6 / 65
1
6
しおりを挟む
「鮫島さん、本当にすみません、そんな事まで……」
「別にこれくらい良いよ。つーか、子供ってこういうのに憧れるモノなんだな」
「お友達がお父さんにして貰った話を羨ましがってて、私じゃ肩車出来ないので本当に助かりました、ありがとうございます」
「……お礼ばっかり言わなくていいよ、頼ってって言ったのは俺の方だし。今日は凜は勿論だけど八吹さんにも楽しんで貰いたくて誘ってるんだ。気遣いとか忘れてもっと楽な気持ちで楽しんでくれると俺としても誘った甲斐があるから、お礼言われるより嬉しい」
「……鮫島さん……」
彼のその発言に驚きと戸惑いが入り混じる。
そして、
それと同時に彼は何故ここまで私や凜の為に色々してくれるのか、それが不思議でならなかった。
「今日は本当にありがとうございました」
結局今日一日鮫島さんの厚意に甘えっ放しだった私と凜。
アパートに着くと、疲れて眠ってしまっていた凜を抱き抱えて荷物まで運んでくれた鮫島さんに深々と頭を下げてお礼を口にする。
「そんなに頭下げなくていいから。普段休みの日にこんな出歩く事もないから俺の方も新鮮で楽しめたし、八吹さんも凜も楽しめたならそれでいいよ」
「それは勿論楽しめましたし、寧ろ十分過ぎるくらいです」
部屋のドアの前までやって来た私は鍵を開けて扉を開き鮫島さんから凜を離そうとすると、急に目を覚ました凜は彼の服を掴み、
「おにーちゃんともっといっしょにいる!」
眠そうに目を擦りながら駄々をこねた。
「凜、今日は一日鮫島さんが一緒に居てくれたでしょ? 我儘言わないでママの方に来なさい」
「やーだ! おにーちゃんといっしょがいい!」
「凜!」
「うわぁーんっ」
余程鮫島さんの事を気に入ったのだろう。私が言っても聞かないどころか、凜は泣き出してしまったのだ。
こうなると手が付けられないので強引に引き離すしかないのだけど、服を掴む凜の力は意外と強く、あまり無理に引っ張ると彼の服が伸びてしまうかもしれない。
考えに考えた末――
「あの、鮫島さん、もし良かったら家に寄って行きませんか? 凜はまだ眠いだろうから少しすれば眠ると思うので、それまでお茶でもどうでしょうか?」
鮫島さんに部屋へ寄ってもらう事を提案すると、
「俺は全然構わないんで……それじゃあ少しお邪魔します」
快く頷いてくれた彼を急遽部屋へ招き入れ事になったのだ。
「おにーちゃん、これみて!」
けれど部屋へ入ると、予想に反して凜は目が冴えてしまったのかお気に入りの子供用図鑑を何冊か持って来て鮫島さんに見せ始めた。
「虫の図鑑か。これ見てるから凜は虫に詳しいんだな」
「うん! あとね、これもすき!」
「こっちは動物か。凜は物知りだな」
「ぼく、おぼえるのすき!」
「そうか、偉いな」
「えへへ」
鮫島さんに褒められた凜は満面の笑みを浮かべながら彼と色々な図鑑を見ていた。
そんな光景をキッチンから眺めていた私は、何だか微笑ましく思えた。
(鮫島さんって子供の扱い上手いよね……本当に、素敵な人。彼みたいな人が父親だと、凜もきっと幸せだろうなぁ……)
ふとそんな事を無意識に考えていた事に気付いた私は、
(って! 何馬鹿な事考えてるのよ、私ったら……。夢みたいな事言ってちゃ駄目よ、しっかりしなきゃ)
馬鹿な妄想を打ち消しながら沸かしたお湯で凜にはココア、鮫島さんと自分の分はコーヒーを淹れて二人の元へ運んで行く。
「鮫島さん、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「凜はココアね」
「わーい!」
二人の向かい側に腰を下ろした私は、相変わらず楽しそうに話をする凜に視線を向ける。
(凜、本当嬉しそう。今日は一日幸せそうな顔してたよね)
何よりも大切な凜。そんな凜が嬉しそうな顔をしているだけで、私は嬉しいし幸せな気持ちになれる。
「おにーちゃん、またこんど、どこかつれてってくれる?」
「こら凜! そんな事言わないのよ」
「だってぇ……」
「いつもは無理だけど、大丈夫な時は好きなとこ連れてってやるから考えとけよ、な?」
「ほんと!?」
「鮫島さんっ!」
「八吹さん、迷惑なら止めるけど、遠慮してるだけなら俺は止めない。どっち?」
「それは……迷惑、なんて事はないです……けど……」
「『けど』とか『でも』ってのも無し。言ったでしょ? 頼ってって。迷惑って言われるまでは、お節介でも凜と八吹さんに関わるから、そのつもりで」
分からない、全然分からない。
私や凜に親切にしてくれる鮫島さんの真意が。
凜に優しくて、凜も彼を気に入っている。
そんな彼に私も、
少し、ほんの少しだけ惹かれ始めていた。
「別にこれくらい良いよ。つーか、子供ってこういうのに憧れるモノなんだな」
「お友達がお父さんにして貰った話を羨ましがってて、私じゃ肩車出来ないので本当に助かりました、ありがとうございます」
「……お礼ばっかり言わなくていいよ、頼ってって言ったのは俺の方だし。今日は凜は勿論だけど八吹さんにも楽しんで貰いたくて誘ってるんだ。気遣いとか忘れてもっと楽な気持ちで楽しんでくれると俺としても誘った甲斐があるから、お礼言われるより嬉しい」
「……鮫島さん……」
彼のその発言に驚きと戸惑いが入り混じる。
そして、
それと同時に彼は何故ここまで私や凜の為に色々してくれるのか、それが不思議でならなかった。
「今日は本当にありがとうございました」
結局今日一日鮫島さんの厚意に甘えっ放しだった私と凜。
アパートに着くと、疲れて眠ってしまっていた凜を抱き抱えて荷物まで運んでくれた鮫島さんに深々と頭を下げてお礼を口にする。
「そんなに頭下げなくていいから。普段休みの日にこんな出歩く事もないから俺の方も新鮮で楽しめたし、八吹さんも凜も楽しめたならそれでいいよ」
「それは勿論楽しめましたし、寧ろ十分過ぎるくらいです」
部屋のドアの前までやって来た私は鍵を開けて扉を開き鮫島さんから凜を離そうとすると、急に目を覚ました凜は彼の服を掴み、
「おにーちゃんともっといっしょにいる!」
眠そうに目を擦りながら駄々をこねた。
「凜、今日は一日鮫島さんが一緒に居てくれたでしょ? 我儘言わないでママの方に来なさい」
「やーだ! おにーちゃんといっしょがいい!」
「凜!」
「うわぁーんっ」
余程鮫島さんの事を気に入ったのだろう。私が言っても聞かないどころか、凜は泣き出してしまったのだ。
こうなると手が付けられないので強引に引き離すしかないのだけど、服を掴む凜の力は意外と強く、あまり無理に引っ張ると彼の服が伸びてしまうかもしれない。
考えに考えた末――
「あの、鮫島さん、もし良かったら家に寄って行きませんか? 凜はまだ眠いだろうから少しすれば眠ると思うので、それまでお茶でもどうでしょうか?」
鮫島さんに部屋へ寄ってもらう事を提案すると、
「俺は全然構わないんで……それじゃあ少しお邪魔します」
快く頷いてくれた彼を急遽部屋へ招き入れ事になったのだ。
「おにーちゃん、これみて!」
けれど部屋へ入ると、予想に反して凜は目が冴えてしまったのかお気に入りの子供用図鑑を何冊か持って来て鮫島さんに見せ始めた。
「虫の図鑑か。これ見てるから凜は虫に詳しいんだな」
「うん! あとね、これもすき!」
「こっちは動物か。凜は物知りだな」
「ぼく、おぼえるのすき!」
「そうか、偉いな」
「えへへ」
鮫島さんに褒められた凜は満面の笑みを浮かべながら彼と色々な図鑑を見ていた。
そんな光景をキッチンから眺めていた私は、何だか微笑ましく思えた。
(鮫島さんって子供の扱い上手いよね……本当に、素敵な人。彼みたいな人が父親だと、凜もきっと幸せだろうなぁ……)
ふとそんな事を無意識に考えていた事に気付いた私は、
(って! 何馬鹿な事考えてるのよ、私ったら……。夢みたいな事言ってちゃ駄目よ、しっかりしなきゃ)
馬鹿な妄想を打ち消しながら沸かしたお湯で凜にはココア、鮫島さんと自分の分はコーヒーを淹れて二人の元へ運んで行く。
「鮫島さん、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「凜はココアね」
「わーい!」
二人の向かい側に腰を下ろした私は、相変わらず楽しそうに話をする凜に視線を向ける。
(凜、本当嬉しそう。今日は一日幸せそうな顔してたよね)
何よりも大切な凜。そんな凜が嬉しそうな顔をしているだけで、私は嬉しいし幸せな気持ちになれる。
「おにーちゃん、またこんど、どこかつれてってくれる?」
「こら凜! そんな事言わないのよ」
「だってぇ……」
「いつもは無理だけど、大丈夫な時は好きなとこ連れてってやるから考えとけよ、な?」
「ほんと!?」
「鮫島さんっ!」
「八吹さん、迷惑なら止めるけど、遠慮してるだけなら俺は止めない。どっち?」
「それは……迷惑、なんて事はないです……けど……」
「『けど』とか『でも』ってのも無し。言ったでしょ? 頼ってって。迷惑って言われるまでは、お節介でも凜と八吹さんに関わるから、そのつもりで」
分からない、全然分からない。
私や凜に親切にしてくれる鮫島さんの真意が。
凜に優しくて、凜も彼を気に入っている。
そんな彼に私も、
少し、ほんの少しだけ惹かれ始めていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる