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出逢いと始まり
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「り、理仁さん……。すみません、探るような真似を……」
「別に構わねぇよ。翔、これから真彩と話がある。先に悠真を部屋に連れて行ってくれ」
「はい。悠真、俺と行こう」
理仁に言われ、翔太郎が悠真を別室へ連れ出そうとするも、
「やー! ママといっしょがいい!」
つい今しがたまでご機嫌だった悠真も見知らぬ場所や大人たちを前に急に不安になってしまったのか、真彩に抱きついて離れようとしない。
「悠真、ママは話をしなきゃならないから……少しだけ、このお兄さんと待ってて?」
「いや!」
「本当に少しだけだから」
「いーや! ママとはなれるの、やだぁ……」
真彩が宥めようとしても聞き入れず、しまいには泣き出しそうになる。
「悠真……」
若干呆れ顔の翔太郎と理仁を前に真彩が焦りの表情を浮かべていると、
「理仁さん、次は何を――」
指示を仰ぐ為にやって来た朔太郎がひょっこりと顔を出した。
「ん? どうした、悠真。何でそんな泣きべそかいてんだ?」
状況を知らない朔太郎は瞳に涙を浮かべた悠真に近寄り問い掛けると、
「ママとちがうおへやにいくの、やなのぉ……」
朔太郎なら嫌な気持ちを分かってくれると感じたのか、思いを口にしながらとうとう泣き出してしまう。
「す、すみません! すぐに泣き止ませますから!」
この状況をまずいと思った真彩が更に焦り、何とか悠真を泣き止ませようとするも、一度泣き出した悠真は泣き止む気配が無い。
何か機嫌を取ろうにもすぐには思いつかない真彩が半ば途方に暮れていると、
「そうだ! なあ悠真、飴食べるか? ほら!」
朔太郎は何かを思い出したように懐を探ると、棒付きの飴を悠真の前に出して見せた。
イチゴ味の飴が大好きな悠真は赤い色をした飴を前にするや否や「……っ……あめ、たべる……」と泣きべそをかきつつも朔太郎の持つ飴を欲しがり手を伸ばしたので、朔太郎は透明の包み紙を剥がして悠真に手渡した。
「丁度いい、朔、お前が悠真の面倒を見ていろ。翔は買い出しに行って来い」
その光景を見た理仁は朔太郎に悠真の面倒を、翔太郎に買い出しを言いつけて真彩と二人きりの状況を作る事に成功した。
「……すみません、面倒をかけてしまって」
「構わねぇよ。見知らぬ大人が居る中、母親と引き離されるとなって急に不安になったんだろう。無理もねぇさ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「それで、俺について知りたい事は何だ? 隠すつもりもねぇから、聞かれれば何でも答えるが」
何でも答えると口にしている理仁だけど、探られている事にあまり良い気分はしないのだろう。鋭い目つきで問われた真彩は萎縮してしまい少し遠慮がちに問い掛けた。
「えっと……失礼を承知でお聞きします。理仁さんは、何をされている方……なんでしょうか?」
「そうだな、会社経営……とでも言えば聞こえがいいか? 会社の種類は様々だが、どれもきちんとした企業だぞ。【株式会社KIRYU】聞いた事があるだろ?」
理仁のその言葉に真彩は驚き、大きく目を見開いた。
【株式会社KIRYU】と言えば、飲食店は勿論、IT企業や建設業と様々な業種に名を轟かせていて国内で知らない者はいない大企業の名前なのだから。
「そうだったんですね、それなら色々と納得です」
「そうか? それならいいが」
理仁の話を聞いた真彩は、それだけの大企業の経営者であれば高い賃金で雇ってくれるのも頷けると思ったのだろう。それに自分が思っていた人とは違うと安堵したようで笑顔を見せる。
けれど、理仁には解っていた。真彩が自分をどう思っていたのかを。
「まぁ会社を経営はしているが、KIRYUの社長は俺じゃない」
「え……?」
「俺は社長として表に経つ事が出来ねぇから裏方に徹して社長は共同経営者として信頼のおける奴に任せている。お前ならこの意味が分かるよな? 薄々気付いていたんだろ?」
「気付いていたって……」
「俺は、鬼龍組の組長なんだ。」
「!!」
確かに真彩は理仁がそういう筋の人間なのかもという仮設を立ててはいたものの、実際そうだと断言されてしまうと返す言葉が見つからず何も言えなくなってしまう。
「お前はこれから、鬼龍組の組長である俺の屋敷で生活をする。勿論出来る限り危険が及ばない様に配慮はするつもりだが、多少の危険が伴うのも事実。だから対価として月収は高額なんだ」
危険が伴うと改めて言葉にされた真彩の表情は一気に凍りついていく。
「怖いか? 今ならまだ辞めてもいい。悠真も居るから危険な場所で暮らす事に躊躇いもあるだろう」
しかし、そうは言われたもののここを出てしまえば真彩に行く宛てなどなく、貯金ほぼ底を尽きかけている現状では仕事を選ぶ余裕すら無い。それに加えて危険は伴うけれどここまでの好条件に出会う事も今後無いだろう。
(組長……やっぱりそうだった。どうしよう……仕事を引き受ければ、私も極道の世界に足を踏み入れた事になって危険な目に遭うかもしれない……それに、何よりも悠真に何かあったら……)
真彩は自分だけなら迷う事はなかった。好条件に危険が付きものだという事は理解出来るから。
ただ、命よりも大切な悠真にもしもの事があったりしたらと思うと、すぐに決断する事が出来なかった。
勿論理仁はその事も理解っているからこそ、真彩を試すように話をしているのだ。安易に決断して何かあった時に後悔させない為に。
「危険は避けられない事もあるが、もしお前と悠真がここに住む事を決めるなら一つだけ確実に約束出来る事がある」
「確実に、約束出来る事……?」
「――お前と悠真の命は、俺の命に代えても必ず守り切るって事をな」
多少怖さもあるが顔立ちが良く、頭も切れて子供を思いやる気持ちも持っている理仁に真剣な眼差しで『命に代えても守る』と言われて、ときめかない女はいないだろう。
不安な気持ちを全て拭い去る事は出来ない真彩だったけれど、自分がこの世で一番大切にしているモノを守ると言ってくれた理仁を信じてみようという思いが勝り、
「……これから、よろしくお願いします」
屋敷で働く事を正式に決断したのだった。
「別に構わねぇよ。翔、これから真彩と話がある。先に悠真を部屋に連れて行ってくれ」
「はい。悠真、俺と行こう」
理仁に言われ、翔太郎が悠真を別室へ連れ出そうとするも、
「やー! ママといっしょがいい!」
つい今しがたまでご機嫌だった悠真も見知らぬ場所や大人たちを前に急に不安になってしまったのか、真彩に抱きついて離れようとしない。
「悠真、ママは話をしなきゃならないから……少しだけ、このお兄さんと待ってて?」
「いや!」
「本当に少しだけだから」
「いーや! ママとはなれるの、やだぁ……」
真彩が宥めようとしても聞き入れず、しまいには泣き出しそうになる。
「悠真……」
若干呆れ顔の翔太郎と理仁を前に真彩が焦りの表情を浮かべていると、
「理仁さん、次は何を――」
指示を仰ぐ為にやって来た朔太郎がひょっこりと顔を出した。
「ん? どうした、悠真。何でそんな泣きべそかいてんだ?」
状況を知らない朔太郎は瞳に涙を浮かべた悠真に近寄り問い掛けると、
「ママとちがうおへやにいくの、やなのぉ……」
朔太郎なら嫌な気持ちを分かってくれると感じたのか、思いを口にしながらとうとう泣き出してしまう。
「す、すみません! すぐに泣き止ませますから!」
この状況をまずいと思った真彩が更に焦り、何とか悠真を泣き止ませようとするも、一度泣き出した悠真は泣き止む気配が無い。
何か機嫌を取ろうにもすぐには思いつかない真彩が半ば途方に暮れていると、
「そうだ! なあ悠真、飴食べるか? ほら!」
朔太郎は何かを思い出したように懐を探ると、棒付きの飴を悠真の前に出して見せた。
イチゴ味の飴が大好きな悠真は赤い色をした飴を前にするや否や「……っ……あめ、たべる……」と泣きべそをかきつつも朔太郎の持つ飴を欲しがり手を伸ばしたので、朔太郎は透明の包み紙を剥がして悠真に手渡した。
「丁度いい、朔、お前が悠真の面倒を見ていろ。翔は買い出しに行って来い」
その光景を見た理仁は朔太郎に悠真の面倒を、翔太郎に買い出しを言いつけて真彩と二人きりの状況を作る事に成功した。
「……すみません、面倒をかけてしまって」
「構わねぇよ。見知らぬ大人が居る中、母親と引き離されるとなって急に不安になったんだろう。無理もねぇさ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「それで、俺について知りたい事は何だ? 隠すつもりもねぇから、聞かれれば何でも答えるが」
何でも答えると口にしている理仁だけど、探られている事にあまり良い気分はしないのだろう。鋭い目つきで問われた真彩は萎縮してしまい少し遠慮がちに問い掛けた。
「えっと……失礼を承知でお聞きします。理仁さんは、何をされている方……なんでしょうか?」
「そうだな、会社経営……とでも言えば聞こえがいいか? 会社の種類は様々だが、どれもきちんとした企業だぞ。【株式会社KIRYU】聞いた事があるだろ?」
理仁のその言葉に真彩は驚き、大きく目を見開いた。
【株式会社KIRYU】と言えば、飲食店は勿論、IT企業や建設業と様々な業種に名を轟かせていて国内で知らない者はいない大企業の名前なのだから。
「そうだったんですね、それなら色々と納得です」
「そうか? それならいいが」
理仁の話を聞いた真彩は、それだけの大企業の経営者であれば高い賃金で雇ってくれるのも頷けると思ったのだろう。それに自分が思っていた人とは違うと安堵したようで笑顔を見せる。
けれど、理仁には解っていた。真彩が自分をどう思っていたのかを。
「まぁ会社を経営はしているが、KIRYUの社長は俺じゃない」
「え……?」
「俺は社長として表に経つ事が出来ねぇから裏方に徹して社長は共同経営者として信頼のおける奴に任せている。お前ならこの意味が分かるよな? 薄々気付いていたんだろ?」
「気付いていたって……」
「俺は、鬼龍組の組長なんだ。」
「!!」
確かに真彩は理仁がそういう筋の人間なのかもという仮設を立ててはいたものの、実際そうだと断言されてしまうと返す言葉が見つからず何も言えなくなってしまう。
「お前はこれから、鬼龍組の組長である俺の屋敷で生活をする。勿論出来る限り危険が及ばない様に配慮はするつもりだが、多少の危険が伴うのも事実。だから対価として月収は高額なんだ」
危険が伴うと改めて言葉にされた真彩の表情は一気に凍りついていく。
「怖いか? 今ならまだ辞めてもいい。悠真も居るから危険な場所で暮らす事に躊躇いもあるだろう」
しかし、そうは言われたもののここを出てしまえば真彩に行く宛てなどなく、貯金ほぼ底を尽きかけている現状では仕事を選ぶ余裕すら無い。それに加えて危険は伴うけれどここまでの好条件に出会う事も今後無いだろう。
(組長……やっぱりそうだった。どうしよう……仕事を引き受ければ、私も極道の世界に足を踏み入れた事になって危険な目に遭うかもしれない……それに、何よりも悠真に何かあったら……)
真彩は自分だけなら迷う事はなかった。好条件に危険が付きものだという事は理解出来るから。
ただ、命よりも大切な悠真にもしもの事があったりしたらと思うと、すぐに決断する事が出来なかった。
勿論理仁はその事も理解っているからこそ、真彩を試すように話をしているのだ。安易に決断して何かあった時に後悔させない為に。
「危険は避けられない事もあるが、もしお前と悠真がここに住む事を決めるなら一つだけ確実に約束出来る事がある」
「確実に、約束出来る事……?」
「――お前と悠真の命は、俺の命に代えても必ず守り切るって事をな」
多少怖さもあるが顔立ちが良く、頭も切れて子供を思いやる気持ちも持っている理仁に真剣な眼差しで『命に代えても守る』と言われて、ときめかない女はいないだろう。
不安な気持ちを全て拭い去る事は出来ない真彩だったけれど、自分がこの世で一番大切にしているモノを守ると言ってくれた理仁を信じてみようという思いが勝り、
「……これから、よろしくお願いします」
屋敷で働く事を正式に決断したのだった。
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