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血の繋がりなんて関係ない

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「どうして……惇也が?」

 突然現れた惇也を前にどうしていいか分からなくなる真彩。

 けれど、理仁の方は焦る事も無く終始落ち着き払っている。

 それは朔太郎から悠真の父親の存在について聞いていた事、『檜垣 惇也』という人物について予め調べていたから。

 本当ならば作馬や莉奈の一件からきちんと真彩にも伝えるべきだったのだが、真彩からすれば『惇也』の存在は忘れたい記憶そのものだろうし、八旗組との関わりさえ断てば、真彩が知る事も無いだろうと考えていたのだ。

 けれどまさか惇也本人が直接接触を図ってくるとは思わず、結局真彩が知る事になってしまった。

「いやぁ、俺も驚いたわ、まさか、昔付き合ってた女が鬼龍の組長の女になってたなんてなぁ」

 そんな二人をよそに惇也は言葉を続けていく。

「しかし真彩、お前もやるよな、俺と別れてからすぐに新しい男作ったばかりか、こんな子供ガキまで作っちまうとかさぁ」
「……ママ?」

 惇也のその言葉に、怒りと悲しみを感じた真彩は心配そうに見つめる悠真をギュッと抱きしめ、唇を噛み締めながら惇也を睨みつける。

「何だよ、その目。本当の事だろ?」
「…………」
「けど、鬼龍の組長さんも物好きだよなぁ?  アンタは未婚だって聞いてるから、その子供ガキは血の繋がりのない赤の他人だろ?  そんなコブ付きの女なんか選ばなくても、他にいくらでもいるだろうに」
「貴様、言って良い事と悪い事の区別もつかねぇようだが、俺にそんな口きいてタダで済むと思ってんのか?」
「……流石鬼龍の組長さんは態度がデケェな。俺が八旗の人間だからってナメてんのかよ? 大して歳も変わらねぇテメェにデカい顔されたくねぇんだけど?」

 鬼龍組組長である理仁を前にしても全く物怖じしない惇也。八旗組は元は弱小組織とあってそこまで敵視する相手では無いと考えていたのだが、箕輪組という後ろ盾があるからなのか妙に自信有りげで態度が大きい惇也を前に理仁は眉を顰めた。

「俺が気に入らないならそれでもいい。だがな、真彩や悠真に関わる事は見過ごせねぇ」
「へぇ~?  組長さんはすっかり真彩に惚れ込んでるって訳だ?  良かったなぁ、真彩。誰の子供ガキだか知らねぇけど、面倒みてくれる男が傍に居てさ」
「…………この子の事を、そんな風に言わないで。それに、理仁さんは行き場の無かった私と悠真を保護してくれただけよ。そういう言い方しないで」

 惇也は常に喧嘩腰というか、相手の神経を逆撫でする様な事ばかり口にする。

 そんな惇也を前にした真彩は怒りに任せるのではなく、一旦深呼吸をして怒りを鎮めようと試みた。

(こんな人が、悠真の父親だなんて……)

 一度は愛した人の事を悪く言いたくは無いと思う真彩だけど、何よりも大切な悠真を馬鹿にするような発言だけはどうしても許せないでいた。

「それにしても、お前は男に寄生しないと生きていけない訳?  俺の時もそうだ。お前さえ居なければ俺は……」

 冷静さを保ちつつあった真彩だったのだけど惇也の言葉を聞く度に怒りがふつふつと沸き上がり、

「私は、別に寄生してるつもりなんてない!  一人でだってやって来れたわ!  だから、貴方と別れた後でこの子を一人で産んで育てたのよ!!」

 怒りに任せて大声でそう口にした真彩のその言葉。よく聞いていなければ流してしまいそうなものだったけれど、惇也は聞き逃さなかった。そして、真彩の言葉で悠真が誰の子供なのか見当がついてしまった。

「真彩!」

 怒りに任せて悠真が惇也の子供だと分るような言葉を口にした真彩を、理仁が止める隙も無かった。

 真彩を制した時には既に遅く、

「……お前、まさかその子供ガキ、俺の血が繋がってんのか?」
「!!」

 頭に血が上っていた真彩は惇也にそう問われて自分の犯した過ちに気付く。

「……だ、だったら、どうだって言うの?」

 こうなってしまうと今更否定する事も出来ない真彩は開き直って問い掛けると、惇也は何やら思う事があるのか黙り込む。

「……ママ?」

 そんな中、大人たちの険しい顔つきや不穏な空気を感じて怖くなったのか悠真は不安そうな表情で真彩に声を掛けたのだけど、未だ冷静さを取り戻せていない真彩に悠真の声は届いていないようで答えない。

「…………ママ……」

 真彩のその態度に不安が増した悠真。今にも泣き出しそうになっていると、

「悠真、来い」

 そう声を掛けた理仁が悠真を抱き上げた。

「真彩、一旦落ち着け。悠真も不安がってる。とりあえずここは俺が話をつけるから、お前は悠真と車に戻ってろ」

 そして今度は真彩に声を掛けて落ち着かせ、悠真と共に車へ戻るよう指示をした。

「理仁さん……。気持ちは有難いですけど、これは私と惇也の問題ですから……」

 確かに真彩の言う通り、この話は真彩と惇也二人の問題で理仁が口を出す事ではない。

 けれど、今この状況で話をしたところで良い方向に転じる事はないだろう。

 それを察した理仁だからこそ、真彩と惇也を一旦離そうとしているのだ。

「このままここで話をしていても時間の無駄だ。それに、悠真の前で話す事でもないだろ?  俺に任せてお前は戻ってろ。いいな」
「……分かり、ました」

 有無を言わさず車の鍵を手渡した理仁は、半ば強引に真彩に悠真を託して車へ戻るよう促した。

 真彩たちが車に乗り込んだ事を確認した理仁は惇也に向き直ると、考え込んでいた惇也が顔を上げてニヤリと不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。

「……聞いたか、鬼龍さんよ。あの子供ガキは俺の血が繋がってるんだとよ」
「ああ、勿論全て分かっている」
「はぁ? 正気かよ? 知ってて傍に置いてるのか?  敵対してる組の男と血が繋がった子供ガキなんだぜ?」
「それが何か問題あるのか?」
「はあ?   大ありだろ!?」
「俺としては、そんなもの何の問題もないが?」

 終始挑発的な態度の惇也を前に冷静で淡々と相手をする理仁だったけれど、惇也の次の言葉を聞いた瞬間、表情が一気に険しいものへと変わっていった。
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