48 / 65
11
2
しおりを挟む
何も答えない私に構わず、田所さんは話を続けていく。
「先日、竜之介様が帰宅される直前、何かを言い掛けていましたよね? あの時何を言おうとしていたのか、教えていただけますか?」
「……それは、その……」
私はあの日、田所さんから話を聞いてから、一人で悩んだ。
彼を想うなら、彼から離れるべきかもしれないと考えた。
だけど、
それはやっぱり違うんじゃないかと思い直した。
「……彼のご両親や田所さんの言う事は、勿論理解しているつもりです。私だって、彼の将来の負担にはなりたくないと思いますから」
「でしたら話は早いですね。この前お話した通り全ての保証は名雪家の方で致しますから、竜之介様の元を離れて頂けますね?」
私の言葉を聞いて、そう問い掛けてくる田所さん。
確かに今の流れからして、私は彼の元を離れる決意をしたかのような返しだったかもしれない。
だけど、それは違う。
私はあの日から一人でずっと考えた。
ただ、いくら考えても、
竜之介くんが傍に居ない未来は――見えなかった。
仮に、家柄の事でどうしても離れなくてはいけない日が来たとしても、
竜之介くん本人から別れを告げられれば、私はそれを受け入れる覚悟だって出来る。
でも、本人以外の人から言われて別れを選ぶのは、やっぱりおかしいと思うのだ。
だから、私が出した答えは――
「――申し訳ありませんが、それはお断りします。竜之介くん本人から言われるのなら受け入れるつもりでいますが、他の方から言われて離れる選択をする事は出来ません。ごめんなさい……」
本人以外に何を言われても、それに従う事は出来ないという回答だった。
「…………そうですか、亜子様のお気持ちは良く分かりました」
私の思いを分かってくれたらしく、この話は終わりを迎える……のかと思いきや、
「――ですが、これは亜子様の為でもあるのです。だから助言を申し上げたのですが、分かっていただけないようですね」
「……え?」
私の為だと言った田所さんはソファーから立ち上がると無言のままでこちらへ向かって来て――
「――私は貴方が傷付く姿を、見たくない。だから助言したのです。悪い事は言わないから、竜之介様から離れる選択をすべきだ」
背もたれに両手を付いた田所さんに上から見下ろされ、ソファーと彼に挟まれる形に追い込まれた私は突然の事態に言葉を発する事も動く事も出来ない。
「今だって、竜之介様は貴方という恋人がいるにも関わらず、親に逆らう事も出来ず、嘘を吐いて見合いをしているのですよ?」
「そ、……れは……」
「貴方に心配を掛けない為の嘘だとしても、一度嘘を吐けば、それを重ねるしか無くなります。それでも一緒に居られれば、貴方はそれで幸せですか?」
「…………」
「周りから祝福されない恋愛なんて、止めるべきだ――」
そして、田所さんは右手を背もたれから離すと私の顎を指で掬い、少しずつ顔を近づけて来た。
「先日、竜之介様が帰宅される直前、何かを言い掛けていましたよね? あの時何を言おうとしていたのか、教えていただけますか?」
「……それは、その……」
私はあの日、田所さんから話を聞いてから、一人で悩んだ。
彼を想うなら、彼から離れるべきかもしれないと考えた。
だけど、
それはやっぱり違うんじゃないかと思い直した。
「……彼のご両親や田所さんの言う事は、勿論理解しているつもりです。私だって、彼の将来の負担にはなりたくないと思いますから」
「でしたら話は早いですね。この前お話した通り全ての保証は名雪家の方で致しますから、竜之介様の元を離れて頂けますね?」
私の言葉を聞いて、そう問い掛けてくる田所さん。
確かに今の流れからして、私は彼の元を離れる決意をしたかのような返しだったかもしれない。
だけど、それは違う。
私はあの日から一人でずっと考えた。
ただ、いくら考えても、
竜之介くんが傍に居ない未来は――見えなかった。
仮に、家柄の事でどうしても離れなくてはいけない日が来たとしても、
竜之介くん本人から別れを告げられれば、私はそれを受け入れる覚悟だって出来る。
でも、本人以外の人から言われて別れを選ぶのは、やっぱりおかしいと思うのだ。
だから、私が出した答えは――
「――申し訳ありませんが、それはお断りします。竜之介くん本人から言われるのなら受け入れるつもりでいますが、他の方から言われて離れる選択をする事は出来ません。ごめんなさい……」
本人以外に何を言われても、それに従う事は出来ないという回答だった。
「…………そうですか、亜子様のお気持ちは良く分かりました」
私の思いを分かってくれたらしく、この話は終わりを迎える……のかと思いきや、
「――ですが、これは亜子様の為でもあるのです。だから助言を申し上げたのですが、分かっていただけないようですね」
「……え?」
私の為だと言った田所さんはソファーから立ち上がると無言のままでこちらへ向かって来て――
「――私は貴方が傷付く姿を、見たくない。だから助言したのです。悪い事は言わないから、竜之介様から離れる選択をすべきだ」
背もたれに両手を付いた田所さんに上から見下ろされ、ソファーと彼に挟まれる形に追い込まれた私は突然の事態に言葉を発する事も動く事も出来ない。
「今だって、竜之介様は貴方という恋人がいるにも関わらず、親に逆らう事も出来ず、嘘を吐いて見合いをしているのですよ?」
「そ、……れは……」
「貴方に心配を掛けない為の嘘だとしても、一度嘘を吐けば、それを重ねるしか無くなります。それでも一緒に居られれば、貴方はそれで幸せですか?」
「…………」
「周りから祝福されない恋愛なんて、止めるべきだ――」
そして、田所さんは右手を背もたれから離すと私の顎を指で掬い、少しずつ顔を近づけて来た。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる