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Episode4
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「…………」
「亜夢、大丈夫?」
「……うん、平気……だけど……」
「納得、して無さそうだったね」
「そうだね……せっかく付き合って貰ったのに、ごめんね」
「亜夢が謝る事は無いよ」
「……でも……」
「何も気にしてないよ。まあ、お母さんの方はひとまず大丈夫そうだけど、妹の方にはとにかく気を付けよう。去り際のあの表情、絶対何かしてくるつもりだろうからね……」
「そう、だよね」
憎まれているのは分かっているから、睨まれるならあの時の感情的に納得がいくのに、あの笑いは何なのか、それが分からないから恐い。
私が何かされる分には仕方が無いと割り切れるけれど、もしも荒木田家の人々や百瀬くんに被害が及ぶ事になったらどうしようと、それが一番不安だった。
「百瀬様、よろしいでしょうか?」
外からノックが聞こえて来たと思ったら、百瀬くんを呼ぶ声も聞こえて来る。
「はい?」
その声を聞いた彼がドアまで向かい開けると、外に控えていた荒木田家の使用人の一人が何やら百瀬くんに耳打ちをする。
そして、
「亜夢、一旦荒木田家に行こう。例の書き込みをした人間を特定したらしいから」
百瀬くんのその言葉を聞いた私は息を呑んだ後で『分かった』と頷いた。
それから三十分程で荒木田家を到着した私たちは広間へと通されると、そこには義父と義祖父の二人が待っていた。
「話し合いはスムーズにいったのか?」
「いや、母親の方はすぐに感情的になって聞く耳を持たない感じだし、妹の方は途中から心ここに在らずで話を聞いてない感じだった」
「そうか……」
「すみません、わざわざ場所を用意してくださったりと手間を掛けて貰ったのに……」
「亜夢さんが謝る事はないよ。まあ、家族の事となるとやはり一度の話し合いで関係性を精算出来るものはないだろうからねぇ」
「……すみません」
「それで、例の書き込みの犯人は?」
話し合いの件は一旦終わりにしようと百瀬くんが横から割り込んで来て例の書き込みの犯人について二人に質問をすると、
「書き込みをしていたのは十代の男で、本人に確認したところネットで頼まれて、指定された場所にお金が置かれていたからそれを受け取った後で指示に従っただけだと言っているんだよ」
やっぱり書き込みをしたのは有紗では無かったようで、十代の全く知らない男の子だった。
「頼まれたって、誰に?」
「匿名でのやり取りだったから知らないの一点張りでな」
「そう……」
そして、それを指示した人物とのやり取りの履歴などは全て消去され、その端末自体も処分されてしまったとの事。
だけど私は、その指示した人が有紗なのでは無いかと思っていて、百瀬くんも同じ事を考えていたみたいだった。
書き込みをした男の子は未成年者という事や、金銭欲しさに行動しただけで私に恨みがあった訳でもなかった事、本人もまさかここまでの騒ぎになるとは思っていなかった事などからその後の対応などは示談という形を取る事になり、裏で指示していた人物の特定を進める事で話は落ち着いた。
そして、話し合いは上手くいかなかった事もあって暫くは道枝家の人間と接触しないよう気を付けるという話で纏まり、日付けが変わる前には自宅マンションへ帰って来れた。
それからシャワーを済ませ、ようやくひと息つけたのは日付が変わった後だった。
「……百瀬くん」
「ん?」
「本当にごめんなさい」
「どうしたの、急に」
寝る支度を整えた私たちは共にベッドへ入り、互い身体を寄せ合って横になっている中、私は申し訳なさから百瀬くんに謝罪する。
入籍を済ませ、本来であればもっと幸せに浸るべき日だったにも関わらず、話し合いの場では常に気を使わせただけではなく、母が食ってかかっていった事で嫌な思いも沢山させただろう。
それに加えて例の書き込みの件も解決には至らず、モヤモヤした気持ちだけを残している。
とにかく自分の家族のせいで迷惑をかけてばかりの状況に謝罪しても足りないくらいで、百瀬くんを前にすると、ついつい『ごめんなさい』という言葉が口から出てきてしまう。
「……私と一緒になったばかりに、百瀬くんや荒木田家の方には本当に迷惑しかかけてないから……」
「またそれ? 別に亜夢が謝る事じゃないでしょ? 何でもすぐに自分のせいだと思うところ、亜夢の悪い癖だよ」
「でも……」
「でもじゃない。亜夢は悪くない。謝らなくていい」
私が言葉を続けようとすると、いつになく強い口調の百瀬くんが私の身体をギュッと抱き締めながら言葉を遮ってくる。
「亜夢がそうやって謝る度、俺は不安だよ」
「え?」
「そうして常に自分が悪い、自分のせいだって思ってる亜夢は、俺に内緒で自分だけでこの状況を何とかしようとしそうだから、不安だよ」
「そ、そんな事は……」
「無いって言い切れる?」
「……うん」
「それじゃあ、俺の目を見て、無いって言ってよ」
「…………」
「ほらね、やっぱり。いい? 間違っても、自分一人で何とかしようとは思わないで。書き込みの件もまだ片付いてないし、妹は何をしてくるか分からない。そんな状況の中、一人で行動する事は絶対しないで。約束して?」
百瀬くんは、全てお見通しだったようで、私が一人で無茶な事をしないよう釘をさしてきた。
「亜夢、大丈夫?」
「……うん、平気……だけど……」
「納得、して無さそうだったね」
「そうだね……せっかく付き合って貰ったのに、ごめんね」
「亜夢が謝る事は無いよ」
「……でも……」
「何も気にしてないよ。まあ、お母さんの方はひとまず大丈夫そうだけど、妹の方にはとにかく気を付けよう。去り際のあの表情、絶対何かしてくるつもりだろうからね……」
「そう、だよね」
憎まれているのは分かっているから、睨まれるならあの時の感情的に納得がいくのに、あの笑いは何なのか、それが分からないから恐い。
私が何かされる分には仕方が無いと割り切れるけれど、もしも荒木田家の人々や百瀬くんに被害が及ぶ事になったらどうしようと、それが一番不安だった。
「百瀬様、よろしいでしょうか?」
外からノックが聞こえて来たと思ったら、百瀬くんを呼ぶ声も聞こえて来る。
「はい?」
その声を聞いた彼がドアまで向かい開けると、外に控えていた荒木田家の使用人の一人が何やら百瀬くんに耳打ちをする。
そして、
「亜夢、一旦荒木田家に行こう。例の書き込みをした人間を特定したらしいから」
百瀬くんのその言葉を聞いた私は息を呑んだ後で『分かった』と頷いた。
それから三十分程で荒木田家を到着した私たちは広間へと通されると、そこには義父と義祖父の二人が待っていた。
「話し合いはスムーズにいったのか?」
「いや、母親の方はすぐに感情的になって聞く耳を持たない感じだし、妹の方は途中から心ここに在らずで話を聞いてない感じだった」
「そうか……」
「すみません、わざわざ場所を用意してくださったりと手間を掛けて貰ったのに……」
「亜夢さんが謝る事はないよ。まあ、家族の事となるとやはり一度の話し合いで関係性を精算出来るものはないだろうからねぇ」
「……すみません」
「それで、例の書き込みの犯人は?」
話し合いの件は一旦終わりにしようと百瀬くんが横から割り込んで来て例の書き込みの犯人について二人に質問をすると、
「書き込みをしていたのは十代の男で、本人に確認したところネットで頼まれて、指定された場所にお金が置かれていたからそれを受け取った後で指示に従っただけだと言っているんだよ」
やっぱり書き込みをしたのは有紗では無かったようで、十代の全く知らない男の子だった。
「頼まれたって、誰に?」
「匿名でのやり取りだったから知らないの一点張りでな」
「そう……」
そして、それを指示した人物とのやり取りの履歴などは全て消去され、その端末自体も処分されてしまったとの事。
だけど私は、その指示した人が有紗なのでは無いかと思っていて、百瀬くんも同じ事を考えていたみたいだった。
書き込みをした男の子は未成年者という事や、金銭欲しさに行動しただけで私に恨みがあった訳でもなかった事、本人もまさかここまでの騒ぎになるとは思っていなかった事などからその後の対応などは示談という形を取る事になり、裏で指示していた人物の特定を進める事で話は落ち着いた。
そして、話し合いは上手くいかなかった事もあって暫くは道枝家の人間と接触しないよう気を付けるという話で纏まり、日付けが変わる前には自宅マンションへ帰って来れた。
それからシャワーを済ませ、ようやくひと息つけたのは日付が変わった後だった。
「……百瀬くん」
「ん?」
「本当にごめんなさい」
「どうしたの、急に」
寝る支度を整えた私たちは共にベッドへ入り、互い身体を寄せ合って横になっている中、私は申し訳なさから百瀬くんに謝罪する。
入籍を済ませ、本来であればもっと幸せに浸るべき日だったにも関わらず、話し合いの場では常に気を使わせただけではなく、母が食ってかかっていった事で嫌な思いも沢山させただろう。
それに加えて例の書き込みの件も解決には至らず、モヤモヤした気持ちだけを残している。
とにかく自分の家族のせいで迷惑をかけてばかりの状況に謝罪しても足りないくらいで、百瀬くんを前にすると、ついつい『ごめんなさい』という言葉が口から出てきてしまう。
「……私と一緒になったばかりに、百瀬くんや荒木田家の方には本当に迷惑しかかけてないから……」
「またそれ? 別に亜夢が謝る事じゃないでしょ? 何でもすぐに自分のせいだと思うところ、亜夢の悪い癖だよ」
「でも……」
「でもじゃない。亜夢は悪くない。謝らなくていい」
私が言葉を続けようとすると、いつになく強い口調の百瀬くんが私の身体をギュッと抱き締めながら言葉を遮ってくる。
「亜夢がそうやって謝る度、俺は不安だよ」
「え?」
「そうして常に自分が悪い、自分のせいだって思ってる亜夢は、俺に内緒で自分だけでこの状況を何とかしようとしそうだから、不安だよ」
「そ、そんな事は……」
「無いって言い切れる?」
「……うん」
「それじゃあ、俺の目を見て、無いって言ってよ」
「…………」
「ほらね、やっぱり。いい? 間違っても、自分一人で何とかしようとは思わないで。書き込みの件もまだ片付いてないし、妹は何をしてくるか分からない。そんな状況の中、一人で行動する事は絶対しないで。約束して?」
百瀬くんは、全てお見通しだったようで、私が一人で無茶な事をしないよう釘をさしてきた。
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