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SCENE2

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「陽葵さ、最近妙に一之瀬と仲良くない?」
「へ?」

 一之瀬と“お試し”で付き合い始めてから約一週間、昼休みに近くのカフェで昼食をとっている最中に菖蒲からそんな質問を投げ掛けられた私は、何とも間の抜けた声を上げてしまった。

「そ、そうかな?  別に、いつも通りじゃない?」
「そりゃあさ、二人はよく言い合いもするし、飲み行ったり仲良いのは知ってるけど……なんて言うか、今までとは違う……そう!  一之瀬が陽葵を見る目が違うのよ!」

 菖蒲は少し考え込むような素振りを見せたのも束の間、何が違うのか分かった瞬間一際声が大きくなった。

「ちょ、ちょっと、菖蒲ってば」
「あ、ごめんごめん」

 声が大きくなった事に自分でも驚いたらしい彼女は『ごめん』と謝ると、声のボリュームを下げて会話を再開した。

 私と一之瀬は、あくまでも“お試し”の恋人同士という事もあって、交際している事は周りには内緒。

 だから、菖蒲の発言には少し驚いたのだけど、周りから見ると、付き合う前と今とじゃどこか違って見えるらしい。

「それで、何だって?  一之瀬が私を見る目が違うって、どういう事?」
「うーん。上手く説明は出来ないんだけど……こう、どこか優しげっていうか、愛おしいものでも見るような?」
「何それ。そんなの菖蒲の勘違いだって。私と一之瀬は別に何でも無いし――」

 菖蒲の勘が鋭い事に内心焦りつつも、何にも無い事を強調してしながら言葉を続けていると、

「俺が、何だって?」

 後ろから聞き覚えのある声をが聞こてきて、振り返るとそこには一之瀬と後輩の水城みずきくんが立っていた。

「な、何でここに?」
「何でって、昼飯食いに来たんだよ。それより、ここ座っていい?」

 私と菖蒲は四人がけの席に座っていて、店内は混みあっている。要は相席したいという事らしい。

「どうぞどうぞ。ってか丁度いいところに来た!」

 何ともタイミングの悪い、この男。

 これでもかと言うくらいに憎しみを込めて睨み付けている私とは対照的に、菖蒲は嬉しそうに快諾した。

 そして、私たちは向い合って座っていたので当然隣の席が空いている訳なのだけど、一之瀬が何の躊躇いも無く私の隣に腰を下ろす光景を見ていた菖蒲はニヤニヤして私たちを交互に見つめながら、「ねぇ、二人って付き合ってるの?」という核心を突く一言を言い放った。

「菖蒲ってば!  だからそれは――」

 しかも、今度は私じゃなくて一之瀬へ質問をしているからタチが悪い。

 水城くんもいるし、これ以上は詮索されたくない私が横から否定しようとすると、

「そう見える?  けど残念。俺らはいつも通り、ただの仲良しな同僚だよ。な?  本條」

 意外にも一之瀬はきちんと否定してくれた。

「えー?  本当に?」

 一之瀬が否定をしても未だ納得していない菖蒲が再度彼に詰め寄ると、

「ま、俺的にはもっと深い仲になっても良いって思ってるけどな?」

 からかっているのか、ニヤリと笑みを浮かべながらそんな事を口にするものだから、

「え?  何々!?  一之瀬ってば陽葵の事好きな訳!?  えーいいじゃん!  陽葵彼氏と別れたんだし、変な男より余っ程良いって!  付き合っちゃいないよ~!」

 一之瀬の方が私に気のある事を知った菖蒲のテンションは更に上がって余計収拾がつかなくなっていた。

「ちょ、ちょっと、一之瀬……」
「何?」

 話が拗れた事を抗議しようと一之瀬の方へ視線を向けた私は彼と目が合った瞬間、言葉を続ける事が出来なくなった。

 それは何故か。

『俺は本気だって言ったろ』とでも言いたげな瞳で見つめられていたから。

「っていうか!  私と一之瀬の話はいいから!  ほら、水城くん話に入れてないし!  ね?」

 何とかして話題を変えようと思いふと斜め向かいに座る水城くんが目に入った私は彼を理由に話を逸らしてみるも、

「いえ、僕の事はお気になさらないでください。それよりも、一之瀬先輩と本條先輩が恋人同士じゃないのに普段から飲みに行ったりしている事に驚きです」

 寧ろ逆効果だったようで、話が逸れるどころか更に深掘りされる羽目になってしまうのだった。


「はぁ……今日は散々だった……」

 仕事終わり、営業で外回りの一之瀬を待つ事無く職場を後にした私は昼間の一件を思い出して溜め息を吐いた。

 あれから水城くんも加わって私と一之瀬の仲を問いただされたものの何とか『付き合ってない』と納得させる事が出来た。

 けれど、それならばさっさと付き合っちゃえと菖蒲が何かにつけて私と一之瀬をくっつけるように仕向けて来たので困ってしまう。
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