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本編
07 【日菜子視点】決着の先に待つもの
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『クルークっ……そんなんじゃぁ、ガシュレイには勝てないよっ』
蔦の文様に小さな宝石が一つ埋め込まれた柄からスラリと伸びる刃。
『剣は黙ってろ』
持ち主は不機嫌な顔で手元を見据える。
『黙ってなんかいらんないよぉぉ~! 私をカッコ悪い構えで戦わないで欲しいもんっ!!』
「ぷぷぷ」
クルークとフェイ(剣バージョン)のやり取りに、思わず笑ってしまう。
シリアスな話になっちゃうかなと思ったけど、フェイは苦難にも負けず明るく。
担当さんのテコ入れ通り、『黒翼士』は明るくテンポの良い漫画になっていた。
5話で終わりなんて残念だなぁ。
シャッと、小気味よい音が空間を裂き、指先が綺麗な弧を描いた。
目の前に広がるのは、まっさらな空に、荒廃した砂漠の大地。
空と地を分かつように対峙している二人の男。
剣を携え、向かい合う二人から伝わるのは、負けたくないという強い意志。
今、私とサトちゃんは『黒翼士』の3話目に取り組んでいる。
私は回を重ねるごとにクルークとシンクロして、原稿に向かう度にボロボロ泣いた。
ガシュレイに向かって放つフェイの切っ先は、クルークと一心同体になり、美しい弧を描く。
ガシュレイの剣にぶつかって儚い命を削っていく。
けれど読者には決してフェイの死を悟らせない、滑らかで美しい線にしたい。
クルークを守るという強い意志が生む、フェイの強さを感じる戦いが描きたかった。
3話目を描いている時が、一番サトちゃんへの愛を感じられて幸せだった。
こんな日が、ずっとずっと永遠に続けば良いなと思っていた。
「ピヨ子、次の回なんだけどな」
3話目も無事に仕上がり、ほっと一息ついた所で、サトちゃんが重く口を開いた。
「フェイが死ぬんだ」
「うん」
私は間を置かずに返事を返した。
サトちゃんは、私に非難されるのを覚悟していたのか、聞き分けのいい態度に驚き、一瞬言葉を詰まらせた。
「……戦いはフェイの体に負担をかけていたんだ」
「うん」
うん、知っていたよ。
「話の深刻さや、争いの虚しさや悲しさを伝えるには凄く解りやすい展開になると思うんだよな……で……」
「うん」
「ピヨ子にはあんまり嬉しくない展開だろうとは思うんだけどさ」
複雑な表情で話すサトちゃんに、私は笑顔を向けた。
「フェイはきっと命なんて最初から惜しくは無かったよ」
「え……?」
不思議そうな顔をするサトちゃんに、私はふふっと笑う。
それはフェイと私の女の子同士の秘密なのだ。
サトちゃんは引き出しから4話目のネームを取り出した。
もうできていたなんて知らなかった。
私が漫画を描くことに没頭している間も、色々な作業を平行してこなしていたんだろう。
スケジュールをきっちり守り、慎重に作業をしているサトちゃんらしい。
ネームをサトちゃんから受け取り、私は目を通し始める。
ガシュレイにとどめを刺したクルーク。
砂漠の砂に抱かれるように崩れ落ちるガシュレイ。
血にまみれた剣もまた、クルークの手から滑り落ち、砂に埋まる。
立っていることもままならないクルークに駆け寄るハルカ。
勝利の幸福も、達成感も、何も感じずに、吐き出すように泣き出したクルークをハルカは抱きしめる。
強い復讐心を失い、目の前に広がる荒廃の地にどうして良いかわからず佇む。
『何も無くなってしまった』とクルークは言い、咽び泣く。
『私はここにいる、ずっとこれからも傍にいるから』とハルカは言う。
クルークの足元で砂に埋まってゆく剣。
クルークを抱きしめる圧倒的で美しい存在感のハルカ。
その光景を想像した時、私の手は震えた。
蔦の文様に小さな宝石が一つ埋め込まれた柄からスラリと伸びる刃。
『剣は黙ってろ』
持ち主は不機嫌な顔で手元を見据える。
『黙ってなんかいらんないよぉぉ~! 私をカッコ悪い構えで戦わないで欲しいもんっ!!』
「ぷぷぷ」
クルークとフェイ(剣バージョン)のやり取りに、思わず笑ってしまう。
シリアスな話になっちゃうかなと思ったけど、フェイは苦難にも負けず明るく。
担当さんのテコ入れ通り、『黒翼士』は明るくテンポの良い漫画になっていた。
5話で終わりなんて残念だなぁ。
シャッと、小気味よい音が空間を裂き、指先が綺麗な弧を描いた。
目の前に広がるのは、まっさらな空に、荒廃した砂漠の大地。
空と地を分かつように対峙している二人の男。
剣を携え、向かい合う二人から伝わるのは、負けたくないという強い意志。
今、私とサトちゃんは『黒翼士』の3話目に取り組んでいる。
私は回を重ねるごとにクルークとシンクロして、原稿に向かう度にボロボロ泣いた。
ガシュレイに向かって放つフェイの切っ先は、クルークと一心同体になり、美しい弧を描く。
ガシュレイの剣にぶつかって儚い命を削っていく。
けれど読者には決してフェイの死を悟らせない、滑らかで美しい線にしたい。
クルークを守るという強い意志が生む、フェイの強さを感じる戦いが描きたかった。
3話目を描いている時が、一番サトちゃんへの愛を感じられて幸せだった。
こんな日が、ずっとずっと永遠に続けば良いなと思っていた。
「ピヨ子、次の回なんだけどな」
3話目も無事に仕上がり、ほっと一息ついた所で、サトちゃんが重く口を開いた。
「フェイが死ぬんだ」
「うん」
私は間を置かずに返事を返した。
サトちゃんは、私に非難されるのを覚悟していたのか、聞き分けのいい態度に驚き、一瞬言葉を詰まらせた。
「……戦いはフェイの体に負担をかけていたんだ」
「うん」
うん、知っていたよ。
「話の深刻さや、争いの虚しさや悲しさを伝えるには凄く解りやすい展開になると思うんだよな……で……」
「うん」
「ピヨ子にはあんまり嬉しくない展開だろうとは思うんだけどさ」
複雑な表情で話すサトちゃんに、私は笑顔を向けた。
「フェイはきっと命なんて最初から惜しくは無かったよ」
「え……?」
不思議そうな顔をするサトちゃんに、私はふふっと笑う。
それはフェイと私の女の子同士の秘密なのだ。
サトちゃんは引き出しから4話目のネームを取り出した。
もうできていたなんて知らなかった。
私が漫画を描くことに没頭している間も、色々な作業を平行してこなしていたんだろう。
スケジュールをきっちり守り、慎重に作業をしているサトちゃんらしい。
ネームをサトちゃんから受け取り、私は目を通し始める。
ガシュレイにとどめを刺したクルーク。
砂漠の砂に抱かれるように崩れ落ちるガシュレイ。
血にまみれた剣もまた、クルークの手から滑り落ち、砂に埋まる。
立っていることもままならないクルークに駆け寄るハルカ。
勝利の幸福も、達成感も、何も感じずに、吐き出すように泣き出したクルークをハルカは抱きしめる。
強い復讐心を失い、目の前に広がる荒廃の地にどうして良いかわからず佇む。
『何も無くなってしまった』とクルークは言い、咽び泣く。
『私はここにいる、ずっとこれからも傍にいるから』とハルカは言う。
クルークの足元で砂に埋まってゆく剣。
クルークを抱きしめる圧倒的で美しい存在感のハルカ。
その光景を想像した時、私の手は震えた。
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