愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌(月嶋ゆのん)

文字の大きさ
上 下
37 / 69
好きだと言えたら

2

しおりを挟む
「――という訳で、私の言い方が少し悪かったんです……」

 一旦店を出て人の邪魔にならない所で話をした真彩。それを聞いた理仁は泣きやみかけた悠真を見た。

「悠真、ママに怒られのは嫌か?」
「……うん」
「けどな、ママは理由わけも無く怒ったりはしてねぇんだ。怒る時は悠真が良くない事をしたからだってのは、分かるか?」
「…………うん」
「そうか、偉いな。それなら、怒られた時は泣くんじゃなくて、どうするか分かるか?」
「………………うん」

 理仁に諭された悠真は頷くと真彩の方を向いて、

「ママ……ごめんね……」

 そう、瞳に涙を溜めながら謝った。

「ううん、ママの方こそごめんね。玩具、一緒に選ぼうか」
「うん!」

 理仁によって悠真と真彩は和解し、二人の間に笑顔が戻る。

「よし、じゃあ玩具売り場に戻るぞ。ほら、真彩」

 悠真を左腕で抱いたままの理仁は空いている右手を差し出す。

「……は、はい」

 それが手を繋ごうという合図だと理解した真彩は少し気恥ずかしくなりながらも自身の左手を伸ばすと、理仁から指を絡めて来たので体温が一気に上がっていくのを感じていた。

 結局欲しい玩具をいくつか買って貰った悠真。すると今度はゲームセンターに行きたいと言い出した。

「あのね、ようちえんでたくやくんがくれーんげーむやったっていってた!  ゆうまもやりたい!」
「クレーンゲームは難しいと思うよ?」
「たくやくんはとれたっていってた!  ゆうまもとる!」
「うーん、取れるかなぁ……」

 幼稚園に行き始めてからというもの、お友達が何かをやったという話を聞く度に自分もやりたがるようになった悠真。お手伝いとか為になることならば喜んでやらせる真彩だけど、お金をかけてやるような物はあまりやらせたくないと思ってしまう。

「何事も経験は大切だ。俺が教えてやるからやってみろ」
「ほんと!?  りひとすき!」
「どれを取るんだ?」
「えっとねー、このおおきいクマさん!」

 理仁が教えてくれるという事でゲームセンター内へ着くや否や、挑戦するクレーンゲームの品定めをしていた悠真は大きなクマのぬいぐるみが並べられたクレーンゲームを指さした。

「それは多分難しいと思うよ?  もう少し違うのにしたらどうかな?」

 真彩は取れなくて不機嫌になって騒ぎ出す事を考慮してなるべく取れやすい台の景品を選ばせようとしたのだけど、

「そうか、それじゃあこれをやってみるといい。ほら、ここにこの百円玉を入れるんだ」
「うん!」

 理仁は悠真がやりたいという台をやらせるつもりのようで、硬貨を取り出すと悠真に投入口を教えてお金を入れさせた。

「まずはここを持って、前後左右に動かす。ほら、こうしたら動くだろう?」
「ほんとだ!」

 理仁は悠真の手に自分の手を重ね合わせて操作方法を教えながら、ぬいぐるみの中心辺りにアームを持って来る。

「狙いが定まったら、このボタンを押すんだ。悠真、押してみろ」
「うん」

 言われるがまま悠真がボタンを押すと、アームはぬいぐるみ目掛けて下がっていき、ガッチリと身体を掴んで上昇していく。

「わぁー!  とれた!」

 掴んだまま上昇していくクレーンを見つめる悠真は取れたと嬉しそうだが、その様子を見ていた真彩はハラハラしていた。

(これ、絶対途中で落ちるよね……)

 そう、クレーンゲームはそうそう甘くはない。持ち上げられはするものの、上がりきった瞬間振動で落ちてしまったり、アームが弱いからか、大抵は景品口に向かっている最中に落ちてしまうのだから。

 そうとは知らない悠真はすっかり取れた気でいるので落ちてしまった時の反応が怖いと思う真彩だったけれど、それは意外なものだった。

「あ!」

 予想通り、ぬいぐるみはアームが上がりきった瞬間に落ちてしまったのだ。

「おちちゃった……」

 案の定悠真の表情が曇り、泣き出すのかと思いきや、

「悠真、こういうの物は簡単には取れねぇんだ。もう一度やってみろ」

 理仁に言われるともう一度先程と同じようにアームをぬいぐるみの位置まで合わせ始めたのだ。

 それには真彩も驚いたようで、呆気に取られていた。

 それから何度か挑戦した後、

「とれたー!」

 確率機と呼ばれるものなので、タイミング良くその瞬間を迎えたのだろう。アームの力が強まってぬいぐるみを景品口まで運ぶことが出来、無事クマのぬいぐるみが悠真の元へやって来た。

「凄いね、悠真!  良かったね」
「うん!!」
「泣かずに挑戦出来て偉かったな、悠真」

 そう、理仁の言う通り、取れなくても悠真は諦める事も泣く事もなく、一生懸命景品を取る事に向き合った。いつもなら思い通りにならないと泣いていた悠真が。

 まだまだ子供だと思っていた真彩だけど、日々成長している事を改めて実感すると、嬉しくもあり淋しくもあるようで少し複雑な感情を抱きつつあった。

「あ、しょう!  みてー!  ゆうまがとった!」

 悠真はというと、クマのぬいぐるみを大切そうに抱きしめながら、買い物を終えて戻って来た翔太郎にも自分が取った事を自慢していた。

「これを悠真が?  凄いな」
「えへへ!  かえったらさくにもみせる!」
「そうだな、朔太郎も驚くぞ」
「うん!」
「翔、買い出しご苦労だったな」
「いえ。それよりも、少し気になる事がありまして」
「何だ?」
「ここでは……」

 どうやらあまり周りには聞かれたくない内容の話らしく、真彩や悠真にもチラリと視線を移す翔太郎。それを感じ取った真彩は、

「あ、お話があるようでしたら、そこのプレイルームで悠真を遊ばせます。あの中に居れば私も悠真も安全でしょうから、お話済ませて来て下さい」

 ゲームセンター横にあるプレイルームを指差しながら言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

処理中です...