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「はい、どうぞ」
「ありがとう」
キッチンでいつも通りハーブティーを淹れたカップを二つ手にした竜之介くんから一つ受け取ると、彼は私の座るソファーの横に腰を下ろす。
「少しはゆっくり出来た?」
「うん。お風呂にゆっくり入れたし、疲れも取れた気がする」
「それなら良かった」
ハーブティーを口にしながら時折会話を交わす私たち。
ふいに会話が途切れて無言になってしまうと、竜之介くんは持っていたカップを前にあるテーブルの上に置いたので、何となく私もそれに倣ってカップを置いた。
「――亜子さん、俺、考えたんだけど、このアパートから引越しするのはどうかな?」
「え?」
「念を押しはしたけど、ああいう粘着質な男は諦めも悪い。これ以上亜子さんや凜に危険が及ぶ事は絶対に避けたいんだよ」
「……そう出来るならそれが一番良いけど……現実問題、引越しする余裕は無くて……」
「それなんだけど、亜子さんさえ良ければ、一緒に暮らすのはどうだろう? 勿論、亜子さんと凜の部屋は用意する。同棲と言うよりはルームシェアに近い感じだと思えばいい。家賃や光熱費は提案した俺が負担するから、金銭面でも楽になると思う」
「そんなっ! そこまでしてもらう訳にはいかないよ!」
「俺がそうしたいんだ」
「でも……」
「亜子さんは、一緒に暮らすのは嫌?」
「……そういう訳じゃ、無いけど……」
突然の話に、私はどうしたらいいのか困惑する。
ルームシェアなんて今どきよくある話ではあるし、隣人同士で互いの部屋に行き来する事も増えていたし、何よりも頼りになる人と一緒に暮らせれば安心感は高まるけれど……
(……竜之介くんは、名雪財閥の息子なのよ……私なんかが近くに居たら、絶対駄目よ……)
彼が名家の息子だと知ってしまった今、前のように頼り切るのはいけない気がしてしまう。
いつまでも答える事が出来ずに黙ったままの私に竜之介くんは、
「亜子さん、もしかして、俺が名雪の息子って事を気にしてる?」
そう問い掛けてきた。
「……うん」
「だと思った。けど、そんな事は考えなくていいよ。名雪を継ぐのは兄貴だし、俺は次男だから結構自由が利く立場なんだ」
「それでも!」
「亜子さん、俺が聞きたいのは、そういう事じゃ無い。一緒に暮らすのが嫌なら、無理にとは言わない。だけど、俺の立場がどうとかそういう事で暮らせないって言うなら、それは聞けない。それを踏まえた上でもう一度聞くよ、俺と一緒に暮らすのはどう?」
「……私は……」
ここで、嘘でも『一緒に住むのは嫌』と答えれば済むはずなのに、どうしても、それが出来ない。
それは何故か――そんなの、決まってる。
私は彼に惚れているから。
いつも頼りになって、
ピンチには駆けつけてくれる彼に、
惹かれてしまっているから、
嘘でも『嫌』だなんて、言えなかった。
「ありがとう」
キッチンでいつも通りハーブティーを淹れたカップを二つ手にした竜之介くんから一つ受け取ると、彼は私の座るソファーの横に腰を下ろす。
「少しはゆっくり出来た?」
「うん。お風呂にゆっくり入れたし、疲れも取れた気がする」
「それなら良かった」
ハーブティーを口にしながら時折会話を交わす私たち。
ふいに会話が途切れて無言になってしまうと、竜之介くんは持っていたカップを前にあるテーブルの上に置いたので、何となく私もそれに倣ってカップを置いた。
「――亜子さん、俺、考えたんだけど、このアパートから引越しするのはどうかな?」
「え?」
「念を押しはしたけど、ああいう粘着質な男は諦めも悪い。これ以上亜子さんや凜に危険が及ぶ事は絶対に避けたいんだよ」
「……そう出来るならそれが一番良いけど……現実問題、引越しする余裕は無くて……」
「それなんだけど、亜子さんさえ良ければ、一緒に暮らすのはどうだろう? 勿論、亜子さんと凜の部屋は用意する。同棲と言うよりはルームシェアに近い感じだと思えばいい。家賃や光熱費は提案した俺が負担するから、金銭面でも楽になると思う」
「そんなっ! そこまでしてもらう訳にはいかないよ!」
「俺がそうしたいんだ」
「でも……」
「亜子さんは、一緒に暮らすのは嫌?」
「……そういう訳じゃ、無いけど……」
突然の話に、私はどうしたらいいのか困惑する。
ルームシェアなんて今どきよくある話ではあるし、隣人同士で互いの部屋に行き来する事も増えていたし、何よりも頼りになる人と一緒に暮らせれば安心感は高まるけれど……
(……竜之介くんは、名雪財閥の息子なのよ……私なんかが近くに居たら、絶対駄目よ……)
彼が名家の息子だと知ってしまった今、前のように頼り切るのはいけない気がしてしまう。
いつまでも答える事が出来ずに黙ったままの私に竜之介くんは、
「亜子さん、もしかして、俺が名雪の息子って事を気にしてる?」
そう問い掛けてきた。
「……うん」
「だと思った。けど、そんな事は考えなくていいよ。名雪を継ぐのは兄貴だし、俺は次男だから結構自由が利く立場なんだ」
「それでも!」
「亜子さん、俺が聞きたいのは、そういう事じゃ無い。一緒に暮らすのが嫌なら、無理にとは言わない。だけど、俺の立場がどうとかそういう事で暮らせないって言うなら、それは聞けない。それを踏まえた上でもう一度聞くよ、俺と一緒に暮らすのはどう?」
「……私は……」
ここで、嘘でも『一緒に住むのは嫌』と答えれば済むはずなのに、どうしても、それが出来ない。
それは何故か――そんなの、決まってる。
私は彼に惚れているから。
いつも頼りになって、
ピンチには駆けつけてくれる彼に、
惹かれてしまっているから、
嘘でも『嫌』だなんて、言えなかった。
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