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本編
16 【日菜子視点】別れの予感
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唐突に、サトちゃんから暇を出された。
「ピヨ子、明日からこなくていいから」
私は我が耳を疑った。
だって5話のネームのOKが出て、締め切りも近づいてきて、仕事が佳境に入る頃だと気合を入れて来たのに。
サトちゃんにだってそんな余裕はないはず。
質を落とさずに、これから全ての原稿をこなすなんて、何日も寝ない日を覚悟しなければならない。それでも終わらないかもしれないのに。
「な……なんで?」
そう私は疑問を口にしたものの、思い当たる節が無い訳ではなかった。
数日前に、一河さんへの焼きもちをサトちゃんにぶつけてしまったこと。
それがサトちゃんの気に触ってしまったのかもしれない。
関係が気まずくならないよう努めて明るく接してきたつもりだったけど、今さらながらに私は後悔していた。
色恋沙汰を職場に持ち込むなんて、サトちゃんの性格から考えても、あり得ないことなのに。
私は自分の軽率な行いを心から悔いて、泣きそうな声でサトちゃんにすがる。
「サトちゃん……ご……ごめん。ごめんなさい。私、私……」
でも今さら、なんて言って謝ればいいのかわからなくて、私は狼狽した。
「いや」
サトちゃんは、怒っても悲しんでもいない。
私はぐるぐる考えを巡らせて、まさか、と思った。
サトちゃんと一河さんは、私が知らない間にまた付き合いだしていて、サトちゃんは一河さんをアシスタントに迎える気でなんじゃ……?
一河さんの画力なんて知らない。
でも、ずっとサトちゃんと同じ夢を志していたくらいだし、それなりに漫画が描ける人だと思う。
だから、私は用なしになっちゃったんじゃないの?
サトちゃんは、恋愛と仕事を混同したくないタイプだと思ってきたけど、私の方が絶対いい仕事すると思うけど……それでも一河さんだけは、サトちゃんにとって別格なのかもしれない……。
真っ青になって言葉を失う。
そんな私の心境を察したのかはわからないけど、サトちゃんは困った顔をして言った。
「急で悪い。でも、なんか。今はひとりで描きたいんだ」
サトちゃんの真意は測り知れない。
もっと具体的な理由が聞きたい。
「ひとり……だと。ものすごい過密スケジュールを覚悟しないといけないよ……サトちゃん」
だけどサトちゃんのことだから、ひとりだろうが何だろうが絶対にプライドをかけて描きあげるんだろう。
私としては、体に負担をかけるような、そんな強行をサトちゃんにして欲しくはないし、今まで二人三脚で仕上げてきた作品に、最後まで関わりたい願望は強い。
「大丈夫だから」
けれど、固く決意した表情のサトちゃんに、私はそれ以上何も言えなくなる。
私が停止寸前の頭の中で、ひとつだけハッキリと理解したのは。
私はサトちゃんにとっていらない存在になってしまったということだけだった。
「ピヨ子、明日からこなくていいから」
私は我が耳を疑った。
だって5話のネームのOKが出て、締め切りも近づいてきて、仕事が佳境に入る頃だと気合を入れて来たのに。
サトちゃんにだってそんな余裕はないはず。
質を落とさずに、これから全ての原稿をこなすなんて、何日も寝ない日を覚悟しなければならない。それでも終わらないかもしれないのに。
「な……なんで?」
そう私は疑問を口にしたものの、思い当たる節が無い訳ではなかった。
数日前に、一河さんへの焼きもちをサトちゃんにぶつけてしまったこと。
それがサトちゃんの気に触ってしまったのかもしれない。
関係が気まずくならないよう努めて明るく接してきたつもりだったけど、今さらながらに私は後悔していた。
色恋沙汰を職場に持ち込むなんて、サトちゃんの性格から考えても、あり得ないことなのに。
私は自分の軽率な行いを心から悔いて、泣きそうな声でサトちゃんにすがる。
「サトちゃん……ご……ごめん。ごめんなさい。私、私……」
でも今さら、なんて言って謝ればいいのかわからなくて、私は狼狽した。
「いや」
サトちゃんは、怒っても悲しんでもいない。
私はぐるぐる考えを巡らせて、まさか、と思った。
サトちゃんと一河さんは、私が知らない間にまた付き合いだしていて、サトちゃんは一河さんをアシスタントに迎える気でなんじゃ……?
一河さんの画力なんて知らない。
でも、ずっとサトちゃんと同じ夢を志していたくらいだし、それなりに漫画が描ける人だと思う。
だから、私は用なしになっちゃったんじゃないの?
サトちゃんは、恋愛と仕事を混同したくないタイプだと思ってきたけど、私の方が絶対いい仕事すると思うけど……それでも一河さんだけは、サトちゃんにとって別格なのかもしれない……。
真っ青になって言葉を失う。
そんな私の心境を察したのかはわからないけど、サトちゃんは困った顔をして言った。
「急で悪い。でも、なんか。今はひとりで描きたいんだ」
サトちゃんの真意は測り知れない。
もっと具体的な理由が聞きたい。
「ひとり……だと。ものすごい過密スケジュールを覚悟しないといけないよ……サトちゃん」
だけどサトちゃんのことだから、ひとりだろうが何だろうが絶対にプライドをかけて描きあげるんだろう。
私としては、体に負担をかけるような、そんな強行をサトちゃんにして欲しくはないし、今まで二人三脚で仕上げてきた作品に、最後まで関わりたい願望は強い。
「大丈夫だから」
けれど、固く決意した表情のサトちゃんに、私はそれ以上何も言えなくなる。
私が停止寸前の頭の中で、ひとつだけハッキリと理解したのは。
私はサトちゃんにとっていらない存在になってしまったということだけだった。
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