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Prologue
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「亜夢さん、次どうぞ」
暫くして、シャワーを終えた百瀬くんがリビングへと戻って来た。
上下グレーのスウェット姿の彼は、部屋着だというのに何だか様になっている。
「それじゃあ、お借りします……」
「あ、タオル出しておいたから使ってね」
「うん、ありがとう」
彼の厚意に甘え浴室に来た私はふと、洗面台の鏡に映った自分の姿に目をやった。
(っていうか、私、本当に良かったのかな?)
今更と言えばそれまでだけど、会ったばかりの異性の部屋に来たばかりか、すぐにシャワーを浴びようとしている無防備さに思わず頭を抱えたくなる。
(……まあ、仕方ないよね。百瀬くんの事、信用するしか無いし……)
泊まると決めた段階でこれは分かりきった事でもある。
人は見た目だけじゃ本質までは分からないけど、彼は悪い人には見えないし、本当に心配してくれているのが伝わってきたからついつい誘いに乗ってしまった訳で、今はもう百瀬くんを信用するしか無いのだ。
「……とりあえず、シャワー浴びてさっぱりしよう……」
今日は、仕事終わりの数時間の間に色々あり過ぎた。
考える事に疲れた私はシャワーを頭から浴びると、全てを洗い流すように目を閉じた。
シャワーを浴び終え、ドライヤーで髪を乾かした私がリビングへ戻ると、百瀬くんはお酒とおつまみを用意してくれていた。
「亜夢さん、レモンサワーでいい? 居酒屋でも飲みたいって言ってたよね?」
「あ、うん」
「つまみも、大したモノなかったけど……まあ、いいよね」
「全然! 寧ろ用意してくれてありがとう」
缶を開けてグラスに注ぎながら、百瀬くんは色々な事を気遣ってくれる。
泊めて貰うだけではなくて、お酒やおつまみまで用意して貰ってまさに至れり尽くせりな状態で何だか少し申し訳無い気分になったけど、彼のそういう気遣いや優しさが警戒心を解いているんだと思った。
二度目の乾杯をした私たちはお酒を飲みながらお互いの事を話し始め、仕事についての話になったのだけど、私はそこで驚く話を聞く事になった。
「え? 百瀬くんって、あの荒木田ホールディングスの関係者なの!?」
「関係者ってか、後継者。じいちゃんが社長で俺は孫。まあ、じいちゃんの後は親父が継ぐから、その後を俺が継ぐ事にはなるから、まだ先の話だけど」
「荒木田社長のお孫さんが、百瀬くん……?」
荒木田ホールディングスというのは、飲食業界では一、二を争う程の大企業で、食品メーカーで働く私は勿論知っているけど、そうでなくても名前を聞いた事が無い人はほぼいないと思う。
彼がその荒木田社長の孫だというのだから、驚かないはずが無い。
「それじゃあ、百瀬くんは当然そこの社員ってこと?」
「いや、俺は今、知り合いの会社でシステムエンジニアとしてシステム開発とかやってる。俺さ、昔からじいちゃんが社長ってだけで周りから羨ましがられて、どうせお前も会社継ぐから楽でいいよなとか言われてきて、そういうのが凄く嫌いでさ、コネとか七光りって言われたくないから、継ぐまでは好きな事やるって決めてんだ」
「そう、なんだ……」
普通なら将来を約束されている身だし、楽出来そうだと喜びそうなものだけど、それを嫌って自ら別の企業で働くなんて、しっかりと自分を持っている人なんだと思った。
「百瀬くんって、歳はいくつ?」
「二十五だよ」
「二十五!?」
驚いた。もう少し下かと思ってたら、私と二つしか変わらないのだから。
「亜夢さんは?」
「え? あ、ああ、私は二十七」
「何だ、二つしか違わなかったんだ? それじゃあさぁ――亜夢って、呼び捨てでも構わない?」
ソファーに隣同士で座っていた私たち。
自分が持っていたお酒入りのグラスをテーブルに置いた百瀬くんは次に私の手にあったグラスを取ってそれもテーブルに置くと、私の身体をソファーの背もたれに押し付け、上に跨る形で迫って来た。
暫くして、シャワーを終えた百瀬くんがリビングへと戻って来た。
上下グレーのスウェット姿の彼は、部屋着だというのに何だか様になっている。
「それじゃあ、お借りします……」
「あ、タオル出しておいたから使ってね」
「うん、ありがとう」
彼の厚意に甘え浴室に来た私はふと、洗面台の鏡に映った自分の姿に目をやった。
(っていうか、私、本当に良かったのかな?)
今更と言えばそれまでだけど、会ったばかりの異性の部屋に来たばかりか、すぐにシャワーを浴びようとしている無防備さに思わず頭を抱えたくなる。
(……まあ、仕方ないよね。百瀬くんの事、信用するしか無いし……)
泊まると決めた段階でこれは分かりきった事でもある。
人は見た目だけじゃ本質までは分からないけど、彼は悪い人には見えないし、本当に心配してくれているのが伝わってきたからついつい誘いに乗ってしまった訳で、今はもう百瀬くんを信用するしか無いのだ。
「……とりあえず、シャワー浴びてさっぱりしよう……」
今日は、仕事終わりの数時間の間に色々あり過ぎた。
考える事に疲れた私はシャワーを頭から浴びると、全てを洗い流すように目を閉じた。
シャワーを浴び終え、ドライヤーで髪を乾かした私がリビングへ戻ると、百瀬くんはお酒とおつまみを用意してくれていた。
「亜夢さん、レモンサワーでいい? 居酒屋でも飲みたいって言ってたよね?」
「あ、うん」
「つまみも、大したモノなかったけど……まあ、いいよね」
「全然! 寧ろ用意してくれてありがとう」
缶を開けてグラスに注ぎながら、百瀬くんは色々な事を気遣ってくれる。
泊めて貰うだけではなくて、お酒やおつまみまで用意して貰ってまさに至れり尽くせりな状態で何だか少し申し訳無い気分になったけど、彼のそういう気遣いや優しさが警戒心を解いているんだと思った。
二度目の乾杯をした私たちはお酒を飲みながらお互いの事を話し始め、仕事についての話になったのだけど、私はそこで驚く話を聞く事になった。
「え? 百瀬くんって、あの荒木田ホールディングスの関係者なの!?」
「関係者ってか、後継者。じいちゃんが社長で俺は孫。まあ、じいちゃんの後は親父が継ぐから、その後を俺が継ぐ事にはなるから、まだ先の話だけど」
「荒木田社長のお孫さんが、百瀬くん……?」
荒木田ホールディングスというのは、飲食業界では一、二を争う程の大企業で、食品メーカーで働く私は勿論知っているけど、そうでなくても名前を聞いた事が無い人はほぼいないと思う。
彼がその荒木田社長の孫だというのだから、驚かないはずが無い。
「それじゃあ、百瀬くんは当然そこの社員ってこと?」
「いや、俺は今、知り合いの会社でシステムエンジニアとしてシステム開発とかやってる。俺さ、昔からじいちゃんが社長ってだけで周りから羨ましがられて、どうせお前も会社継ぐから楽でいいよなとか言われてきて、そういうのが凄く嫌いでさ、コネとか七光りって言われたくないから、継ぐまでは好きな事やるって決めてんだ」
「そう、なんだ……」
普通なら将来を約束されている身だし、楽出来そうだと喜びそうなものだけど、それを嫌って自ら別の企業で働くなんて、しっかりと自分を持っている人なんだと思った。
「百瀬くんって、歳はいくつ?」
「二十五だよ」
「二十五!?」
驚いた。もう少し下かと思ってたら、私と二つしか変わらないのだから。
「亜夢さんは?」
「え? あ、ああ、私は二十七」
「何だ、二つしか違わなかったんだ? それじゃあさぁ――亜夢って、呼び捨てでも構わない?」
ソファーに隣同士で座っていた私たち。
自分が持っていたお酒入りのグラスをテーブルに置いた百瀬くんは次に私の手にあったグラスを取ってそれもテーブルに置くと、私の身体をソファーの背もたれに押し付け、上に跨る形で迫って来た。
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