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穏やかな日々が続いていた、ある日の事。
「亜子さん、実は今日、上司に同行して本社に行ったら、あの男が居たんだ」
「あの男……もしかして、正人の事?」
「ああ、アイツ、名雪商事で働いてるんだな」
「そうなの。しかも、会社の要になるシステム管理課の課長で仕事もそこそこ出来る方だって、よく自慢していたわ。もしかして、あの人、竜之介くんに何か言ったの?」
「ああ、俺の上司が席を外して二人きりになった時に、ちょっとね……」
私と正人の事で、竜之介くんの仕事にまで迷惑を掛けてしまう出来事が訪れてしまったのだ。
竜之介くんの話によると――
「……初めまして、鮫島 竜之介です」
「こちらこそ初めまして、岡部 正人です」
互いに顔見知りの二人は顔を合わせた瞬間、声を出し掛けたもののそこはグッとこらえ、あくまでも初対面を装って話を進めていき、竜之介くんの上司が席を外した瞬間、正人の方から話しかけてきたという。
「……アンタ、うちの子会社の人間だったんだな」
「……ああ」
「名刺見れば分かると思うけど、俺、システム管理課の課長な訳」
「だから、何?」
「お前はただの平社員、俺は本社のシステム管理課の課長。立場的に俺の方が上だし、上からも信頼されてる。お前のとこの会社はうちの社長の親戚がやってる会社だろ? 社員の不祥事が出たら、困るよな?」
「だから何だよ? それ、俺を脅してる訳? 別にやましい事が無いんだから何も恐れる事は無い。それとも何か? アンタはありもしない事をでっち上げて、俺を陥れようと?」
「流石、話が分かるな。そうだよ。やりようなんていくらでもあるって言ってんだ。いいか? 会社での立場が危うくなりたくなけりゃ、俺の邪魔すんな」
「それは、亜子さんの事を言ってる訳?」
「決まってんだろ? 次邪魔したら、お前を社会的に消してやるからな? よく肝に銘じておけ」
そして、私に近付く邪魔をするなと念を押して来たと言う。
まさか、竜之介くんが名雪商事の子会社の社員だったなんて知らなかったし、二人が会社で関わりを持ってしまうなんて思いもしなかっただけに、彼には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……竜之介くん、ごめんね。私のせいで……」
正人とのやり取りを聞いた私はただただ気落ちする。
「別に、亜子さんのせいじゃないよ」
「そんな事ない。私に関わらなければ、こんな事にはならなかったんだもん……」
「関わらなければなんて、そんな悲しい事言わないで」
「ごめんね……だけど、やっぱり辛いの、竜之介くんの仕事にまで支障をきたしてしまった事が……」
「そんなの、気にしてない。仕事の事は大丈夫。どうにでもなるから」
「…………」
「俺はね、亜子さんと凜の傍に居られて嬉しいんだ。それに、元はといえば俺の方から亜子さんとアイツの間に割って入ったんだよ?
ね? 亜子さんのせいじゃないでしょ?」
「それは……」
「本当はさ、この話を聞いたら絶対気にするだろうから話すか迷ったんだ。だけど、あの様子だとアイツ、近いうちにまた接触してくるだろうから、その対策を考える為に話しただけ。亜子さんのせいなんて事は1ミリも無いから落ち込む必要無いよ」
「竜之介くん……」
「とにかく、凜の迎えはこれまで通り一緒に行く。何かあった時は迷わず連絡する事。これは絶対守って」
「うん」
「大丈夫、必ず俺が守るから」
「ありがとう……竜之介くん」
彼が居てくれれば大丈夫、そう思っていたのだけど、時にはどうにもならない事もあるのだと思い知らされる出来事はこの話の二日後に起きた。
「亜子さん、実は今日、上司に同行して本社に行ったら、あの男が居たんだ」
「あの男……もしかして、正人の事?」
「ああ、アイツ、名雪商事で働いてるんだな」
「そうなの。しかも、会社の要になるシステム管理課の課長で仕事もそこそこ出来る方だって、よく自慢していたわ。もしかして、あの人、竜之介くんに何か言ったの?」
「ああ、俺の上司が席を外して二人きりになった時に、ちょっとね……」
私と正人の事で、竜之介くんの仕事にまで迷惑を掛けてしまう出来事が訪れてしまったのだ。
竜之介くんの話によると――
「……初めまして、鮫島 竜之介です」
「こちらこそ初めまして、岡部 正人です」
互いに顔見知りの二人は顔を合わせた瞬間、声を出し掛けたもののそこはグッとこらえ、あくまでも初対面を装って話を進めていき、竜之介くんの上司が席を外した瞬間、正人の方から話しかけてきたという。
「……アンタ、うちの子会社の人間だったんだな」
「……ああ」
「名刺見れば分かると思うけど、俺、システム管理課の課長な訳」
「だから、何?」
「お前はただの平社員、俺は本社のシステム管理課の課長。立場的に俺の方が上だし、上からも信頼されてる。お前のとこの会社はうちの社長の親戚がやってる会社だろ? 社員の不祥事が出たら、困るよな?」
「だから何だよ? それ、俺を脅してる訳? 別にやましい事が無いんだから何も恐れる事は無い。それとも何か? アンタはありもしない事をでっち上げて、俺を陥れようと?」
「流石、話が分かるな。そうだよ。やりようなんていくらでもあるって言ってんだ。いいか? 会社での立場が危うくなりたくなけりゃ、俺の邪魔すんな」
「それは、亜子さんの事を言ってる訳?」
「決まってんだろ? 次邪魔したら、お前を社会的に消してやるからな? よく肝に銘じておけ」
そして、私に近付く邪魔をするなと念を押して来たと言う。
まさか、竜之介くんが名雪商事の子会社の社員だったなんて知らなかったし、二人が会社で関わりを持ってしまうなんて思いもしなかっただけに、彼には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……竜之介くん、ごめんね。私のせいで……」
正人とのやり取りを聞いた私はただただ気落ちする。
「別に、亜子さんのせいじゃないよ」
「そんな事ない。私に関わらなければ、こんな事にはならなかったんだもん……」
「関わらなければなんて、そんな悲しい事言わないで」
「ごめんね……だけど、やっぱり辛いの、竜之介くんの仕事にまで支障をきたしてしまった事が……」
「そんなの、気にしてない。仕事の事は大丈夫。どうにでもなるから」
「…………」
「俺はね、亜子さんと凜の傍に居られて嬉しいんだ。それに、元はといえば俺の方から亜子さんとアイツの間に割って入ったんだよ?
ね? 亜子さんのせいじゃないでしょ?」
「それは……」
「本当はさ、この話を聞いたら絶対気にするだろうから話すか迷ったんだ。だけど、あの様子だとアイツ、近いうちにまた接触してくるだろうから、その対策を考える為に話しただけ。亜子さんのせいなんて事は1ミリも無いから落ち込む必要無いよ」
「竜之介くん……」
「とにかく、凜の迎えはこれまで通り一緒に行く。何かあった時は迷わず連絡する事。これは絶対守って」
「うん」
「大丈夫、必ず俺が守るから」
「ありがとう……竜之介くん」
彼が居てくれれば大丈夫、そう思っていたのだけど、時にはどうにもならない事もあるのだと思い知らされる出来事はこの話の二日後に起きた。
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