頼れる年下御曹司からの溺愛~シングルマザーの私は独占欲の強い一途な彼に息子ごと愛されてます~

夏目萌(月嶋ゆのん)

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 鮫島  竜之介りゅうのすけさん。

 黒髪アップバングのカジュアルショートヘアで、背はそこまで高く無いけど程よい筋肉質の男らしい身体つきで、芸能人顔負けなスタイルと端正な顔立ち。

 大家さんの話によると、年齢は二十四歳と私より六つも年下の男の人だ。

 そんな彼とはあくまでも隣人という間柄。

 正人の事があるまでは挨拶くらいしかした事も無い。

 そんな彼が何故?

 いくら困っていると言えど、頼ってだなんて。

 確かに、男の人が助けてくれるなら心強い。

 私は両親と折り合いが悪くて実家に頼る事が出来ない上に、口下手人見知りで友人すら少なくて誰にも頼れない状況だったから。


「でも、私……」
「ママ?」

 目が覚めてしまったらしい凜が踏み台を使って玄関のドアを開けたようで、私と鮫島さんの元へ顔を出してくる。

「……そいつ、凜……だっけか?」
「あ、は、はい」
「アンタもそうだけど、子供に何かあったら困るんじゃねぇの?」
「それは、勿論……」
「あの男がきちんと諦めるまで、俺を頼ってよ。必ず助けになるから」
「でも……」
「ま、急にこんな事言われても戸惑うよな。ちょっと待ってて」

 なかなか首を縦に振らない私を見かねた鮫島さんは何かを思いついたようで一旦部屋へ戻って行き、

「これ、俺の番号。何か困った事があったら何時でも掛けてきて。今日みたいに部屋に俺が居る時は、直接声掛けてくれていいから。それじゃあな」

 自身の電話番号を書いたメモ用紙を私に手渡してくれると、それ以上何かを言ってくる事無く再び部屋へ戻って行った。

 こんな風に言われたのは初めてだったからだろうか。

 私の胸は、密かにときめいていた。


“俺を頼ってよ。必ず助けになるから”

 そう言って電話番号を教えてくれた鮫島さん。

 有難い申し出ではあったけれど、そう簡単には頼れない。

 幸いあの日以降正人は姿を見せなくなっていて、彼に助けて貰わなくても日常生活に支障は無い――そう思っていたのだけど……


「ママ、むしとりしたい!」
「え?  む、虫取り?」
「うん!  ケンタくんがね、パパとむしとりしたっていってた!  ぼくもやりたい!」
「虫取りか……うーん……」


 ここ最近、困った事に周りの友達の影響を受けた凜が色々な事に興味を持ち始めていて、私には出来ない要望もチラホラ出て来るようになっていた。

「ごめんね、ママ、虫あまり得意じゃないから……ちょっと無理かも」
「え―!?  やだぁ、むしとりしたい……」
「他の事じゃ駄目かな?  ほら、凜この前メダルゲームやりたいって言ってたよね?  今度のお休みの日にやりに行かない?  ね?」

 なるべくなら凜の希望を叶えてあげたいと思うものの当然私にも苦手な事や物がある訳で、過度な力仕事を要する事とか、虫とか、ホラーものなんかは特にNGだったりする。

 何とか虫取りから他に興味を移したい私は必死に凜がやりたいと言っていた事を挙げてはみたものの、

「やだぁ、むしとりたい!  いまはむしとりがいーの!」

 一歩も引かない凜は虫取り以外に興味を示さず、私が虫取りをすると言うまで待っているのか、アパートの階段下で動かなくなってしまう。

「凜、とりあえずお家に入ろ?」
「やだ」
「凜の好きなハンバーグ作ってあげるから。ね?」
「やーだ!  むしとりするっていうまでここにいる!」

 最早私が折れるしか無い状況に追い込まれていると、

「虫取り、俺が一緒に行ってやろうか?」

 丁度帰宅して来た鮫島さんがそう声を掛けてきてくれた。

「鮫島さん……そんなのいいです、申し訳ないですから……」

 有難いけど、流石に頼める訳も無くて断ろうとしているところに、

「おにーちゃん、むしとりしてくれるの?」
「ああ、いいぜ」
「ほんと!?  わーい!!」

 人見知りで普段は自分から大人に話し掛ける事なんてしない凜が、自ら話し掛けていて思わず驚いてしまう。

「す、すみません!  あの、本当に大丈夫ですから気にしないでください!」

 凜には悪いけど、やっぱりこんな事をお願いするのは忍びない私は無かった事にしようとするも、

「遠慮しなくていいよ。虫、苦手なんでしょ?  こういうのは男に任せとけばいいんだよ。凜だってせっかくその気になってんだし、遠慮するなよ」

 鮫島さんの言う通り、すっかりその気になっている凜を前にすると、とてもじゃないけど諦めさせるなんて無理で……

「……すみません、それじゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします」

 凜の為だと割り切った私は、今回だけ、鮫島さんに頼る事を決めた。
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