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「――俺の本当の名前は名雪 竜之介。お前の働く名雪商事の社長、名雪 弦之介の息子だ」
「なっ!?」
竜之介くんの言葉に正人は言葉を失ったのか、その場に崩れ落ちる音が聞こえてくる。
「今すぐ彼女を解放しろ。そうすれば、監禁した事実については、親父に黙っておいてやる」
「な、んで……お前なんかの……」
「聞こえなかったか? 彼女を解放しろ。会社、クビになりたいのか?」
「――ッ! 勝手に連れてけよ!」
最早勝ち目は無いと悟った正人は竜之介くんにそう告げると、正人から鍵を受け取ったらしい彼が鍵を開けてドアが開くと、
「……竜之介……くん……」
「亜子さん……」
「竜之介くんっ!!」
視界に入った瞬間、彼が包み込むように優しく抱き締めてくれた事で、色々な感情が混ざり合っていた私は竜之介くんに縋りついて、子供のように泣き出してしまった。
「亜子さん、とりあえずここから出よう」
「……うん」
竜之介くんに支えられるように肩を抱かれた私が彼と共に部屋を出ようとすると、正人が何か言いたげにこちらを見て来る。
「……おい、約束守れよ?」
「約束? ああ、さっきも言った通り、監禁の事は黙っててやる。それと――これは破棄させてもらうから」
正人が竜之介くんに職場にはこの事を言わないよう再確認すると、彼は監禁については言わないと言いながら玄関の棚の上に置いてあった一枚の紙を手に取って回収し、
「――いいか? 次こんな真似をすれば、親父に言ってお前を即解雇してやるから、そのつもりでいろよ? 職を失いたくなけりゃ、二度と亜子さんや凜に関わらない事だな」
そんな捨て台詞を吐いて、私たちはマンションから出て行った。
そして、駐車場に停めてあった竜之介くんの車に乗り込むや否や、
「亜子さんごめん、守るって言ったくせに、こんな目に遭わせて。怖かったよな、本当にごめん」
再び私を抱き締めてくれる。
「そんな……竜之介くんのせいじゃないよ。私がいけなかったの……危機感が足りなかったから……」
「いや、例えどんな状況でも、やっぱり亜子さんを優先するべきだった。ごめん」
竜之介くんは何も悪くないのに、ひたすら『ごめん』を繰り返す。
謝らなければいけないのは、私の方なのに。
「……とりあえず、家に帰ろう。アパートで凜も待ってるから」
「凜は今、一人で?」
「いや、俺の知人に頼んで見てもらってる。信頼出来る奴だから安心して」
「そっか、ありがとう」
竜之介くんの身体が離れていく事に少しだけ寂しさを感じつつも、凜が待っている事を思うと早く帰りたい気持ちが勝り、私はシートベルトを締めた。
帰り道、竜之介くんがマンションに車での経緯を詳しく聞いた。
私が正人について行った後、案の定凜の迎えが無かった事を不思議に思った先生が竜之介くんに連絡をしてくれて私の身に何かが起きたと分かり、迎えに行った竜之介くんは知人に凜を頼むと、自身の父親の会社で正人が勤めている『名雪商事』に出向き、正人が午後から有給を取っている事を知って嫌な予感がした竜之介くんは父親に事情を話し、住所を聞いてマンションまでやって来たという。
来てくれた事は本当に嬉しかったけれど、それと同時に竜之介くんが大手企業でもある名雪商事の社長の息子だった事実には驚きしかなくて、身分の違う彼の手を煩わせてしまった事、迷惑をかけ続けてきた事を改めて申し訳なく思ってしまった。
(私、このまま竜之介くんに甘えていいの? 社長の息子の彼とは、明らかに住む世界が違うのに……)
きっと、竜之介くんにそれを問えば、『気にしないで』と言うに決まってる。
だからそれを聞く事は出来なかった。
「なっ!?」
竜之介くんの言葉に正人は言葉を失ったのか、その場に崩れ落ちる音が聞こえてくる。
「今すぐ彼女を解放しろ。そうすれば、監禁した事実については、親父に黙っておいてやる」
「な、んで……お前なんかの……」
「聞こえなかったか? 彼女を解放しろ。会社、クビになりたいのか?」
「――ッ! 勝手に連れてけよ!」
最早勝ち目は無いと悟った正人は竜之介くんにそう告げると、正人から鍵を受け取ったらしい彼が鍵を開けてドアが開くと、
「……竜之介……くん……」
「亜子さん……」
「竜之介くんっ!!」
視界に入った瞬間、彼が包み込むように優しく抱き締めてくれた事で、色々な感情が混ざり合っていた私は竜之介くんに縋りついて、子供のように泣き出してしまった。
「亜子さん、とりあえずここから出よう」
「……うん」
竜之介くんに支えられるように肩を抱かれた私が彼と共に部屋を出ようとすると、正人が何か言いたげにこちらを見て来る。
「……おい、約束守れよ?」
「約束? ああ、さっきも言った通り、監禁の事は黙っててやる。それと――これは破棄させてもらうから」
正人が竜之介くんに職場にはこの事を言わないよう再確認すると、彼は監禁については言わないと言いながら玄関の棚の上に置いてあった一枚の紙を手に取って回収し、
「――いいか? 次こんな真似をすれば、親父に言ってお前を即解雇してやるから、そのつもりでいろよ? 職を失いたくなけりゃ、二度と亜子さんや凜に関わらない事だな」
そんな捨て台詞を吐いて、私たちはマンションから出て行った。
そして、駐車場に停めてあった竜之介くんの車に乗り込むや否や、
「亜子さんごめん、守るって言ったくせに、こんな目に遭わせて。怖かったよな、本当にごめん」
再び私を抱き締めてくれる。
「そんな……竜之介くんのせいじゃないよ。私がいけなかったの……危機感が足りなかったから……」
「いや、例えどんな状況でも、やっぱり亜子さんを優先するべきだった。ごめん」
竜之介くんは何も悪くないのに、ひたすら『ごめん』を繰り返す。
謝らなければいけないのは、私の方なのに。
「……とりあえず、家に帰ろう。アパートで凜も待ってるから」
「凜は今、一人で?」
「いや、俺の知人に頼んで見てもらってる。信頼出来る奴だから安心して」
「そっか、ありがとう」
竜之介くんの身体が離れていく事に少しだけ寂しさを感じつつも、凜が待っている事を思うと早く帰りたい気持ちが勝り、私はシートベルトを締めた。
帰り道、竜之介くんがマンションに車での経緯を詳しく聞いた。
私が正人について行った後、案の定凜の迎えが無かった事を不思議に思った先生が竜之介くんに連絡をしてくれて私の身に何かが起きたと分かり、迎えに行った竜之介くんは知人に凜を頼むと、自身の父親の会社で正人が勤めている『名雪商事』に出向き、正人が午後から有給を取っている事を知って嫌な予感がした竜之介くんは父親に事情を話し、住所を聞いてマンションまでやって来たという。
来てくれた事は本当に嬉しかったけれど、それと同時に竜之介くんが大手企業でもある名雪商事の社長の息子だった事実には驚きしかなくて、身分の違う彼の手を煩わせてしまった事、迷惑をかけ続けてきた事を改めて申し訳なく思ってしまった。
(私、このまま竜之介くんに甘えていいの? 社長の息子の彼とは、明らかに住む世界が違うのに……)
きっと、竜之介くんにそれを問えば、『気にしないで』と言うに決まってる。
だからそれを聞く事は出来なかった。
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