上 下
6 / 69
常に危険と隣り合わせだけど怖くない

2

しおりを挟む
 一方の真彩は、

「あの、一体何なんですか?」

 買い忘れた物を買い終えて店内を出た瞬間、ガラの悪い二人組の男に半ば無理矢理スーパーのすぐ横の小道へ連れて行かれ、男たちと対峙していた。

「お前、鬼龍組の小僧と一緒に居たよな?」
「組長の女か?」
「あなた方に答える義理はありません!」

 突然の事に驚き、一瞬何が何だか状況が理解出来ていなかった真彩だけど、『鬼龍組』に良くない印象を持っている事を感じ取り、相手は敵対している人間だと察する。

(どうしよう、早く朔太郎くんの所に戻らないと)

 本当は怖くてたまらないはずなのに、真彩は毅然とした態度で相手を見据えて恐怖心を悟られないようにするも、

「コイツ、震えてやがるぜ」
「とりあえず連れて帰りますか」
「そうだな。鬼龍組にとって大切な女かもしれねぇから、使い道もあるだろうし」

 この状況下で平然としていられる女性などそうそう居るはずもなく、身体が小刻みに震えている事を見抜かれた真彩は最大のピンチを迎えていた。

(ここで捕まったら、理仁さんたちに迷惑がかかっちゃう。何とかしなきゃ……)

 覚悟を決めた真彩は男たちが油断している一瞬の隙をついて逃げ出した。

「おいコラ待てや!!」

 しかし相手もそこまで馬鹿ではないようで間髪入れずに真彩を追いかけると、恐怖で足が震えて上手く走れない真彩の足はもつれてその場に倒れ込んでしまった。

(もう、駄目……)

 捕まる事を覚悟していた真彩だったのだけど、

「テメェら、女相手に何やってんだよ!」

 すんでのところで朔太郎が現れ、真彩を背に庇って相手の男たちを睨みつけた。

「朔太郎……くん」
「姉さん、怪我はないっスか?」
「う、うん……」
「間に合って良かった」
「ごめんね……」
「いいッスよ」

 真彩が連れて行かれた際、数人の目撃者がいた事、その客たちが店員に伝えていた事で店長が警察を呼ぼうとしていた所に朔太郎が通りがかり、話を聞いてすぐに駆けつけ今に至る。

 朔太郎は真彩の無事を確認して安堵の息を漏らすと再び相手の男たちに向き直る。

「おめェら猿渡さわたり組の奴らだな?  この前の事、全然懲りてねぇみてぇだなぁ?  この事は組長に報告させてもらう。覚えておけよ」

 どうやら相手の猿渡組というのは鬼龍組より格下で以前にも何か問題があったようで、朔太郎の言葉に相手の男たちは焦りの色を浮かべていた。

「うっせェんだよ!  小僧が調子に乗りやがって!!」

 けれど、ここまで来たら後には引けないのか、二人の内の一人がズボンの右ポケットから折りたたみ式のナイフを取り出すと、朔太郎と真彩目掛けて襲いかかっていく。

「姉さん、離れろっ!!」
「きゃあっ!!」

 咄嗟に朔太郎は背に庇っていた真彩を後ろに押し出し、すぐ側にあった鉄パイプような物を手に取ってナイフの刃を受け止めた。

「姉さんは早く店に逃げて!」
「で、でも……」
「俺は平気だから早く!!」
「わ、分かった!」

 これ以上自分がこの場に留まっていては朔太郎の足でまといになると察した真彩は、後ろ髪引かれる思いで人の多い店の入口へと駆けて行く。

(朔太郎くん……無事でいて!!)

 それから数分後、店側が呼んだらしい警察官がやって来て相手の男たちは連れて行かれ、真彩と朔太郎も軽く聴取を受ける事になった。


「朔太郎くん、本当にごめんね」
「いや、大した事ないんで、謝らないでください」

 聴取を終えて帰宅途中の車内で、真彩は自分のせいで大きな騒ぎになってしまった事を悔いて朔太郎に謝り続けた。

「だって、私が一人で行動しなければこんな事にはならなかったのに……」
「……まぁ確かに、それはそうッスね」

 いつもの朔太郎なら真彩を責めるような言葉は絶対に言わないのだけど、何か思う事があるのか少々素っ気ない。

「本当に……ごめんなさい」

 真彩もそれを感じ取っているのだろう。もう一度謝罪の言葉を口にした後は黙り込んでしまい、車内には居心地の悪い空気が流れていく。

 しかし、それを破ったのは朔太郎だった。

「姉さん、どうしていつも買い出しに俺らが同行してるか、分かりますか?」
「それは、荷物も多いし、危険な事があるかもしれないから?」
「そうッス。これは姉さんに余計な心配をかけないよう理仁さんに言うなって言われてた事なんですけど、俺ら鬼龍組は姉さんが思ってる以上に色んな組の人間から恨まれたりしてるんで、危険は日常茶飯事なんスよ」
「そう、なの……?」
「理仁さんは頭が良くてとにかく経営向きで、気付けば国内の企業を大きくして、今じゃ世間に知らない人がいないくらいの大企業の経営者になった。けど、理仁さんは表に立てる人間じゃないからって経営者としての名は伏せて他の人に任せてるけど界隈で知らない人はいない。そして鬼龍組としては金の取り立てとか大きい声じゃ言えないような取り引きをやってるから、妬み恨み様々、多方面から目を付けられて狙われる事は日常的なんだ」
「…………」
「勿論、組員である俺たちも何時どこで狙われるか分からねぇから気が抜けない。俺や兄貴はその事を姉さんにも話すべきだって言ったけど、理仁さんは頑なにそれを拒んだんだ」
「……どうして……」
「聞いたら姉さんや悠真がのびのびと生活出来ないだろうし、屋敷から出る事を躊躇わせても可哀想だからって。それなんで姉さんや悠真が外へ出る時は、例え敷地内でも必ず誰かが同行するように言い付けられてるんっス」
「そう……だったの……」

 話を聞いた真彩は、考えている以上に危険な世界なんだと改めて知った。

「これからは、気を付けるよ」
「はい。絶対、一人で行動するのだけは控えてください。一人になる際は俺ら同行者の目の届く範囲でお願いするッス」
「うん、そうするね」

 先程より重い空気は無くなったものの、いつもの様に楽しく会話が出来る状態でもない車内に会話は無く、ラジオから流れる曲だけが響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

夏目萌
恋愛
この日、ワケありお嬢様は、危険な世界に足を踏み入れた……。 ――自称“紳士”な男の裏の顔は…… ーーーーー 自称“紳士”なヤクザ 夜永 郁斗(29) × ワケありお嬢様 花房 詩歌(19) ーーーーー ※この小説はあくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※他サイト様にも掲載中です。またこちらは以前別名義にて完結した作品を改稿したものになります。内容はところどころ変わっているので、一度読んだことがある方も新たな気持ちで読んで頂ければと思います。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【姫初め♡2024】秘して色づく撫子の花 ~甘え上手な年下若頭との政略結婚も悪くない~

緑野かえる
恋愛
ずっと待っていた、今でも夢なんじゃないかと思っているんですよ。そう私に囁く彼になら、何をされても良いなんて思ってしまっている。それに私の方こそこれは夢なんじゃないかと……奥まで甘やかされて、愛されているなんて。 年下若頭×年上女性の甘えて甘やかされての約12000字お手軽読み切り姫初め話です。 (全5話、本格的なR-18シーンがある話には※マーク) (ムーンライトノベルズ先行投稿済みの話です)

処理中です...