上 下
49 / 91
Episode3

7

しおりを挟む
 翌朝、起きて一番にスマホを見ると、百瀬くんからメッセージが届いていた。

《なかなか連絡出来なくてごめんね。もう寝ちゃったかな?  離れ離れは淋しいね。早くも亜夢に会いたくて堪らない》と書かれていたメッセージ。

 それだけで私は嬉しくなる。

 単純というか、なんというか。

《待ってたんだけど、一人は淋しくて早く寝ちゃった。朝起きて百瀬くんからのメッセージ見たら元気出たよ。でも、やっぱり会えないのは淋しいな。今日もお仕事頑張ってね》

 まだ寝てるだろうと思ったけれど、とにかく早く返信したかった私が返事を書いて送ると、それからすぐに百瀬くんから着信が掛かってくる。

「もしもし」
『おはよう、亜夢』
「おはよ、百瀬くん」
『朝一番に亜夢の声聞けて良かった』
「私も、嬉しい」
『亜夢も仕事、頑張ってね』
「うん」
『それから、分かってるとは思うけど、気をつけてね?』
「うん、分かってるよ。百瀬くんもね?」
『そうだね、お互い気をつけよう。それじゃ、また連絡するから』
「うん、またね」

 名残惜しいけれど、いつまでも話している訳にはいかず電話を切ろうとすると、

『――亜夢、ベッド横のチェストの一番下の引き出し、開けてみて』
「え?」

 何故かチェストの引き出しを開けるように言われ、不思議に思いながら言われた通りに開けてみると、

「これって?」

 そこにはラッピングされた小さい箱が置いてあって、

『開けてみて?』

 そう言われ、リボンを解いて箱を開けてみると、

「これ……」
『離れてる間、それ付けておいて?  お守り代わり。俺とお揃いだから』

 箱の中にはパズルのピースを型どったネックレスが入っていた。

 百瀬くんの言葉通りペア用みたいで、互いのピースを合わせると真ん中にハートが出来る仕組みのようだった。

「……百瀬くん……嬉しい……、ありがとう」

 嬉しかった。凄く嬉しくて涙が出そうになった。

 離れ離れは淋しいけれど、離れても尚、百瀬くんは私を喜ばせてくれる――その事実が、凄く嬉しい。

『それじゃあ、またね。大好きだよ、亜夢』
「うん、私も大好き」

 まだまだ声を聞いていたかったけれど、そろそろ準備をしないとならない私たちは電話を切った。

 電話を切ると一気に現実に引き戻されて淋しくなるけど手元にあるネックレスが、すぐに私を笑顔にしてくれる。

 これまでお揃いの物を持った事は無かったから、百瀬くんも同じ物を付けているのかと考えると近くに居るような気がして淋しい気持ちが少しだけ軽減されていた。

 ネックレスがあるおかげでいつも通りに一日を過ごす事が出来たものの、やっぱりマンションへ帰って来ると、彼が居ない事を思い知らされて淋しさが募ってくる。

 家事をしていても、ご飯を食べていても、テレビを観ていても、百瀬くんが居ないと全てが物足りなくて、つまらない。

 離れてみて分かったけど、私にはもう彼が居ないと駄目らしい。

(百瀬くんが居ない日常とか、もう考えられないよ)

 ここまで傍に居て欲しいと思える人に出逢えた事は幸せなんだと思う。

 お風呂に入り、寝る支度を整えた私はスマホを見るけど、やっぱり百瀬くんからの連絡は無い。

 せめて一日の初めと終わりくらいは彼の声を聞きたいと思うのは、我儘な事だろうか。

「……電話、したら迷惑かな」

 余裕があるなら彼の方からしてくれるはずだから、来ないところをみると、忙しいのだろう。

 だけど、やっぱり少しでも、一言でも良いから言葉を交わしたかった私は恐る恐る百瀬くんに電話を掛けてみると、数回のコール音の末に彼が電話に出た。

「あ、もしもし、百瀬くん?」
『うん、そうだけど……何かあった?』
「ううん、その……何かあった訳じゃ、ないんだけど……少しでもいいから、声、聞きたくて……」

 恥ずかしさを感じつつも素直な思いを口にしてみると、電話越しでも分かるくらいに彼は口角を上げたのが分かった。

『そっか、本当に可愛いなぁ、亜夢は。俺も声聞きたかったから嬉しいよ』
「……それなら、良かった」
『けどごめんね、今ちょっと立て込んでて……』
「あ、そうなんだね、ごめんね、忙しいのに……」
『いや、それは構わないよ。気にしないで』
「あの、それじゃあもう切るね、お休みなさい、百瀬くん――」

 やっぱり忙して連絡が出来ない事が分かった私はこれ以上迷惑にならないうちに切ろうとした、その時、

『百瀬くん』という彼を呼ぶ声が電話の向こうから聞こえてきたのだけど、その声の主は明らかに女性の声で、その声が聞こえて来た瞬間、百瀬くんは何だか焦っている気がした。

「そ、それじゃあまた連絡するよ、ごめんね、お休み亜夢」

 そして、電話は彼の方から切られてしまった。

「…………今の、誰、だったんだろ?」

 実家に帰っているのだから知り合いに会っている可能性だってあるし、親戚の人かもしれない。

 焦っているように思えたのだって、私が疑いの目を向けているからそう感じただけかもしれない。

“何があっても、俺を信じて”

 その言葉を思い出した私は彼とお揃いのネックレスをぎゅっと握り締めながら、不安を打ち消すように目を閉じて、百瀬くんの姿を思い浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

最高ランクの御曹司との甘い生活にすっかりハマってます

けいこ
恋愛
ホテルマンとして、大好きなあなたと毎日一緒に仕事が出来ることに幸せを感じていた。 あなたは、グレースホテル東京の総支配人。 今や、世界中に点在する最高級ホテルの創始者の孫。 つまりは、最高ランクの御曹司。 おまけに、容姿端麗、頭脳明晰。 総支配人と、同じホテルで働く地味で大人しめのコンシェルジュの私とは、明らかに身分違い。 私は、ただ、あなたを遠くから見つめているだけで良かったのに… それなのに、突然、あなたから頼まれた偽装結婚の相手役。 こんな私に、どうしてそんなことを? 『なぜ普通以下なんて自分をさげすむんだ。一花は…そんなに可愛いのに…』 そう言って、私を抱きしめるのはなぜ? 告白されたわけじゃないのに、気がづけば一緒に住むことになって… 仕事では見ることが出来ない、私だけに向けられるその笑顔と優しさ、そして、あなたの甘い囁きに、毎日胸がキュンキュンしてしまう。 親友からのキツイ言葉に深く傷ついたり、ホテルに長期滞在しているお客様や、同僚からのアプローチにも翻弄されて… 私、一体、この先どうなっていくのかな?

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

処理中です...