願って祈って結ばれて

mimi__222

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今日も聴こえる。
この透き通った綺麗な音色。

新校舎3階、オレンジ色に染まった太陽が照らす音楽室で、君はいつも何よりも綺麗で、どこか寂しい音色を響かせている。


どうしていつも寂しそうなの?
どうしていつもそんなに痛そうなの?

それなのに、そんな寂しくて痛い音でも君の音はすごく綺麗で、ずっと聴いていたい。


クラスも違う、部活も違う、話したことすらない。一方的に君をみてきただけだけど…


毎日、ここで大事そうにヴァイオリンを弾く君に、私はどうやら惚れてしまったようだよ。




「やっ!」

今日も今日とて、このオレンジ色に染まった音楽室でヴァイオリンを弾く君は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。


「おーい?大丈夫?驚かせちゃった?ごめんね、あたしってば急で…」

口を開いて、明らかに固まってしまっている君に、あたしは手をヒラヒラ振ってみせた。


「え、と。どーも。あの、いつからここに?」

「いつからって、多分君がさっきの曲を弾き始めた辺りからかな?」

君の問いに答えると、君はなんだか恥ずかしそうに頬を染めて、百面相し始めた。
それにしても、君をこんなに近くで見るのは初めてだけど、すごく綺麗な顔をしている。なんだか、ビスクドールと話しているよう。

「それって…さ、最初からだね。」

自分の演奏を聴かれたのが、そんなに恥ずかしかったのだろうか。君はバツの悪そうな顔をした。

「そうかも!あたし、君の弾く音が大好きでさ。いつも、この時間この音楽室でヴァイオリン弾いてるでしょう?すっごい上手!!あたし、音楽のこととかほんとに何もわからないけど、君のヴァイオリンはすごく好き!」

勢い余って、叫んでしまったけれど、俯きつつも嬉しそうな顔をした。

あぁ、君はそんなふうに笑うんだね。
花が咲いたような、春が訪れたようなふんわり柔らかい笑顔。

今日は良い日だな。君の笑う顔が見れた。

「ありがとう。というか、今までも聴いてくれていたんだね。その、ちょっと恥ずかしいけどそんなこと言われたの初めてで、嬉しいよ。」

あ。また花が咲いた。綺麗。

「君、同い歳かな。上履きの色が一緒だね。俺は、A組の瀬川夏澄せがわかすみ。君は?」

「あたしは、E組の桜河いつきおうかわいつき!ねえ、瀬川!あたし、瀬川のヴァイオリンすごく好きなの!これから、ここで弾いてるときは近くで聴いてもいい?」


あたしがそう言うと君は、またもや少しびっくりしたような顔をした。驚いた顔もすごく綺麗。海のように澄んだターコイズブルーの瞳はぱちぱちしている。

そんな風に考えていると、君はくすくすと笑った。

「あはは!桜河は面白いな。そもそも、俺がここで演奏していることすら、きっと知っている人なんていないのに。でも、嬉しいよ。俺、ヴァイオリンが好きなんだ。だから、そんなに褒めてもらえて嬉しい。俺なんかの演奏で良かったら、いつでも聴きに来て。」


綺麗。
君はなんて綺麗なんだろう。男の子に綺麗だなんて感情を持つのは少し違うのだろうが、君は綺麗という言葉がよく似合う。

「桜河?」

「っ!あ、ありがとう!じゃ、じゃあまた明日聴きに来るね!ちょっと今日はなんていうか、心がしんどいから帰るわ!!ありがとね、瀬川!」

「えっ…具合悪い?大丈夫?保健室きっと、今なら空いてるから連れて行こうか?」

「ううん!ほんと、気にしないで!ちょっといっぱいいっぱいなだけだから!今日はありがとう!さようなら!!!」


全速力で音楽室を出ると、そのまま廊下を駆け抜けて下駄箱に急ぐ。

今日は本当に良い日だな。
瀬川夏澄くんか。君にはすごく魅力がある。短時間話しただけでも、気付いてしまう。

あたしはやっぱり、君が好きなんだと思う。
今日初めて面と向かって話したけれど、わかってしまう。

君の笑った顔が好き。君の奏でる音が好き。君の話す声が好き。君に幸せになって欲しい。
きっと、あのまま瀬川の前にいてしまえば好きだと告げてしまって居ただろう。

瀬川のことが好き。瀬川のことが知りたい。君が、どうしていつもどこか寂しい音色を響かせているのかも。

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