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その後のおはなし
あなたと過ごす週末が好き・2(終)
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優しくて丁寧で大切にされていると感じるのは……髪を洗ってもらう時だけじゃ……なくて……。
雅の方を向けず、ひたすらカップの中をぐるぐるとかき回している私を見て、雅は言葉の含みをあらかた読みとったらしい。
腕の仕草で、ちょっと照れて頬をかいたのがなんとなくわかった。
「……うん」
雅の返事を聞いて、ぎゅっとまた胸が詰まる。
こんな質問でも、はぐらかしたり呆れたりせず、ちゃんと肯定してくれる雅が好き。
「……ベーグルもシャワーも、もちろん嬉しいんだけど……」
もごもごと先の言葉を口ごもる。
賛同は得られたけど、でもそれが今すぐにだとは思わなかったらしい。
雅はちょっと考えた後で「……え?」と言って、遠慮がちに私に訊いた。
「大丈夫、なの? 昨夜の美亜、すごく疲れてたじゃない? それなのに……その……結構…………」
雅は先の言葉を濁したけれど、何を言いたいのかは大体わかる。
「……私は平気。雅は大変だったかもしれないけど、私は受け身で動いてないから……っ」
言っておきながら、改めて呆れた。
「私って……怠慢……?」
もうちょっと何かしらの努力をしろよ、と自分ツッコミ入れたくなる私をよそに、雅は「うーん……」と唸って、少し頬を赤くしながら視線を天上に移した。
「…………そんなことは……ないと思うよ……」
「……え……?」
「……いつものは無自覚……なの……?」
「えっ? いつものって……? 何?」
「…………えっと」
「教えてよ!」
「いや、大丈夫。結構、動いてくれてるよ……って」
「な……何が……」
手? 腕とか?
確かに無意識に雅の背に回したりはしてる気が……。
「腰」
「わああああああああああ」
間髪入れずに返ってきた答えに、思わず卒倒しそうになる。
雅はそれ以上何も言わず、赤い顔のまま気まずそうにコーヒーを口に運んだ。
えっ……なっ……何それ、本当に?
知らなかった。
いつも必死すぎて、自分がどこをどうしてるとか……考えたこともなかった。
私は……自分が思うよりずっと淫乱だったりするのだろうか?
ひょっとして今も、朝から盛ってるな~……って呆れられてる!?
恥……かし……。
恥ずか死ぬ。死んでしまう。
俯き、間を保たせるためにとりあえず私もコーヒーをすすったものの、恥ずかしくて顔が上げられない。
無言の間が辛くて、ちらっと横目で雅を見れば、口元を手で押さえながら必死に笑いをこらえていた。
「ち、ちょっ……! 何笑ってるの!」
「や、笑ってない。笑ってない。美亜、可愛いなぁって。誘ってくれたのが嬉しいから、なんか頬が緩んじゃって」
「……くうぅっ……」
呆れられてはいないみたいだけど、相変わらず雅の方が余裕がある気がして悔しい。
「で? 結局するの!? しないの!? わ、私はもうそんなこと聞いちゃった手前、恥ずかしいし、しなくてもいいんだけど!!」
私が半ば喧嘩腰になっていても、雅は嬉しそうにおっとり笑った。
「しようよ。どうするのなんて、そんなの訊くまでもないでしょ? 俺は今もずっと、美亜がコーヒーを飲み終わるのを待ってるんだけど」
顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
バカなこと言うんじゃなかった。
コーヒーの味なんてもう分かるわけが無い。
再び雅が私の隣に腰かける。
髪を撫でられていた時よりもずっと近い距離で、動けば体がぶつかりそうだった。
首をすくめて縮こまりながら、やっとの思いでマグカップに口をつける。
「そんなにちょっとずつ飲まなくても……そろそろコーヒー冷めたんじゃない?」
「……飲み終わるのを待ってるなんて言われて……慌てて飲んだら、なんかガツガツしてるみたいじゃない……」
「そう? それなら、こっちも相応に応えるよ」
至って真面目に答えてくる雅に、顔の温度がどこまでも上がる。
そんな雅にも、ちょっと興味あるかも……て、そうじゃなくて!
「いやいやいや。私から誘っておいてなんだけどね。これでも緊張してるの! 口から心臓が飛び出そうで、胸がいっぱいで……。な、なかなか上手く飲めなくて……」
ぶるぶると手が震えて、マグカップのコーヒーには波紋ができている。
そんな私を雅はポカンとしながら眺め、フッと息を吐きながら笑った。
「もう無理して飲まなくていいのに……」
「嫌だよ、せっかく雅が煎れてくれたのに!」
「……律儀だなぁ」
会話はそこで途切れて、暫くの間、お互い無言になる。
雅は私とは対照的で、穏やかに微笑みを浮かべて待っている。
緊張していると言った私に気を使ってくれているのかもしれないけど、体が触れる距離に座ったのに、それ以上のちょっかいは出してこない。
散々ドキドキすることを言う癖に、潔く引く所は引いて、上手に私との歩幅を合わせてくる。
優しい。
でももどかしい。
我が儘だってわかってるし、この距離感が私を夢中にさせるのかもしれないけど……。
私は少しずつコーヒーを飲み進めて、やっぱり胸が苦しくなって、息を深く吐きながら頭を雅にもたれかけた。
「ねぇ…………」
自分でもびっくりするくらい甘い、猫のような声が出た。
先の言葉を何も考えていなかったから、頭の中が真っ白になる。
内心慌てふためく私をよそに、雅は溜息をついて「急かすつもりはなかったけど……」と前置きした。
「随分と……翻弄してくれるよね……?」
「……ち、ちが……。そんなんじゃ……」
「余裕のあるフリはもう終わり。飲ませてあげようか?」
雅は私からマグカップを受け取って、ひと口分を口に含む。
顔を近づけられて反射的に目を瞑ると、雅はそれを肯定と受け取った。
ベッドが軋む度、シーツにシャツにコーヒーをこぼしてしまわないかと冷や冷やしたけど、雅はそんなことどうでもよさそうだった。
最後のひと口を飲み込んだのは、私だったか雅だったのかも曖昧で、不覚にも興奮させられていたのは……きっと、そう。カフェインのせい。
ちなみに腰については。
意固地に無反応を決め込んでやろうと思っていたけど、無駄な努力で終わった。
雅の方を向けず、ひたすらカップの中をぐるぐるとかき回している私を見て、雅は言葉の含みをあらかた読みとったらしい。
腕の仕草で、ちょっと照れて頬をかいたのがなんとなくわかった。
「……うん」
雅の返事を聞いて、ぎゅっとまた胸が詰まる。
こんな質問でも、はぐらかしたり呆れたりせず、ちゃんと肯定してくれる雅が好き。
「……ベーグルもシャワーも、もちろん嬉しいんだけど……」
もごもごと先の言葉を口ごもる。
賛同は得られたけど、でもそれが今すぐにだとは思わなかったらしい。
雅はちょっと考えた後で「……え?」と言って、遠慮がちに私に訊いた。
「大丈夫、なの? 昨夜の美亜、すごく疲れてたじゃない? それなのに……その……結構…………」
雅は先の言葉を濁したけれど、何を言いたいのかは大体わかる。
「……私は平気。雅は大変だったかもしれないけど、私は受け身で動いてないから……っ」
言っておきながら、改めて呆れた。
「私って……怠慢……?」
もうちょっと何かしらの努力をしろよ、と自分ツッコミ入れたくなる私をよそに、雅は「うーん……」と唸って、少し頬を赤くしながら視線を天上に移した。
「…………そんなことは……ないと思うよ……」
「……え……?」
「……いつものは無自覚……なの……?」
「えっ? いつものって……? 何?」
「…………えっと」
「教えてよ!」
「いや、大丈夫。結構、動いてくれてるよ……って」
「な……何が……」
手? 腕とか?
確かに無意識に雅の背に回したりはしてる気が……。
「腰」
「わああああああああああ」
間髪入れずに返ってきた答えに、思わず卒倒しそうになる。
雅はそれ以上何も言わず、赤い顔のまま気まずそうにコーヒーを口に運んだ。
えっ……なっ……何それ、本当に?
知らなかった。
いつも必死すぎて、自分がどこをどうしてるとか……考えたこともなかった。
私は……自分が思うよりずっと淫乱だったりするのだろうか?
ひょっとして今も、朝から盛ってるな~……って呆れられてる!?
恥……かし……。
恥ずか死ぬ。死んでしまう。
俯き、間を保たせるためにとりあえず私もコーヒーをすすったものの、恥ずかしくて顔が上げられない。
無言の間が辛くて、ちらっと横目で雅を見れば、口元を手で押さえながら必死に笑いをこらえていた。
「ち、ちょっ……! 何笑ってるの!」
「や、笑ってない。笑ってない。美亜、可愛いなぁって。誘ってくれたのが嬉しいから、なんか頬が緩んじゃって」
「……くうぅっ……」
呆れられてはいないみたいだけど、相変わらず雅の方が余裕がある気がして悔しい。
「で? 結局するの!? しないの!? わ、私はもうそんなこと聞いちゃった手前、恥ずかしいし、しなくてもいいんだけど!!」
私が半ば喧嘩腰になっていても、雅は嬉しそうにおっとり笑った。
「しようよ。どうするのなんて、そんなの訊くまでもないでしょ? 俺は今もずっと、美亜がコーヒーを飲み終わるのを待ってるんだけど」
顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
バカなこと言うんじゃなかった。
コーヒーの味なんてもう分かるわけが無い。
再び雅が私の隣に腰かける。
髪を撫でられていた時よりもずっと近い距離で、動けば体がぶつかりそうだった。
首をすくめて縮こまりながら、やっとの思いでマグカップに口をつける。
「そんなにちょっとずつ飲まなくても……そろそろコーヒー冷めたんじゃない?」
「……飲み終わるのを待ってるなんて言われて……慌てて飲んだら、なんかガツガツしてるみたいじゃない……」
「そう? それなら、こっちも相応に応えるよ」
至って真面目に答えてくる雅に、顔の温度がどこまでも上がる。
そんな雅にも、ちょっと興味あるかも……て、そうじゃなくて!
「いやいやいや。私から誘っておいてなんだけどね。これでも緊張してるの! 口から心臓が飛び出そうで、胸がいっぱいで……。な、なかなか上手く飲めなくて……」
ぶるぶると手が震えて、マグカップのコーヒーには波紋ができている。
そんな私を雅はポカンとしながら眺め、フッと息を吐きながら笑った。
「もう無理して飲まなくていいのに……」
「嫌だよ、せっかく雅が煎れてくれたのに!」
「……律儀だなぁ」
会話はそこで途切れて、暫くの間、お互い無言になる。
雅は私とは対照的で、穏やかに微笑みを浮かべて待っている。
緊張していると言った私に気を使ってくれているのかもしれないけど、体が触れる距離に座ったのに、それ以上のちょっかいは出してこない。
散々ドキドキすることを言う癖に、潔く引く所は引いて、上手に私との歩幅を合わせてくる。
優しい。
でももどかしい。
我が儘だってわかってるし、この距離感が私を夢中にさせるのかもしれないけど……。
私は少しずつコーヒーを飲み進めて、やっぱり胸が苦しくなって、息を深く吐きながら頭を雅にもたれかけた。
「ねぇ…………」
自分でもびっくりするくらい甘い、猫のような声が出た。
先の言葉を何も考えていなかったから、頭の中が真っ白になる。
内心慌てふためく私をよそに、雅は溜息をついて「急かすつもりはなかったけど……」と前置きした。
「随分と……翻弄してくれるよね……?」
「……ち、ちが……。そんなんじゃ……」
「余裕のあるフリはもう終わり。飲ませてあげようか?」
雅は私からマグカップを受け取って、ひと口分を口に含む。
顔を近づけられて反射的に目を瞑ると、雅はそれを肯定と受け取った。
ベッドが軋む度、シーツにシャツにコーヒーをこぼしてしまわないかと冷や冷やしたけど、雅はそんなことどうでもよさそうだった。
最後のひと口を飲み込んだのは、私だったか雅だったのかも曖昧で、不覚にも興奮させられていたのは……きっと、そう。カフェインのせい。
ちなみに腰については。
意固地に無反応を決め込んでやろうと思っていたけど、無駄な努力で終わった。
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