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Episode3
12
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(何なの? 意味が分からない……)
駅を目指してひたすら足を進めていくも、
「亜夢さん!」
「!」
店を出て追いかけてきた金森さんがすぐ近くまで迫って来て、
「待ってよ!」
「やっ……離してっ!」
あっという間に追いつかれた私は腕を掴まれてしまう。
「亜夢さん、酷いよ。まだ話終わってないのに」
「わ、私はもう話す事なんてありません! 離して――」
周りに人は居るものの、関わり合いになりたくないからなのか見て見ぬふりで通り過ぎて行く中、彼の手を振り解こうとした、その時、
「離せよ!」
金森さんじゃない誰かに身体を引き寄せられ、彼に掴まれていた腕も振り解かれた。
「何なんだよ、アンタ」
「百瀬、くん……」
「お前こそ何だよ? 俺は今、亜夢さんと話してるんだ! 関係無い奴は引っ込んでろよ」
突然現れた百瀬くんに嫌悪感を示しながら掴みかかろうとする金森さんだけど、彼以上に怒りを露わにした百瀬くんの気迫に押されたのか、
「……っ、亜夢さん、話の続きはまたの機会にするよ」
そう言い残し、逃げるように去って行った。
「……百瀬くん、どうして?」
「どうしてじゃないよ。何、アイツ」
「あの人は、有紗の、交際相手……」
「で? その交際相手が何で亜夢に迫ってるの?」
「それは……」
聞かれた事に答えようとするも、周りの人がチラチラとこちらに視線を向けてくると、「あれって、荒木田 百瀬じゃない?」と百瀬くんに気付いた人たちからの視線を鬱陶しく思った彼は、
「車で来てるから、送るよ」
私の手を引くと、車を停めてあるらしい駐車場へ向かって歩き出した。
数分程歩いた先の奥まった場所にあるコインパーキングに着き、車に乗るよう促された私は助手席に座る。
シートベルトに手を掛けると、運転席に座った百瀬くんにその手を掴まれた刹那、
「――ッん!」
いつになく荒々しいキスで唇を塞がれた。
「っん、……ッはぁ、……」
何度か口付けられた後、塞がれていた唇は解放される。
「……百瀬くん……?」
「何で、あんな奴と二人きりになったの?」
「え?」
「有紗の交際相手だかなんだかしらないけど、あんな奴と一緒に居るなよ。元は見合い相手だろ?」
「……ごめん、有紗の事で、相談があるって言われて……カフェで、話を聞いていたんだけど……相談は嘘で、彼は、その……私を……」
「何?」
「彼はまだ、私を好きだって……有紗も言ってたけど、二人の間には、恋愛感情なんてなくて、付き合ってるのは、互いの親の顔を立てる為だって……色々、混乱して……彼の事が怖くなって、慌てて店を出たけど……追いつかれて……」
私の浅はかな行動でまたも百瀬くんに心配をかけてしまった事、あの日以来、久々に会えた事、色んな感情が入り交じり涙が込み上げてきそうになっていると、
「――俺が偶然通りがからなかったらどうするつもりだったんだよ? 連絡してもずっと避けてる感じだったし、亜夢に嫌われたのかと思って不安だった……頼むから、妹とか、その相手にはもっと警戒心持ってよ……」
悲痛な表情を浮かべた百瀬くんの胸に引き寄せられ、痛いくらいに強く抱き締められた私は、彼の訴えかけるような言葉を聞きながら、涙を流した。
「……っご、め……ん、なさい……っ」
「いいよ、もう。とにかく、もう二度と、妹とも、アイツとも二人きりにならないで。人が居る居ないに関わらず」
「うん……」
「約束だからね?」
「うん、約束する……」
百瀬くんの温もりに包まれながら、安堵感で余計に涙が溢れてくる。
「もう泣かないでよ、亜夢」
「うん……ッ」
どうして百瀬くんがあの場に居たのか分からないけど、助けてくれて嬉しかった。
やっぱり私を幸せにしてくれるのは百瀬くんだけだと、改めて実感する。
(百瀬くんと離れたくない……別れるなんて、絶対に嫌だ……)
この先どうなるか分からない不安が再び押し寄せて、彼の温もりから離れたくなくて、ずっと言えなかった事を口にしてしまう。
「……百瀬くん、私……もうやだ……離れ離れは、嫌だよ……」
「……亜夢」
「我儘だって、困らせるって分かってるけど、傍に、居て欲しい……っ」
こんな風に泣きながら言うのは狡いって、それは分かってる。
だけどもう、言わずにはいられなかった。
私の言葉を聞いた百瀬くんは、ただ抱き締める腕に力を込めるだけで、何も言わない。
一分経っても、二分経っても、何も答えてくれない。
そんな彼に不安を覚えた私が、「百瀬くん?」と顔を上げて名前を呼び掛けると、
「……ごめん、今はまだ、どうしても駄目なんだ。俺も傍に居たいけど、駄目なんだ」
申し訳なさそうな顔をして、視線を逸らした百瀬くん。
分かってた、あんな事言ったって、彼を困らせるだけだと。
だから、言わないできたのに……。
「百瀬くん――」
いたたまれなくなった私はさっきの言葉を無かった事にしようと口を開くも、それは彼のスマホの着信音に遮られた。
「ごめん、ちょっと電話に出るね」
「うん……」
断りを入れた百瀬くんは車を降りて外で電話を始めた。
(……また、困らせちゃった……)
どうしていつも同じ過ちを繰り返すのか、自分が本当に嫌になる。
数分で電話を終えた百瀬くんが再び車に乗り込むと、
「ごめん、会社に行かなきゃいけなくなったから、急ぐね」
「あ、うん……ごめんね、忙しいのに」
急用が出来たらしい彼は忙しい中、私をマンションまで送ってくれた。
話が途中になってしまってどうしようかと考えていると別れ際、
「亜夢、あと少し、あと少しで全て片付くから、もう少しだけ、待ってて。それじゃ、またね」
「あ、百瀬くん――」
意味深な言葉を残し、帰って行ってしまったのだった。
駅を目指してひたすら足を進めていくも、
「亜夢さん!」
「!」
店を出て追いかけてきた金森さんがすぐ近くまで迫って来て、
「待ってよ!」
「やっ……離してっ!」
あっという間に追いつかれた私は腕を掴まれてしまう。
「亜夢さん、酷いよ。まだ話終わってないのに」
「わ、私はもう話す事なんてありません! 離して――」
周りに人は居るものの、関わり合いになりたくないからなのか見て見ぬふりで通り過ぎて行く中、彼の手を振り解こうとした、その時、
「離せよ!」
金森さんじゃない誰かに身体を引き寄せられ、彼に掴まれていた腕も振り解かれた。
「何なんだよ、アンタ」
「百瀬、くん……」
「お前こそ何だよ? 俺は今、亜夢さんと話してるんだ! 関係無い奴は引っ込んでろよ」
突然現れた百瀬くんに嫌悪感を示しながら掴みかかろうとする金森さんだけど、彼以上に怒りを露わにした百瀬くんの気迫に押されたのか、
「……っ、亜夢さん、話の続きはまたの機会にするよ」
そう言い残し、逃げるように去って行った。
「……百瀬くん、どうして?」
「どうしてじゃないよ。何、アイツ」
「あの人は、有紗の、交際相手……」
「で? その交際相手が何で亜夢に迫ってるの?」
「それは……」
聞かれた事に答えようとするも、周りの人がチラチラとこちらに視線を向けてくると、「あれって、荒木田 百瀬じゃない?」と百瀬くんに気付いた人たちからの視線を鬱陶しく思った彼は、
「車で来てるから、送るよ」
私の手を引くと、車を停めてあるらしい駐車場へ向かって歩き出した。
数分程歩いた先の奥まった場所にあるコインパーキングに着き、車に乗るよう促された私は助手席に座る。
シートベルトに手を掛けると、運転席に座った百瀬くんにその手を掴まれた刹那、
「――ッん!」
いつになく荒々しいキスで唇を塞がれた。
「っん、……ッはぁ、……」
何度か口付けられた後、塞がれていた唇は解放される。
「……百瀬くん……?」
「何で、あんな奴と二人きりになったの?」
「え?」
「有紗の交際相手だかなんだかしらないけど、あんな奴と一緒に居るなよ。元は見合い相手だろ?」
「……ごめん、有紗の事で、相談があるって言われて……カフェで、話を聞いていたんだけど……相談は嘘で、彼は、その……私を……」
「何?」
「彼はまだ、私を好きだって……有紗も言ってたけど、二人の間には、恋愛感情なんてなくて、付き合ってるのは、互いの親の顔を立てる為だって……色々、混乱して……彼の事が怖くなって、慌てて店を出たけど……追いつかれて……」
私の浅はかな行動でまたも百瀬くんに心配をかけてしまった事、あの日以来、久々に会えた事、色んな感情が入り交じり涙が込み上げてきそうになっていると、
「――俺が偶然通りがからなかったらどうするつもりだったんだよ? 連絡してもずっと避けてる感じだったし、亜夢に嫌われたのかと思って不安だった……頼むから、妹とか、その相手にはもっと警戒心持ってよ……」
悲痛な表情を浮かべた百瀬くんの胸に引き寄せられ、痛いくらいに強く抱き締められた私は、彼の訴えかけるような言葉を聞きながら、涙を流した。
「……っご、め……ん、なさい……っ」
「いいよ、もう。とにかく、もう二度と、妹とも、アイツとも二人きりにならないで。人が居る居ないに関わらず」
「うん……」
「約束だからね?」
「うん、約束する……」
百瀬くんの温もりに包まれながら、安堵感で余計に涙が溢れてくる。
「もう泣かないでよ、亜夢」
「うん……ッ」
どうして百瀬くんがあの場に居たのか分からないけど、助けてくれて嬉しかった。
やっぱり私を幸せにしてくれるのは百瀬くんだけだと、改めて実感する。
(百瀬くんと離れたくない……別れるなんて、絶対に嫌だ……)
この先どうなるか分からない不安が再び押し寄せて、彼の温もりから離れたくなくて、ずっと言えなかった事を口にしてしまう。
「……百瀬くん、私……もうやだ……離れ離れは、嫌だよ……」
「……亜夢」
「我儘だって、困らせるって分かってるけど、傍に、居て欲しい……っ」
こんな風に泣きながら言うのは狡いって、それは分かってる。
だけどもう、言わずにはいられなかった。
私の言葉を聞いた百瀬くんは、ただ抱き締める腕に力を込めるだけで、何も言わない。
一分経っても、二分経っても、何も答えてくれない。
そんな彼に不安を覚えた私が、「百瀬くん?」と顔を上げて名前を呼び掛けると、
「……ごめん、今はまだ、どうしても駄目なんだ。俺も傍に居たいけど、駄目なんだ」
申し訳なさそうな顔をして、視線を逸らした百瀬くん。
分かってた、あんな事言ったって、彼を困らせるだけだと。
だから、言わないできたのに……。
「百瀬くん――」
いたたまれなくなった私はさっきの言葉を無かった事にしようと口を開くも、それは彼のスマホの着信音に遮られた。
「ごめん、ちょっと電話に出るね」
「うん……」
断りを入れた百瀬くんは車を降りて外で電話を始めた。
(……また、困らせちゃった……)
どうしていつも同じ過ちを繰り返すのか、自分が本当に嫌になる。
数分で電話を終えた百瀬くんが再び車に乗り込むと、
「ごめん、会社に行かなきゃいけなくなったから、急ぐね」
「あ、うん……ごめんね、忙しいのに」
急用が出来たらしい彼は忙しい中、私をマンションまで送ってくれた。
話が途中になってしまってどうしようかと考えていると別れ際、
「亜夢、あと少し、あと少しで全て片付くから、もう少しだけ、待ってて。それじゃ、またね」
「あ、百瀬くん――」
意味深な言葉を残し、帰って行ってしまったのだった。
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