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Episode3
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それは職場の食堂で観たテレビのニュースでの事。
荒木田ホールディングス現社長が会長になり、息子である百瀬くんのお父さんが社長に就任、そして百瀬くんは社長補佐として正式に会社へ入る事が伝えられた。
大企業である荒木田ホールディングスのニュース。しかも、これまで百瀬くんは一切顔出しなどして来なかった事、芸能人に引けを取らない容姿を持つ彼にメディアは注目し、テレビや雑誌など様々なところで百瀬くんを見掛けるようになっていた。
(やっぱりあの視線は、荒木田家の人の監視だったんだ……彼は将来を期待されてる存在だもん、当然だよね……そんな人が、私と付き合ってて、本当にいいのかな?)
全国に彼の存在が知られていく中、私はどんどん自信を無くしていく。
だけど、それを彼に相談出来ないまま、心配させないよういつも通りの自分を演じてた。
「何か、凄い事になってるね?」
『そうなんだよ。じいちゃんが急に、使えるものはどんどん使え、会社を大きくする為にはメディアにも売り込めって言い出して、俺が犠牲になってるって訳』
「そっか……。でも、仕方ないよ、百瀬くん、カッコイイもん」
『亜夢にそう言われるのは嬉しいけど、他の人にそんな事思われても意味無いって。そのせいで休みも取材とか入って休めないし、本当に困る……』
「百瀬くん……無理、しないでね?」
『……亜夢に会いたい……』
「私も、百瀬くんに会いたいよ……けど、今は仕方ないよ。少し落ち着いたら、会えるといいな」
『ごめんね、本当に……』
「ううん、百瀬くんのせいじゃないんだから、謝らないで」
本当は会いたくて堪らない。今すぐにでも、会いに行きたい。
だけど、我儘を言って彼を困らせたくない、こうして連絡が取れるだけでも嬉しく思わなくちゃいけないと自身に言い聞かせ、聞き分けの良い振りをする。
淋しくて、メディアが彼について騒ぐ度に不安になる毎日。
そして、そんな私に追い打ちをかけるかのように、《荒木田 百瀬の婚約者》《婚約発表も時間の問題か》など、女性の存在を匂わせるような情報も出回った。
(百瀬くん……私、信じていいんだよね?)
彼の事は信じているけど、もしもご両親やお祖父さんが決めた婚約者が居たりしたら?
私と付き合っている事をよく思っていないから、引き離す為に彼の知らないところで話が進んでいたら?
そうしたら、いくら百瀬くんが私を好きでいてくれても、付き合い続ける事は無理なんじゃないのか?
そんな風に考えれば考える程落ち込んでいく日々の中、今まで大人しくしていた有紗が前に言っていたお見合い相手と共に現れた。
「久しぶりだね、お姉ちゃん」
「……有紗……」
金曜日の夜、二人は仕事終わりにデートをしていたのか、繁華街でバッタリ会ってしまった私たち。
「あ、こちらお姉ちゃんとお見合いする予定だった金森 勇気さんだよ」
「どうも、初めまして。金森です」
「あ、初めまして、あの、その節はすみません……母が勝手に話を受けたばっかりに……」
「いえ、気にしないでください。亜夢さんお綺麗な方ですから。御相手がいらっしゃるのも頷けますし、それに、元は亜夢さんとの縁談だったのに有紗さんが私なんかと見合いをしてくれて、有難く思ってるんですよ」
金森さんは黒髪ミディアムショートヘアで眼鏡を掛け、人当たりも良くて話に聞いていた通り温厚で心優しそうな人。
「ねぇお姉ちゃん、ご飯まだだったらどこか店で一緒に食べない? 勇気くんもね、お姉ちゃんと話したいって言ってたし。ね、勇気くん」
「あの、もし時間があるようでしたら、是非」
「あ……えっと……」
正直、私は話す事も無いし、有紗とは関わらないと百瀬くんと約束していたから断ろうと思ったけど、今回は二人きりじゃないし、金森さんに関しては母親が勝手に話を持って来たとは言え、元は私とお見合いをするつもりでいた人だ。ここで断るのは申し訳ないような気がして悩んでしまう。
「お姉ちゃん、良いでしょ? あ、彼氏に断りを入れるならそれでもいいよ? お姉ちゃんの彼氏、結構なヤキモチ妬きだもんね」
「そうなんですか?」
「い、いえ、そんな事は、無いんですけど……それじゃあちょっと、連絡だけ……」
もしもの時は連絡するように言われていた私は二人に断りを入れて百瀬くんに相談してみる事にした。
幸いにも、ちょうど移動している時だったようですぐに電話に出てくれた。
『――うーん、俺としては誘いには乗らずに断って欲しいけど、亜夢としては、やっぱり元は自分の見合い相手だった人だから、ここでも断るのは罪悪感があるんでしょ?』
「うん……」
『まあ二人きりじゃないし、人の多い店でなら、平気かもしれないね』
「そうだよね。それじゃあ少しだけ、話してくるね」
『でも、くれぐれも気をつけるんだよ?』
「うん、分かってる」
『俺もその場に行ければ良かったんだけど、まだ仕事が残ってるから……』
「ううん、平気だよ。それじゃあ、お仕事中にごめんね、またね」
結局、百瀬くんと相談した結果、有紗や金森さんと食事をする事になり、近くのファミレスへ入った。
荒木田ホールディングス現社長が会長になり、息子である百瀬くんのお父さんが社長に就任、そして百瀬くんは社長補佐として正式に会社へ入る事が伝えられた。
大企業である荒木田ホールディングスのニュース。しかも、これまで百瀬くんは一切顔出しなどして来なかった事、芸能人に引けを取らない容姿を持つ彼にメディアは注目し、テレビや雑誌など様々なところで百瀬くんを見掛けるようになっていた。
(やっぱりあの視線は、荒木田家の人の監視だったんだ……彼は将来を期待されてる存在だもん、当然だよね……そんな人が、私と付き合ってて、本当にいいのかな?)
全国に彼の存在が知られていく中、私はどんどん自信を無くしていく。
だけど、それを彼に相談出来ないまま、心配させないよういつも通りの自分を演じてた。
「何か、凄い事になってるね?」
『そうなんだよ。じいちゃんが急に、使えるものはどんどん使え、会社を大きくする為にはメディアにも売り込めって言い出して、俺が犠牲になってるって訳』
「そっか……。でも、仕方ないよ、百瀬くん、カッコイイもん」
『亜夢にそう言われるのは嬉しいけど、他の人にそんな事思われても意味無いって。そのせいで休みも取材とか入って休めないし、本当に困る……』
「百瀬くん……無理、しないでね?」
『……亜夢に会いたい……』
「私も、百瀬くんに会いたいよ……けど、今は仕方ないよ。少し落ち着いたら、会えるといいな」
『ごめんね、本当に……』
「ううん、百瀬くんのせいじゃないんだから、謝らないで」
本当は会いたくて堪らない。今すぐにでも、会いに行きたい。
だけど、我儘を言って彼を困らせたくない、こうして連絡が取れるだけでも嬉しく思わなくちゃいけないと自身に言い聞かせ、聞き分けの良い振りをする。
淋しくて、メディアが彼について騒ぐ度に不安になる毎日。
そして、そんな私に追い打ちをかけるかのように、《荒木田 百瀬の婚約者》《婚約発表も時間の問題か》など、女性の存在を匂わせるような情報も出回った。
(百瀬くん……私、信じていいんだよね?)
彼の事は信じているけど、もしもご両親やお祖父さんが決めた婚約者が居たりしたら?
私と付き合っている事をよく思っていないから、引き離す為に彼の知らないところで話が進んでいたら?
そうしたら、いくら百瀬くんが私を好きでいてくれても、付き合い続ける事は無理なんじゃないのか?
そんな風に考えれば考える程落ち込んでいく日々の中、今まで大人しくしていた有紗が前に言っていたお見合い相手と共に現れた。
「久しぶりだね、お姉ちゃん」
「……有紗……」
金曜日の夜、二人は仕事終わりにデートをしていたのか、繁華街でバッタリ会ってしまった私たち。
「あ、こちらお姉ちゃんとお見合いする予定だった金森 勇気さんだよ」
「どうも、初めまして。金森です」
「あ、初めまして、あの、その節はすみません……母が勝手に話を受けたばっかりに……」
「いえ、気にしないでください。亜夢さんお綺麗な方ですから。御相手がいらっしゃるのも頷けますし、それに、元は亜夢さんとの縁談だったのに有紗さんが私なんかと見合いをしてくれて、有難く思ってるんですよ」
金森さんは黒髪ミディアムショートヘアで眼鏡を掛け、人当たりも良くて話に聞いていた通り温厚で心優しそうな人。
「ねぇお姉ちゃん、ご飯まだだったらどこか店で一緒に食べない? 勇気くんもね、お姉ちゃんと話したいって言ってたし。ね、勇気くん」
「あの、もし時間があるようでしたら、是非」
「あ……えっと……」
正直、私は話す事も無いし、有紗とは関わらないと百瀬くんと約束していたから断ろうと思ったけど、今回は二人きりじゃないし、金森さんに関しては母親が勝手に話を持って来たとは言え、元は私とお見合いをするつもりでいた人だ。ここで断るのは申し訳ないような気がして悩んでしまう。
「お姉ちゃん、良いでしょ? あ、彼氏に断りを入れるならそれでもいいよ? お姉ちゃんの彼氏、結構なヤキモチ妬きだもんね」
「そうなんですか?」
「い、いえ、そんな事は、無いんですけど……それじゃあちょっと、連絡だけ……」
もしもの時は連絡するように言われていた私は二人に断りを入れて百瀬くんに相談してみる事にした。
幸いにも、ちょうど移動している時だったようですぐに電話に出てくれた。
『――うーん、俺としては誘いには乗らずに断って欲しいけど、亜夢としては、やっぱり元は自分の見合い相手だった人だから、ここでも断るのは罪悪感があるんでしょ?』
「うん……」
『まあ二人きりじゃないし、人の多い店でなら、平気かもしれないね』
「そうだよね。それじゃあ少しだけ、話してくるね」
『でも、くれぐれも気をつけるんだよ?』
「うん、分かってる」
『俺もその場に行ければ良かったんだけど、まだ仕事が残ってるから……』
「ううん、平気だよ。それじゃあ、お仕事中にごめんね、またね」
結局、百瀬くんと相談した結果、有紗や金森さんと食事をする事になり、近くのファミレスへ入った。
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