上 下
8 / 69
優しくしてくれるのはどうして?

1

しおりを挟む
「こらっ!  悠真、待て!」

 日曜日の昼下がり、今日は珍しく組員たちが屋敷に居る事もあって皆が家事を分担してくれているお陰でいつもよりやる事が少なかった真彩が自室でウトウトしていると、屋敷内に朔太郎の大きな声が響き渡った。

「……悠真?」

 その声で目を覚ました真彩は、一緒に部屋に居たはずの悠真が居ない事に気付き急いで部屋を出た。

「悠真ー?」
「あ、姉さん!」
「朔太郎くん」

 廊下を歩きながら悠真を探していた真彩は、曲がり角でバッタリ朔太郎と出くわす。

「さっき、悠真の名前を呼んでたみたいだけど、あの子何かしたの?」
「あ、いや、別に大した事じゃないんスけど……」
「ママー!」
「悠真!」

 朔太郎が状況を説明しようとすると、ベストなタイミングで悠真が現れ、

「悠真、何持ってるの?」

 悠真が何かを手にしている事に気付いた真彩が尋ねると、

「あぁ!!」

 すぐ側に居た朔太郎が大きな声を上げた。

「ど、どうしたの、朔太郎くん」
「いや、何でも! ってか悠真、それ返せ!  」
「いーやー!」

 どうやら悠真が手にしているのは朔太郎の物らしく、更にそれは人に見られたくないものらしい事を悟った真彩は悠真に目を向け返すよう促した。

「悠真、朔太郎くんの物を勝手に持ち出しちゃ駄目よ?  今すぐ返しなさい!」
「いーや!」
「こら、悠真!」
「あぁ、姉さん!  ここは俺が!  なぁ悠真、お願いだから勘弁してくれって」

 言う事を聞かない悠真を叱り力づくで朔太郎の物を取り返そうとするも、それはどうしても見られたく無い物のようで自分が取り返すと悠真に詰め寄る朔太郎。

「これ、ゆうまの!  さくからもらったの!」

 何が気に入ったのか、どうしても返したくない悠真は真彩と朔太郎の間をすり抜け再び逃げ出し駆けていくけれど、

「おっと、走ると危ねぇぞ。悠真、一体何持ってんだ?」

 騒ぎを聞き付けたのか、たまたま廊下に出て来ただけなのか理仁が現れ、ぶつかりそうになった悠真を支えて止めた。

「あぁ!  理仁さん、それは――」

 悠真が大切そうに持っていたそれはぶつかりそうになった弾みで床に落ち、理仁がを拾いあげると朔太郎が悲痛にも似た声を上げた。

「…………はぁ」

 理仁は拾いあげたを目にすると呆れた表情と共に溜め息を吐き、

「朔、お前の趣味をとやかく言うつもりはねぇが、これは明らかに子供ガキに見せるようなモンじゃねぇよな?  万が一、悠真が自分でプレイヤーに入れて目にしたらどうするつもりだ? 教育にも悪いだろうが。入れ物変えたくらいで気を抜くな。こういうのは手が届かない所にしまっておけ」

 鋭い目付きで睨みつけながら静かに言い放つ。

「すいません……気を付けます」

 怒られ、ガックリ肩を落とした朔太郎。一体悠真が手にしていた物は何だったのか、状況から何となく理解した真彩は苦笑いをするだけだった。

「それより、これから出掛けるから車を出してくれ」
「了解ッス!」

 理仁に言われた朔太郎は返事をすると、早々にその場を後にする。

「真彩、悠真、出掛けるから支度をしろ」
「私たちも、ですか?」
「ああ。今日は仕事じゃない。お前たちの買い物だ。遅くなったが、必要な物を買い揃えよう」
「そんな、今ある物で十分です!  家具や家電などはお屋敷にある物を使わせてもらってますし……」
「そうもいかねぇだろ?  服だってそう数はねぇだろうし、それに、悠真には遊び道具が必要なんじゃねぇか?」
「そ、それは……」
「悠真、玩具欲しくないか?」

 理仁は真彩の横に立つ悠真に向かうと、屈んで話し掛ける。

「おもちゃ、ほしい」
「なら出かけた時に買ってやるからな」
「ほんと?」
「ああ」
「わーい!」

 理仁の事はまだ慣れていないのか、近寄ると少し萎縮する悠真だが、オモチャを買ってもらえると分かると笑顔を見せ、理仁の前という事も忘れて喜び始めた。

「ゆ、悠真……」
「真彩、早く準備して来い。車で待ってる」
「すみません、ありがとうございます。すぐに支度をして行きます。悠真、準備するよ」
「はーい!」

 申し訳ないと困り顔の真彩だったが悠真の喜ぶ様子を見ると断る事が出来ず、理仁の厚意を素直に受けてお礼を口にした後、支度を整える為に悠真を連れて一旦自室へ戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...