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其の72
しおりを挟む「……ゆ、き、だ」
もうすぐ春だというのに。
この恐ろしい灰色の雲は、まだまだ雪を隠し持っているそうで。
チラチラが、パラパラと音を変えて私の上に降り注いできた。
睫毛に雪の結晶が乗る。
それでなくとも焦点が合わないのに。
最近の私は地に頬を貼り付けてばかりだ。
なんて無様な格好。
だけど、体が動かないの。
シンシン。
耳をすましてみると、雪は本当にそんな音を鳴らして落ちてくるのが分かる。
ああ、お迎えかしら。
こんな最期って。
私はフランダースの何とやらか。
「……痛い」
胃が。
ん……いや、これ胃じゃないや。
肺だ。肺が痛いんだ。
それに気付くと、ゆっくりと目を閉じた。
嫌だ。痛い。怖い。
とても怖い。
怖くて目を開けられない。
怖くて窒息してしまいそう。
病院、行きたくないな。
嫌だ。入院したくない。
いやだ。
いたい。
いたい。
いたい。
会いたい。
ボロボロと涙は溢れ、頬に落ちた雪を溶かした。
——ザシュ、ザシュ
誰かがみぞれの中を歩いてくる音がした。
薄っすら目を開けてみた。
曇ったレンズの向こうに
靴が見えた。
黒い革靴が、私の目の前で立ち止まった。
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