7 / 64
2
1
しおりを挟む
それからというもの、出勤前や帰宅途中に偶然顔を合わせる機会が増えていった私たち。
毎週ではないけど、休みの日には凜の希望を叶えようと出掛ける提案をしてくれたり、ただの隣人同士の関係というには足りないくらい、関わる機会が多くなっていた。
最近では正人も姿を見せないし、凜は毎日楽しそうだし、何だか全てが上手くいっているような気がしてこの平穏が続くといいのに、なんて思っていた矢先のある日の事――。
「鮫島さん!」
「八吹さん、どーも。幕の内弁当二つお願いします」
「あ、はい。幕の内弁当をお二つですね」
私の働いているお弁当屋に鮫島さんが、彼より一回りくらい年上の社員の人と一緒に訪れた。
「何だ、鮫島。この綺麗な人と知り合いなのかよ?」
「ええ、まあ」
「へえ? えっと、八吹さん? コイツ、イケメンっすよね」
「そ、そうですね」
「柏木さん、変な事言わないでくださいよ」
柏木さんと呼ばれた彼の先輩は私の胸に付いているネームプレートで名字を確認しながら問い掛けてきた。
「別に変な事は言ってないっしょ。つーかもしかして、八吹さんってコイツの彼女だったり?」
「そんな! 違いますよ! 私みたいなオバサン相手じゃ、鮫島さんに申し訳ないです」
「えー? 八吹さん、そんなに歳いってないでしょ?」
「いえ、私はそんなに若くないですから……」
「ちょっと、柏木さん!」
「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらいさぁ」
お客さんが彼ら二人だけという事もあって少しだけ彼らの会話に参加していた私は柏木さんの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
「幕の内弁当二つ、お待たせ致しました」
「ありがとう」
「八吹さん、またね~」
「柏木さんが色々とすみません。それじゃあ、また」
「いえ。あの、お仕事、頑張ってくださいね」
「八吹さんも、頑張って」
お弁当を渡し終えて店を出て行く彼らを見送っていると、
「亜子ちゃん、今の男の子、亜子ちゃんの良い人なの?」
店長の笠間 美子さんが厨房から顔を覗かせてそう聞いてくる。
「違うんです。その、彼は半年くらい前に越して来た同じアパートに住むお隣さんで、凜の事も可愛がってくれる優しい方なんです」
「あらそうなの? 凜くんの事も可愛がってくれるなんて、良い子じゃない」
「そうですよね。困ってる時には助けてくれて、とても助かってるんです。」
「そうなのね。そういえばあの子、一時期よく店の前通ってたわよね」
「え?」
「ああ、通るのはいつもお昼時で亜子ちゃんレジ忙しいから気付かないのね。あの鮫島くんって子、ここ暫く見てなかったけど、それ以前はよく店の前を通ってたのよ~。だからあの子は亜子ちゃんがここで働いてるの前から知ってるんじゃないかしらねぇ」
店長のその言葉に、私はただ驚くばかり。
(知らなかった。鮫島さんは私たちの隣の部屋に越して来る前から私の事、知ってたのかな?)
知っていたからどうという訳ではないけれど、それが何となく気になっていた。
そしてその日の夜、
「あ、おにーちゃん!」
「おー、凜。今帰りか?」
「うん!」
「八吹さん、昼間はどーも」
「こちらこそ」
帰るタイミングが被った私たちは階段下で顔を合わせた。
「ママー、ごはん、おにーちゃんもいっしょがいい!」
「え?」
「おにーちゃん、きょうね、ごはんハンバーグなんだよ! いっしょにたべよ!」
「いや、けどなぁ、いきなりは困るだろうし……」
「えー! ママ、ダメ?」
今日の夕飯は凜のリクエストでハンバーグを作る事になっているのだけど、多めに作って冷凍しておく予定なので材料はあるし、いきなり人数が増えても困る事はない。
それに、昼間の事が気になっていた私は鮫島さんと話がしたくて、
「その……鮫島さんさえ良ければ、是非」
彼さえ良ければ一緒にどうかと誘ってみると、
「本当に? それじゃあお言葉に甘えてご馳走になります」
爽やかな笑みを浮かべながら鮫島さんは夕飯の誘いを受けてくれた。
毎週ではないけど、休みの日には凜の希望を叶えようと出掛ける提案をしてくれたり、ただの隣人同士の関係というには足りないくらい、関わる機会が多くなっていた。
最近では正人も姿を見せないし、凜は毎日楽しそうだし、何だか全てが上手くいっているような気がしてこの平穏が続くといいのに、なんて思っていた矢先のある日の事――。
「鮫島さん!」
「八吹さん、どーも。幕の内弁当二つお願いします」
「あ、はい。幕の内弁当をお二つですね」
私の働いているお弁当屋に鮫島さんが、彼より一回りくらい年上の社員の人と一緒に訪れた。
「何だ、鮫島。この綺麗な人と知り合いなのかよ?」
「ええ、まあ」
「へえ? えっと、八吹さん? コイツ、イケメンっすよね」
「そ、そうですね」
「柏木さん、変な事言わないでくださいよ」
柏木さんと呼ばれた彼の先輩は私の胸に付いているネームプレートで名字を確認しながら問い掛けてきた。
「別に変な事は言ってないっしょ。つーかもしかして、八吹さんってコイツの彼女だったり?」
「そんな! 違いますよ! 私みたいなオバサン相手じゃ、鮫島さんに申し訳ないです」
「えー? 八吹さん、そんなに歳いってないでしょ?」
「いえ、私はそんなに若くないですから……」
「ちょっと、柏木さん!」
「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらいさぁ」
お客さんが彼ら二人だけという事もあって少しだけ彼らの会話に参加していた私は柏木さんの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
「幕の内弁当二つ、お待たせ致しました」
「ありがとう」
「八吹さん、またね~」
「柏木さんが色々とすみません。それじゃあ、また」
「いえ。あの、お仕事、頑張ってくださいね」
「八吹さんも、頑張って」
お弁当を渡し終えて店を出て行く彼らを見送っていると、
「亜子ちゃん、今の男の子、亜子ちゃんの良い人なの?」
店長の笠間 美子さんが厨房から顔を覗かせてそう聞いてくる。
「違うんです。その、彼は半年くらい前に越して来た同じアパートに住むお隣さんで、凜の事も可愛がってくれる優しい方なんです」
「あらそうなの? 凜くんの事も可愛がってくれるなんて、良い子じゃない」
「そうですよね。困ってる時には助けてくれて、とても助かってるんです。」
「そうなのね。そういえばあの子、一時期よく店の前通ってたわよね」
「え?」
「ああ、通るのはいつもお昼時で亜子ちゃんレジ忙しいから気付かないのね。あの鮫島くんって子、ここ暫く見てなかったけど、それ以前はよく店の前を通ってたのよ~。だからあの子は亜子ちゃんがここで働いてるの前から知ってるんじゃないかしらねぇ」
店長のその言葉に、私はただ驚くばかり。
(知らなかった。鮫島さんは私たちの隣の部屋に越して来る前から私の事、知ってたのかな?)
知っていたからどうという訳ではないけれど、それが何となく気になっていた。
そしてその日の夜、
「あ、おにーちゃん!」
「おー、凜。今帰りか?」
「うん!」
「八吹さん、昼間はどーも」
「こちらこそ」
帰るタイミングが被った私たちは階段下で顔を合わせた。
「ママー、ごはん、おにーちゃんもいっしょがいい!」
「え?」
「おにーちゃん、きょうね、ごはんハンバーグなんだよ! いっしょにたべよ!」
「いや、けどなぁ、いきなりは困るだろうし……」
「えー! ママ、ダメ?」
今日の夕飯は凜のリクエストでハンバーグを作る事になっているのだけど、多めに作って冷凍しておく予定なので材料はあるし、いきなり人数が増えても困る事はない。
それに、昼間の事が気になっていた私は鮫島さんと話がしたくて、
「その……鮫島さんさえ良ければ、是非」
彼さえ良ければ一緒にどうかと誘ってみると、
「本当に? それじゃあお言葉に甘えてご馳走になります」
爽やかな笑みを浮かべながら鮫島さんは夕飯の誘いを受けてくれた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる