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意気揚々と宿から飛び出してきた私だったが、暗い森を歩いていると昂奮した気持ちが冷めてきていた。
静かで、私が歩く音しか聞こえない。
しかし時折聞こえる木々のざわめく音、風なのか魔物の遠吠えかわからない高く響く音に身体が震える。
この周辺の魔物は強い。
確実に私一人では勝てない。
この森を抜けて来たのだが、出てくる魔物は全てロビンや他の仲間が倒していたし私のやる事と言ったら後ろで邪魔にならないよう眺めていただけである。
深夜に一人でこの森に入ってしまってよかったのだろうか…、夜が明けたころに宿を出ていけばよかったのではないかと、思考がぐるぐる回る。
いや、ロビンから離れる事はずっと考えていた事だし。
夜に誰にも言わずに出て行こうと考えたのも、もし引き留められたら話が厄介になるだろうからこうしたのであって…。まあ、引き留められない可能性もあったのだが。
夜に物事を考えているとどうしてもネガティブな考えになってしまう。
風も強くなってきたのか木々の騒めきが一層大きく聞こえた。
ああ、こんな森早く抜けてしまおう。
少し小走りに歩き始めた矢先、道から少し離れた茂みが大きく揺れた。
ドッと、冷や汗が出た。
すぐさま腰に備えていた、銃を抜き茂みに標準を合せる。どうしよう、どうしよう。
逃げたって、ここ周辺に生息する魔物は足が速いものばかりだから追い付かれてしまう。
もしかして人間だとしても、こんな深夜にこの森を彷徨くなんてお世辞にも真人間とは言えないだろう。
でも逃げられる確率が少しでもあるのは人間である。
そんな、私の気持ちとは裏腹に茂みから現れたのは、四足の獣、ダイアウルフであった。
あ、だめだ死ぬ。
ダイアウルフは、その鋭い眼光を此方に向け低く唸る。
数は一匹、基本的に狩りは複数体で行う個体であるため私を狩りに来たわけではなかったとは思うのだが視線を逸らすそぶりがない所を見ると逃してはもらえないようだ。
此処から後ろを向いて逃げ出したって、背後を取られて喰われるだけだろう。
私が生きる為に選択できるのは銃を構える事だけだった。
低く唸るダイアウルフが飛び付いてきたのは一瞬だった、震える手を必死に押さえて引き金を引いたがその弾丸は呆気なく空を切る。
「あ〝あ!!」
ダイアウルフの鋭い歯が私の左腕を抉る。
ひどい痛みに呼吸が止まり、目の前がチカチカと点滅した。
嫌々ながらも噛まれた方の手を見ると左手に噛みつく獣。
まだ腕がもぎ取られていないのは、防具のお陰だろうがミシミシと音を立て今にでも壊れそうだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、痛い、怖い、私此処で死ぬの?やっぱり、なんもできないの?
恐怖から何も考えられない、助けて、誰でもいい、
「ァ…助けて…助けてよロビン…。」
言ってしまった。
ああみっともない、なんのために逃げてきたんだ。そして誰に助けを求めている?
頬を伝う涙もなにもかも、私がみっともなくて仕方ない。
ほら、助けを呼んでも来てくれないよ。
そもそも助けに来てくれるはずがないじゃない。
彼は私を何とも思っていないのよ。
私の左腕を噛むダイアウルフと目があった。
私…死にたくない。惨めでもいい。
私は右手に持っていた銃で思い切り、ダイアウルフの目を殴る。反撃されると思わなかったのか、驚いた拍子に噛む力が弱まった所で無理矢理腕を引き抜いた。
みちみち、と肉が引き裂かれる音と大量の血。
意識が飛びそうになるが此処で死ぬのなんて御免だ、
内頬を噛み必死に耐える。
今度こそ外さないようにと、ダイアウルフの眉間を狙い私は引き金に指をかけた。
発砲音と共に、甲高い獣の鳴き声が響く。
予期せぬ反撃を受けたダイアウルフは、勝機を見出せなかったのか更なる追撃を私に与える事なく足早に此処から逃亡した。
「…あ、」
私、生きている?
余りにも一瞬の出来事だったので夢のようにも感じたがじくじく痛む左腕が、現実である事を主張した。
今更になって足が震えだすが、胸に抱いたのは恐怖よりも生き残れた喜びだった。
私一人でも出来たんだ。
敵うはずのない存在に、勝ちとは言い難いものの立ち向かいそして此処に生きていることは私は自信を感じた。
そんな喜びから現実後引き戻すかのように、金属音が鳴る。
また魔物か、と焦るがその音の持ち主は村から城下町に来た際にロビンからもらったブレスレットだった。
ダイアウルフに噛まれた際にチェーンが外れてしまったのだろう。地面に落ちたブレスレットを拾おうと思い手を伸ばす。
いや、これを拾う必要が有るだろうか?
ロビンから貰った数少ないものだからと、肌身離さず持ち歩いていたがロビンから離れた今これを持っていく事に疑問を感じた。
やめよう、私は彼から離れると決めたのだから。彼から離れて環境が変化する事に対して少なからず恐怖はあったが今は大丈夫。もう自分自身を信じる事ができそうだ。
ダイアウルフが仲間を連れて此処にくるかもしれない、左手の血液の匂いで追われたら今度こそひとたまりもないだろう。
私は簡易的な応急処置を行い、足早にこの森の出口へと足を進めた。
静かで、私が歩く音しか聞こえない。
しかし時折聞こえる木々のざわめく音、風なのか魔物の遠吠えかわからない高く響く音に身体が震える。
この周辺の魔物は強い。
確実に私一人では勝てない。
この森を抜けて来たのだが、出てくる魔物は全てロビンや他の仲間が倒していたし私のやる事と言ったら後ろで邪魔にならないよう眺めていただけである。
深夜に一人でこの森に入ってしまってよかったのだろうか…、夜が明けたころに宿を出ていけばよかったのではないかと、思考がぐるぐる回る。
いや、ロビンから離れる事はずっと考えていた事だし。
夜に誰にも言わずに出て行こうと考えたのも、もし引き留められたら話が厄介になるだろうからこうしたのであって…。まあ、引き留められない可能性もあったのだが。
夜に物事を考えているとどうしてもネガティブな考えになってしまう。
風も強くなってきたのか木々の騒めきが一層大きく聞こえた。
ああ、こんな森早く抜けてしまおう。
少し小走りに歩き始めた矢先、道から少し離れた茂みが大きく揺れた。
ドッと、冷や汗が出た。
すぐさま腰に備えていた、銃を抜き茂みに標準を合せる。どうしよう、どうしよう。
逃げたって、ここ周辺に生息する魔物は足が速いものばかりだから追い付かれてしまう。
もしかして人間だとしても、こんな深夜にこの森を彷徨くなんてお世辞にも真人間とは言えないだろう。
でも逃げられる確率が少しでもあるのは人間である。
そんな、私の気持ちとは裏腹に茂みから現れたのは、四足の獣、ダイアウルフであった。
あ、だめだ死ぬ。
ダイアウルフは、その鋭い眼光を此方に向け低く唸る。
数は一匹、基本的に狩りは複数体で行う個体であるため私を狩りに来たわけではなかったとは思うのだが視線を逸らすそぶりがない所を見ると逃してはもらえないようだ。
此処から後ろを向いて逃げ出したって、背後を取られて喰われるだけだろう。
私が生きる為に選択できるのは銃を構える事だけだった。
低く唸るダイアウルフが飛び付いてきたのは一瞬だった、震える手を必死に押さえて引き金を引いたがその弾丸は呆気なく空を切る。
「あ〝あ!!」
ダイアウルフの鋭い歯が私の左腕を抉る。
ひどい痛みに呼吸が止まり、目の前がチカチカと点滅した。
嫌々ながらも噛まれた方の手を見ると左手に噛みつく獣。
まだ腕がもぎ取られていないのは、防具のお陰だろうがミシミシと音を立て今にでも壊れそうだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、痛い、怖い、私此処で死ぬの?やっぱり、なんもできないの?
恐怖から何も考えられない、助けて、誰でもいい、
「ァ…助けて…助けてよロビン…。」
言ってしまった。
ああみっともない、なんのために逃げてきたんだ。そして誰に助けを求めている?
頬を伝う涙もなにもかも、私がみっともなくて仕方ない。
ほら、助けを呼んでも来てくれないよ。
そもそも助けに来てくれるはずがないじゃない。
彼は私を何とも思っていないのよ。
私の左腕を噛むダイアウルフと目があった。
私…死にたくない。惨めでもいい。
私は右手に持っていた銃で思い切り、ダイアウルフの目を殴る。反撃されると思わなかったのか、驚いた拍子に噛む力が弱まった所で無理矢理腕を引き抜いた。
みちみち、と肉が引き裂かれる音と大量の血。
意識が飛びそうになるが此処で死ぬのなんて御免だ、
内頬を噛み必死に耐える。
今度こそ外さないようにと、ダイアウルフの眉間を狙い私は引き金に指をかけた。
発砲音と共に、甲高い獣の鳴き声が響く。
予期せぬ反撃を受けたダイアウルフは、勝機を見出せなかったのか更なる追撃を私に与える事なく足早に此処から逃亡した。
「…あ、」
私、生きている?
余りにも一瞬の出来事だったので夢のようにも感じたがじくじく痛む左腕が、現実である事を主張した。
今更になって足が震えだすが、胸に抱いたのは恐怖よりも生き残れた喜びだった。
私一人でも出来たんだ。
敵うはずのない存在に、勝ちとは言い難いものの立ち向かいそして此処に生きていることは私は自信を感じた。
そんな喜びから現実後引き戻すかのように、金属音が鳴る。
また魔物か、と焦るがその音の持ち主は村から城下町に来た際にロビンからもらったブレスレットだった。
ダイアウルフに噛まれた際にチェーンが外れてしまったのだろう。地面に落ちたブレスレットを拾おうと思い手を伸ばす。
いや、これを拾う必要が有るだろうか?
ロビンから貰った数少ないものだからと、肌身離さず持ち歩いていたがロビンから離れた今これを持っていく事に疑問を感じた。
やめよう、私は彼から離れると決めたのだから。彼から離れて環境が変化する事に対して少なからず恐怖はあったが今は大丈夫。もう自分自身を信じる事ができそうだ。
ダイアウルフが仲間を連れて此処にくるかもしれない、左手の血液の匂いで追われたら今度こそひとたまりもないだろう。
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