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「凜、ようやく眠ってくれて良かった。よっぽど怖かったんだろうな」
あれからアパートへ帰って来た私たち。
周辺に正人が潜んでいる気配も無い事から何かあれば呼んでくれと言われて部屋の前で鮫島さんと別れようとしたのだけど、公園での事が余程トラウマになってしまったのか鮫島さんから離れようとしない凜。
そんな凜が落ち着くまで鮫島さんは家で過ごす事になったのだけど、結局寝落ちするまで彼から離れる事は無く、気付けば時刻は午後九時を回っていた。
「すみません、こんな時間まで……」
「いや、それはいいけど。あの男、凜にも手を上げてたの?」
「……はい。それがきっかけで、別れを決意したんです。私だけなら耐えられたけど、りんに手を上げるなんて許せなくて……。別れてようやく凜も私も穏やかな暮らしが出来ていたのに……」
「……あのさ、八吹さん」
「はい?」
「アイツ、あの調子だとまた姿を見せると思うんだ」
「…………」
「正直、凜と二人で行動するのは危険だと思う」
「そうかもしれないけど……」
「そこで色々考えたんだけど、暫くは帰り、俺が八吹さんを迎えに行くよ。だから凜の迎え、一緒に行こう」
「え?」
「朝は人通りも多いし、アイツも仕事があるだろうからそうそう来ないだろうけど、帰りは今日みたいな事があるかもしれない。幸い俺の勤めてる会社は基本残業が無いから、大体決まった時間に行けると思うし、一緒に行くからって迎えの時間が遅くなる事も無いと思う」
「でも、そんな……。いくら遠慮するなと言われても、そこまでしてもらう訳には」
「八吹さん、さっきも言ったけど、何かあってからじゃ遅いんだよ。起きる前に対処しなきゃ意味が無い。強引かもしれないけどここは俺の意見を通させてもらう」
「…………」
「必ず、俺が八吹さんと凜を守るから。もうあんな目に遭わせないから」
ソファーに二人並んで座っていた私たちの間には少しだけ距離が出来ていたのだけど、私と凜を守ると言った彼のその言葉に頷いて良いのか黙ったまま俯いていた私の肩に彼の手が伸ばされ、
「悩む必要なんて無い。俺に任せてよ――亜子さん」
肩を抱き寄せられながら名前を呼ばれた私は、
「……ありがとう、よろしくお願いします」
彼の厚意を素直に受け入れ、『よろしく』と言いながら頷き、彼に身体を預けるように寄りかかった。
「ごめん、何か、馴れ馴れしく名前呼んじゃって……」
「……いえ、その……嫌じゃないので、大丈夫です」
「そっか、なら良かった。本当はさ、ずっと呼びたかったんだ、名前で。それでさ……その、出来たらで良いんだけど……亜子さんにも俺の事、名前で呼んで欲しい」
「え?」
「嫌かな?」
「ううん、そんな……嫌なんて事は無いよ。えっと……竜之介……さん?」
「うん、そう。けど、亜子さんの方が年上だから呼び捨てで構わないよ。それと、前々から思ってたけど、敬語もいらない」
「……でも」
「『でも』は言わない約束」
「……そう、だよね。分かった。ただ、いきなり呼び捨てはちょっと……。竜之介くん……でいいかな?」
「ん、それでいい」
名前を呼ばれ、満足そうな表情を浮かべた竜之介くんは何だか子供みたいで可愛く見える。
普段は大人びていて、ピンチになると助けてくれる竜之介くん。
だけどこういう可愛い一面もあったりして、そんな彼から私は何だか目が離せなくなる。
「それじゃあ俺はそろそろ帰るよ。明日、仕事終わりに迎えに行くから、一人で外へ出ないで、必ず店で待ってて」
「うん、分かった。ありがとう」
「それじゃあ、おやすみ、亜子さん」
「おやすみ、竜之介くん」
こうして明日から暫く、帰りは竜之介くんと一緒に行動する事に決まり、不安な気持ちが少しだけ拭われた私はぐっすり眠ってしまった凜を起こさないよう、一人で素早くお風呂に入り、一瞬目を覚ましかけた凜に寄り添いながら眠りに着いた。
あれからアパートへ帰って来た私たち。
周辺に正人が潜んでいる気配も無い事から何かあれば呼んでくれと言われて部屋の前で鮫島さんと別れようとしたのだけど、公園での事が余程トラウマになってしまったのか鮫島さんから離れようとしない凜。
そんな凜が落ち着くまで鮫島さんは家で過ごす事になったのだけど、結局寝落ちするまで彼から離れる事は無く、気付けば時刻は午後九時を回っていた。
「すみません、こんな時間まで……」
「いや、それはいいけど。あの男、凜にも手を上げてたの?」
「……はい。それがきっかけで、別れを決意したんです。私だけなら耐えられたけど、りんに手を上げるなんて許せなくて……。別れてようやく凜も私も穏やかな暮らしが出来ていたのに……」
「……あのさ、八吹さん」
「はい?」
「アイツ、あの調子だとまた姿を見せると思うんだ」
「…………」
「正直、凜と二人で行動するのは危険だと思う」
「そうかもしれないけど……」
「そこで色々考えたんだけど、暫くは帰り、俺が八吹さんを迎えに行くよ。だから凜の迎え、一緒に行こう」
「え?」
「朝は人通りも多いし、アイツも仕事があるだろうからそうそう来ないだろうけど、帰りは今日みたいな事があるかもしれない。幸い俺の勤めてる会社は基本残業が無いから、大体決まった時間に行けると思うし、一緒に行くからって迎えの時間が遅くなる事も無いと思う」
「でも、そんな……。いくら遠慮するなと言われても、そこまでしてもらう訳には」
「八吹さん、さっきも言ったけど、何かあってからじゃ遅いんだよ。起きる前に対処しなきゃ意味が無い。強引かもしれないけどここは俺の意見を通させてもらう」
「…………」
「必ず、俺が八吹さんと凜を守るから。もうあんな目に遭わせないから」
ソファーに二人並んで座っていた私たちの間には少しだけ距離が出来ていたのだけど、私と凜を守ると言った彼のその言葉に頷いて良いのか黙ったまま俯いていた私の肩に彼の手が伸ばされ、
「悩む必要なんて無い。俺に任せてよ――亜子さん」
肩を抱き寄せられながら名前を呼ばれた私は、
「……ありがとう、よろしくお願いします」
彼の厚意を素直に受け入れ、『よろしく』と言いながら頷き、彼に身体を預けるように寄りかかった。
「ごめん、何か、馴れ馴れしく名前呼んじゃって……」
「……いえ、その……嫌じゃないので、大丈夫です」
「そっか、なら良かった。本当はさ、ずっと呼びたかったんだ、名前で。それでさ……その、出来たらで良いんだけど……亜子さんにも俺の事、名前で呼んで欲しい」
「え?」
「嫌かな?」
「ううん、そんな……嫌なんて事は無いよ。えっと……竜之介……さん?」
「うん、そう。けど、亜子さんの方が年上だから呼び捨てで構わないよ。それと、前々から思ってたけど、敬語もいらない」
「……でも」
「『でも』は言わない約束」
「……そう、だよね。分かった。ただ、いきなり呼び捨てはちょっと……。竜之介くん……でいいかな?」
「ん、それでいい」
名前を呼ばれ、満足そうな表情を浮かべた竜之介くんは何だか子供みたいで可愛く見える。
普段は大人びていて、ピンチになると助けてくれる竜之介くん。
だけどこういう可愛い一面もあったりして、そんな彼から私は何だか目が離せなくなる。
「それじゃあ俺はそろそろ帰るよ。明日、仕事終わりに迎えに行くから、一人で外へ出ないで、必ず店で待ってて」
「うん、分かった。ありがとう」
「それじゃあ、おやすみ、亜子さん」
「おやすみ、竜之介くん」
こうして明日から暫く、帰りは竜之介くんと一緒に行動する事に決まり、不安な気持ちが少しだけ拭われた私はぐっすり眠ってしまった凜を起こさないよう、一人で素早くお風呂に入り、一瞬目を覚ましかけた凜に寄り添いながら眠りに着いた。
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