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Episode2
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「百瀬くん……ありがとう」
彼の言葉に少しだけ元気を取り戻した私だったけど、さっき有紗に名乗った時の百瀬くんの言葉を思い出す。
「そういえば百瀬くん、有紗に『荒木田』の姓を名乗って、良かったの? 職場でも、合コンの時でも別の姓を名乗ってたのに……」
「ああ、いいんだよ。あくまでも職場にはバレたく無いだけだから」
「そ、そっか」
彼は荒木田ホールディングスの跡取りだと知られたく無いが為に、職場では社長が知り合いという事もあって、お母さんの旧姓でもある『九條』の姓で生活をしているらしいのだけど、有紗には迷い無く荒木田と名乗っていた。
正直、有紗にも九條の姓を名乗っていた方が良かったと思う。
有紗のリサーチ力はダテじゃない。百瀬くんがイケメンなだけじゃなくて、良い家柄の人間だと知れば、更に接触して来る確率が上がってしまうから。
「亜夢」
「な、何?」
「眉間に皺、寄ってるよ?」
「あ、ご、ごめん……」
「謝る必要なんて無いけど、やっぱり不安?」
「……うん」
「そっか。でも、そういう時は一人で悩まない。俺に話す事。いい?」
「……うん」
「亜夢、何か美味しい物でも食べに行こっか?」
「え?」
「美味しい物でも食べて、嫌な事は忘れよう?」
「……うん、そうだね」
百瀬くんの気遣いは本当に有難い。
彼が居れば大丈夫、彼ならば、有紗がどんな手を使って近付いて来ても大丈夫。
そう思っていたけど、
私たちが思っていた以上に有紗は本気で、私から百瀬くんを奪おうと、あらゆる手段で彼や私に近付いて来る事になる。
有紗が百瀬くんの存在を認識してから暫く経った、とある休日の事。
「お姉ちゃん、荒木田さん!」
繁華街に買い物へ来ていた私と百瀬くんの元へ有紗は再び姿を現した。
「有紗……」
果たしてこれは偶然なのか、ついつい疑いの目を向けてしまう。
「二人とも、良かったらお茶しない? 私、荒木田さんとお姉ちゃんの馴れ初めとか聞きたいなぁ~」
しかも、私たちを探ろうとしている事が容易に想像出来て、当然の事ながらそんな誘いは断るつもりでいたのだけど……
「亜夢、ここはとりあえず相手に合わせた方がいいよ。断ったら、付いてきそうじゃない?」
という百瀬くんの言葉にも一理あると思った私は迷った末、
「……少しだけなら……」
少しだけ、有紗に付き合って三人でお茶をする事になった。
近くのカフェに入り、私と百瀬くんが並んで座り、百瀬くんの向かい側に有紗が座る。
注文を終えてから少しして、私と百瀬くんにはホットコーヒー、有紗にはチーズケーキとホットココアが運ばれて来た。
「それで、二人はどうやって出逢ったの?」
チーズケーキを一口食べた有紗は、早速私たちの事を探り始めた。
「俺の方が一目惚れで、声を掛けたのがきっかけだったんだ」
黙ったままの私に代わり、百瀬くんが有紗の質問に答えてくれる。
「へぇ~、そうなんだぁ? 一目惚れとか、すごーい!」
なんて返してるけど、有紗の心中は穏やかじゃないのは表情からよく分かる。
「そう言えば、荒木田さんっていくつなんですか?」
「俺? 俺は二十五だよ」
「え? 私と同い歳なんだなぁ? それじゃあ、百瀬くんって呼んでもいい? 私の事は有紗って呼んでくれて構わないし」
そして、百瀬くんが自分と同い歳だと分かると、一気に距離を詰めようとしてくる。
「別に好きに呼んでくれて構わないよ。けど俺、女の子を名前で呼ぶのは好きな子だけって決めてるから、キミの事は名前で呼べないんだ。ごめんね」
だけど、百瀬くんは一筋縄ではいかないようで、名前で呼ばれない事に些か苛立っているようだった。
「そっか。ううん、全然平気だよ。百瀬くんって一途なんだね! お姉ちゃんが羨ましいなぁ~」
それでもめげない有紗は、彼の情報を得ようとどんどん話を振っていく。
彼の言葉に少しだけ元気を取り戻した私だったけど、さっき有紗に名乗った時の百瀬くんの言葉を思い出す。
「そういえば百瀬くん、有紗に『荒木田』の姓を名乗って、良かったの? 職場でも、合コンの時でも別の姓を名乗ってたのに……」
「ああ、いいんだよ。あくまでも職場にはバレたく無いだけだから」
「そ、そっか」
彼は荒木田ホールディングスの跡取りだと知られたく無いが為に、職場では社長が知り合いという事もあって、お母さんの旧姓でもある『九條』の姓で生活をしているらしいのだけど、有紗には迷い無く荒木田と名乗っていた。
正直、有紗にも九條の姓を名乗っていた方が良かったと思う。
有紗のリサーチ力はダテじゃない。百瀬くんがイケメンなだけじゃなくて、良い家柄の人間だと知れば、更に接触して来る確率が上がってしまうから。
「亜夢」
「な、何?」
「眉間に皺、寄ってるよ?」
「あ、ご、ごめん……」
「謝る必要なんて無いけど、やっぱり不安?」
「……うん」
「そっか。でも、そういう時は一人で悩まない。俺に話す事。いい?」
「……うん」
「亜夢、何か美味しい物でも食べに行こっか?」
「え?」
「美味しい物でも食べて、嫌な事は忘れよう?」
「……うん、そうだね」
百瀬くんの気遣いは本当に有難い。
彼が居れば大丈夫、彼ならば、有紗がどんな手を使って近付いて来ても大丈夫。
そう思っていたけど、
私たちが思っていた以上に有紗は本気で、私から百瀬くんを奪おうと、あらゆる手段で彼や私に近付いて来る事になる。
有紗が百瀬くんの存在を認識してから暫く経った、とある休日の事。
「お姉ちゃん、荒木田さん!」
繁華街に買い物へ来ていた私と百瀬くんの元へ有紗は再び姿を現した。
「有紗……」
果たしてこれは偶然なのか、ついつい疑いの目を向けてしまう。
「二人とも、良かったらお茶しない? 私、荒木田さんとお姉ちゃんの馴れ初めとか聞きたいなぁ~」
しかも、私たちを探ろうとしている事が容易に想像出来て、当然の事ながらそんな誘いは断るつもりでいたのだけど……
「亜夢、ここはとりあえず相手に合わせた方がいいよ。断ったら、付いてきそうじゃない?」
という百瀬くんの言葉にも一理あると思った私は迷った末、
「……少しだけなら……」
少しだけ、有紗に付き合って三人でお茶をする事になった。
近くのカフェに入り、私と百瀬くんが並んで座り、百瀬くんの向かい側に有紗が座る。
注文を終えてから少しして、私と百瀬くんにはホットコーヒー、有紗にはチーズケーキとホットココアが運ばれて来た。
「それで、二人はどうやって出逢ったの?」
チーズケーキを一口食べた有紗は、早速私たちの事を探り始めた。
「俺の方が一目惚れで、声を掛けたのがきっかけだったんだ」
黙ったままの私に代わり、百瀬くんが有紗の質問に答えてくれる。
「へぇ~、そうなんだぁ? 一目惚れとか、すごーい!」
なんて返してるけど、有紗の心中は穏やかじゃないのは表情からよく分かる。
「そう言えば、荒木田さんっていくつなんですか?」
「俺? 俺は二十五だよ」
「え? 私と同い歳なんだなぁ? それじゃあ、百瀬くんって呼んでもいい? 私の事は有紗って呼んでくれて構わないし」
そして、百瀬くんが自分と同い歳だと分かると、一気に距離を詰めようとしてくる。
「別に好きに呼んでくれて構わないよ。けど俺、女の子を名前で呼ぶのは好きな子だけって決めてるから、キミの事は名前で呼べないんだ。ごめんね」
だけど、百瀬くんは一筋縄ではいかないようで、名前で呼ばれない事に些か苛立っているようだった。
「そっか。ううん、全然平気だよ。百瀬くんって一途なんだね! お姉ちゃんが羨ましいなぁ~」
それでもめげない有紗は、彼の情報を得ようとどんどん話を振っていく。
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