく愛し、深く繋がり合いたいという思いが頭の片隅にある理仁だけど、今は真彩の身体に負担を掛けない事が一番だと理解しているので自身の欲望には気づかないフリをする。
暫く口付けを交わし、真彩に負担をかけない程度に互いの温もりを確かめ合った二人は、幸せな気持ちのまま眠りについた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【姫初め♡2024】秘して色づく撫子の花 ~甘え上手な年下若頭との政略結婚も悪くない~
緑野かえる
恋愛
ずっと待っていた、今でも夢なんじゃないかと思っているんですよ。そう私に囁く彼になら、何をされても良いなんて思ってしまっている。それに私の方こそこれは夢なんじゃないかと……奥まで甘やかされて、愛されているなんて。
年下若頭×年上女性の甘えて甘やかされての約12000字お手軽読み切り姫初め話です。
(全5話、本格的なR-18シーンがある話には※マーク)
(ムーンライトノベルズ先行投稿済みの話です)
【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】
衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。
でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。
実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。
マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。
セックスシーンには※、
ハレンチなシーンには☆をつけています。
行き場を失くした私を拾ってくれたのは、強くて優しい若頭の彼でした
夏目萌
恋愛
《『俺の元へ来い』――その一言で、私は救われた》
不幸の連続で行き場すら無い雛瀬 心は全てに絶望し、自ら命を絶とうとした。
そんな矢先に出逢ったのは、強くて優しい、だけど心に闇を抱えていた、極道の世界を生きる相嶋 八雲だった。
この出逢いは二人の運命を大きく変えていく――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
相嶋 八雲(あいじま やくも)32歳
×
雛瀬 心(ひなせ こころ)20歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※この小説はあくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定など合わない場合はごめんなさい。
また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※他サイトにも掲載中。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。
しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。
そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。
渋々といった風に了承した杏珠。
そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。
挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。
しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。
後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
お見合い相手は極道の天使様!?
愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。
勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。
そんな私にお見合い相手の話がきた。
見た目は、ドストライクな
クールビューティーなイケメン。
だが相手は、ヤクザの若頭だった。
騙された……そう思った。
しかし彼は、若頭なのに
極道の天使という異名を持っており……?
彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。
勝ち気なお嬢様&英語教師。
椎名上紗(24)
《しいな かずさ》
&
極道の天使&若頭
鬼龍院葵(26歳)
《きりゅういん あおい》
勝ち気女性教師&極道の天使の
甘キュンラブストーリー。
表紙は、素敵な絵師様。
紺野遥様です!
2022年12月18日エタニティ
投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。
誤字、脱字あったら申し訳ないありません。
見つけ次第、修正します。
公開日・2022年11月29日。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる